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神様の恋愛事情。 作者:563

神様と私の出会い編

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神様は、自覚しない

「美空ねーさーんっ!」



そんな声が外から聞こえて、私は目を覚ました。
目を擦りながら外をみれば、すでに朝日が昇っていた。まだ朝なのに、昼間のように暑く蝉がジージーと鳴いていた。顔をしかめながら背を伸ばす。

布団に入らずに寝ていたので体が痛い。そんな辛い体にムチを打ちつつ、サンダルを履いて引き戸を開けた。


扉の前に立っていたのは学ランを着た金髪の男。いや男と言うよりは男の子と表す方が正しいかも知れない。彼は源さんの孫で小太郎くんといい、源さんは小太郎くんに私へ用事を頼んだりしては、こうやって会いに来る。そんな小太郎くんは反抗期らしく顔をしかめながら「じーさんに頼まれた」と持っていた包みを私に渡す。私はそれを受け取りながらありがとう、というと彼はふん、と鼻を鳴らす。


「漬け物だって、じーさんもお節介だよな。嫌なら美空ねーさんも断った方がいいぜ?」
「源さんにはお世話になってるし、お漬け物おいしいからありがたいよ。」
「ふーん。」


小太郎くんは金髪の頭を掻く。中学生らしく金髪に憧れる年頃らしい。金髪に髪を染めたときにはとんでもなく怒られたらしい。源さんは笑っていたそうだが、


「ああ、そういえば神様にあったよ。」


ここに来たばかりであまり話し相手のいない私は小太郎くんに昨日のかなり色濃い一日の体験を話すと、小太郎くんは「春様に会ったんだ、」と親しげな感じで笑った。彼も春様と親しいらしい。


「掃除、ありがとう。近いうちに行かなきゃと思ってたんだけどな、」
「すぐに汚れるの?あの神社。」
「そうなんだよな、なんでかわかんねぇーんだけど。まぁすぐに掃除すればいいことなんだけど。」


そういう小太郎くんは軽く笑う。笑顔が眩しい。流石若い子は違う。まさに青春真っ盛りである。私もその爽やかの微笑みに笑みを返すと、後ろからもう会いたくないと思っていた聞き慣れた声が聞こえた。


「コタ、それには及ばないよ。あの神社はこれから美空ちゃんに掃除して貰うことにしたから、」
「―――は、春様?」


小太郎くんはぎょっとしながら私の後ろをじっと見ている。私も振り返ってみれば春様は部屋の戸口から半分顔を出して覗いていた。さっきまで、起きたときもいなかったのに!

私は驚いて滑稽にも口を開け、春様を指さして見る。小太郎くんはすぐに落ち着いて春様に話しかける。


「春様、ここにいたのですか。」
「うん、それよりコタ、そのことをみんなに伝えておいてね。」
「ちょっと待って下さいよ!私がなんで!?」


こちらからひっそり覗いている春様は小太郎くんはら視線を外して私を見た。それと同時に春様はぽっと、頬を染める。着物の袖は弄りながら私からすぐに視線を外した。その様子を見ていた小太郎くんは玄関に置いてあった置き時計を見た後に「やべっ」と叫んで早口で私に言う。


「学校やばいんで、いってきます。美空ねーさん漬け物のタッパーはあげるって言ってた。じゃあ、春様そのことはじーさんに言っておきます。じゃ!」


そういって、小太郎くんは元気よく走っていった。待ってと伸ばして私の手は遅く、そのまま宙で止まったままだ。目で小太郎くんを見送ったあと、ちらりと恥ずかしそうにしている春様を見た。


「なんで、私が神社の掃除を……。」
「……昨日、一生懸命やってくれたし、適任かな、と。」


私はそれに反論しようとすると、春様が「それより、」と話出す。それよりじゃない!と春様を睨むと、目元を染める春様は色気を醸し出していて、朝っぱらから何やってるんだこの人、と頭を抱えたくなった。


「昨日の夜は辛くてね、美空ちゃんの事ばかり考えていて……胸が苦しくて切なくてすぐにでも会いたかったのだけれど、朝まできたのだよ。」
「…………はぁ、」
「この気持ちは何なのだろうね、お陰で神社の桜を戻しても戻しても満開なのだよ……」


憂いに満ちた顔で私をちらりと見る。
うっ、なんだ。色仕掛けなら他を当たって欲しい。さ、っと顔を逸らせばこちらからひっそり覗いていた春様はこちらに近づいてきていた。


「…………いきなり近づくのはやめませんか?」


呆れながら目の前にいる春様を見上げる。しかもすごい近いし。すると春様はかっ、と。頬を染めて私の肩を掴み遠くへ押しやった。私のその勢いに押され後ろから倒れそうになるところを春様が支えた。驚いた私は声を上げる。


「ど、どうしたんですか……!?」
「…………私はどうしたのだろうか?」


疑問を疑問で返されてもこっちが困る。

春様は耳まで赤く染めて私を見ている。私は背の高い春様に顔を近づけるようにして、ぐぐっと顔を近づけると、春様は驚いて顔を背ける。それと同時に肩にある春様の手がぎゅっと力が込められる。


「肩、離してくれませんか?」
「す、すまない。」


そういうと、春様は慌てて肩を離した。が、やはり私と顔を合わせない。


「春様、どうしたんですか?」
「い、いやべつに……。」


おろおろし出す、春様。
神様ってよくわかんないなぁ。まぁ、分かんなくて当たり前なんだけど。そう思いながら、結んである黒くて長い、ゆらゆらと揺れる黒髪を眺める。

と、足下になにかふわふわした物が触れてびくっと驚いて足下を見ると、目つきが少々悪い黒猫が居た。みにゃー、と鳴く猫に私はじっと見つめ、春様はその黒猫を見て赤い顔を隠すように黒猫を抱き上げた。


「こんな所にいたのか、クロ。」
「……なんで、私の家に。」
「もともと、住み着いていたんだよ、……美空ちゃん猫大丈夫?」
「大丈夫ですが……。」


赤い顔はどこへやら、自分の話題が無くなると共に春様の赤い顔ではなく微笑みに変え黒猫を愛しそうに撫でる。

私はここに来て何日か経つが、この黒猫には出会ったことはない。黒猫は私の顔を見てお前誰だ、とでも言うように「にゃー」となく。なんだか馬鹿にされたようだ。動物にはあまり好かれない私はその猫を撫でようともせずに春様と黒猫の様子を見る。


私の家には他に何が住み着いて居るんだ、と思った。
この家の前住人は神様が住んでいたのだからきっと色々と住み着いていそうな気がする。そうなると溜め息が尽きない。



小太郎くんは不良憧れる絶讃反抗期中学生です。
神様は浮かれすぎて戻しても戻しても桜満開。桜もいい迷惑だろうな。
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