殺処分:ゼロへ「地域猫活動」 現場を見る 長野
毎日新聞 2015年07月12日 18時00分(最終更新 07月12日 20時38分)
長野県内では昨年度約1500匹の野良猫が保健所に収容され、約6割が殺処分されている。中でも飯田・下伊那地域を管轄とする飯田保健所は引き取り、殺処分とも最多だ。譲渡会の開催などが奏功し、最近は年々減少しているものの、依然として他地域と比べ抜きんでている。上田市などでは地域ぐるみで猫を管理する「地域猫活動」の取り組みが一定の成果を上げているが、飯田・下伊那地域ではまだ認知されておらず、実施の動きもない。同保健所は対応に苦慮している。【湯浅聖一】
「人懐っこくて可愛い」。6月28日に飯田市の飯田合同庁舎で開かれた猫の譲渡会。1人で訪れた女性が気に入った子猫をケージから取り出し抱き上げた。女性は主催した飯田保健所の職員にその猫の性格などを聞きながら考えた末、もらうことを決めた。
保健所では譲渡する際に、終生飼養▽避妊・去勢手術の実施▽室内飼育−−の3点を誓約する書類の提出を求めている。保健所に持ち込まれる野良猫の多くは、望まない繁殖で増えたため、飼い主が困って捨ててしまう例が多いからだ。女性は書類に署名し、子猫を入れた段ボール箱を大事に抱えるようにして帰って行った。結局、この日は13組21人が来場し、成猫を含めた15匹のうち4匹が新しい飼い主にもらわれた。
同保健所によると、2007年度に引き取った猫は786匹。このうち31匹が返還・譲渡され、残り755匹が殺処分された。同年度の引き取りが339匹、殺処分が315匹の上田保健所と比べて倍以上で、県全体でも25%を占める。
飯田保健所は13年度から年3〜4回の譲渡会を開始。返還・譲渡数が前年度の81匹から121匹に増加し、殺処分数は452匹から278匹に減少するなど改善をみせている。しかし、依然として県内11保健所の中では多く、殺処分に至っては6年連続最多だ。同保健所食品・生活衛生課の松沢寿次課長は「譲渡会も限度がある。地域猫活動も普及させたいのだが」と危機感を募らせる。
地域猫活動は、飼い主のいない猫を地域住民が餌やりや避妊・去勢手術などの面倒を見る取り組み。殺処分を減らす有効策の一つとされている。県は02年度から避妊・去勢手術費を補助し地域猫活動を支援。13年度には164地区に広がったが、飯田・下伊那地域では行われていない。活動を担うボランティア団体がないからだという。
上田市では上田保健所が積極的に地域と関わることで、地域猫活動の浸透を図っている。保健所の助言で11年に結成された「東前山ネコの会」もその一つだ。藤極(ふじぎわ)ゆきえ代表は「最初は住民に理解されず、物好きのような目で見られたが、保健所が自治会長にお願いしてからは協力的になった」と話す。当初30匹以上いた野良猫も現在は10匹程度に減少。殺処分を減らす一助になっている。
ただ避妊・去勢手術費は雌で2万〜3万円、雄で1万〜1万5000円が相場で、県の補助があってもボランティアの負担は大きい。上田市や松本市などのように独自に補助制度を創設している自治体もあるが飯田市にはない。飯田保健所の松沢課長は「猫はネズミ捕りのために飼っているという意識が強い地域。地域猫活動に取り組んでくれるボランティアの育成が必要」と課題を上げる。
「猫も一つの命。人間の身勝手さで増えた野良猫が殺処分されるのは耐えられない」と藤極代表は言う。殺処分をゼロにするには、飼い主の意識を変えるのと同時に、住民の理解と協力、行政のサポートが欠かせない。