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恋する食用うさぎ

恋する食用うさぎ

作者:小択出新都
 獣人というのは、動物に変身できる人間だ。
 もしくは人間に変身できる動物かもしれない。
 「そんな曖昧な。」と言われるかもしれないけど、実際、曖昧にしか分かってないのだ。
 獣人というのはそういう種族の集まりがあるのではなく、獣人は突然、人間の間から生まれ落ちる。
 生まれる時も獣の姿だったり、人間だったり、耳と尻尾が生えた姿だったりみんなばらばら。獣の種類もライオンだったり馬だったり鳥だったりみんなばらばら。
 病気だという人もいれば、何かの呪いだという人もいる。原因も現象もなにひとつわからない。ただひとつわかっているのは、獣人はほとんど人間扱いされないということだ。
 獣人を生んだ親のほとんどは、その子供を捨てるし、大きく育てても人間としてではなく家畜や奴隷のように扱うことが多い。優しい両親だったりすると、ちゃんと人間として育ててくれることもあるが、周りの視線は厳しくいじめられたり迫害を受けたりする。
 珍しい動物だったり可愛かったりすると人買いに売られて、好事家に引き取られたりする。引き取られた獣人は衣食住満たされた生活ができ、大切に扱ってもらえることが多い。でもそれは決して人間扱いされているからではない。珍しいペットとして大切にされているのだ。それでも獣人としてそれが一番幸せな道なのかもしれない。
 獣人として生まれた子供の6割は捨てられ死に、残り3割は奴隷かスラムの住人になる。奴隷扱いされたり、スラムで暮らして長生きできるはずもなくその子たちも大抵20歳になるころには亡くなる。寿命を迎えられるのは、ほんの僅かな残った獣人たちと、愛玩動物として飼われ続けた獣人たちだけ。
 人間から生まれながらも人間になれなかった動物。動物として生まれながらも動物にはなれなかった人間。それが私たち獣人なのかもしれない。

名も無き獣人の手記

***

 わたし、ミミは幸せな獣人だと思う。
 人間の姿で生まれたわたしは、獣人と気づかれずに8歳までお母さんやお父さんと暮らすことができた。はじめて変身して獣人とわかったとき、お母さんは「獣人なんて捨てろ!」というお父さんから必死でかばおうとしてくれた。結局、捨てられることになったが、やさしいお母さんは泣きながら獣人を襲おうとする人のいない静かな森までわたしを運んでくれた。
 森の中にとりのこされたわたしは最初はわけもわからずに泣いてしまった。泣いても叫んでもお父さんが探しにきてくれることはなく、お母さんがやさしく頭をなでてくれることもなかった。そのうちお腹がすいて、泣くこともできなくなった。
 ばんごはんの時間になっても、お母さんの特製シチューも、シチューをつけて食べる固めのパンも出てこない。
 わたしはお腹をすかせたまま森の中をあるいた。でもごはんになるようなものは見つからなかった。
 どんどんお腹がすいてるのに、何も見つからずこまったとき、ふとひらめいた。
 わたしはうさぎの獣人だからもしかしたら草がごはんになるかも。
 さっそく変身して草を食べてみた。空腹のせいかなかなかおいしくてもしゃもしゃ食べた。
 ごはんを食べ終わると、これからどうしようと思った。お母さんをさがそうかと思ったが、お母さんはわたしを置いていくとき言った。「ごめんね、もう一緒に暮らせないの。もう会えないの。この場所で元気にくらして。」と。
 ならもうお母さんを探しちゃいけないのかもしれない。あの村には帰っちゃいけないのかもしれない。なんとなくそう理解できた。
 わたしはこれからどうしようか途方にくれた。でも結局、この場所にいることにした。ここにはごはんがたくさんあるし、きれいな川もあってお水だってのめる。獣人だとわかったとき、おそろしい顔でつめよってきた村のおじさんたちもいない。ここは安全でとてもいい場所だ。ひとりぼっちで寂しいけれど…。
 わたしはしばらくお母さんがわたしを置いていった場所でくらしつづけた。
 お腹がすいたら草をたべ、川で水をのむついでに水浴びしてあそんだりして、つかれたら木の根っこのあいだでおやすみした。
 そんな生活はとつぜん終わりをつげた。
 いつもとおなじくごはんの草をむしゃむしゃと食べていたとき、とつぜんおしりのほうから草がゆれる音がした。
 グルルルルゥ
 振り向くと犬がうなり声をあげながらわたしをにらんでいた。
 犬といってもまーくんが飼ってたようなかわいい犬じゃない。その顔はするどくやせほそっているのに、目だけは森のくらやみでにぶくひかっていて。とてもとても恐ろしかった。
 寒くもないのに体がこきざみにふるえだした。頭がくらくらして、目の前がまっさおになって、いまにも気絶しそうなのに、こころの中の何かがひっしに警笛をならしてそれをとめる。
 だめ。だめ、逃げなきゃ。
 体がうごかない。相手もまだうごかない。
 そしてわたしの足がむいしきにあとずさり、落ち葉をふみしめたとき相手がうごきだした。
 口を大きくひらき、ぎらぎらと光るきばを見せつけ、犬のおおきな体が空からせまってきて。きおくはないのにわたしは走り出していた。
 犬のすがたは見えない。すごいいきおいで森の木々がうしろにながれていく。しんぞうは今までにないほどどくどく跳ね、こわれてしまうんじゃないかと思った。それなのに後ろから音が聞こえる。とっとっと、と森のじめんをふみしめる足音が。その音を聞くたび、頭のなかでしろいひかりがちかちかする。
 右に、左に、坂に、木のあいだをくねくねと、いままで走ったことのないはやさではしる。でも後ろの足音は決してはなれない。
 おかあさん!たすけてお母さん!
 だめ、お母さんはもうたすけてくれない。
 お父さん!
 お父さんはわたしをぶったじゃない。なぜ、獣人なんかにうまれたんだ。おまえなんかいらないと。
 ちーちゃん、まーくん、ゆうくん、けいおねえちゃん、ふぃるおにいちゃん
 みんなみんな、獣人とわかった日からわたしをなかまはずれにした。つめたい目でみてきた。
 ひときわ強いあしおとが頭のなかにひびいたとき、足に激痛がはしった。
「ぁぅ!?」
 噛みつかれたとわかった。右後足にじわじわとしたしびれがひろがっていく。それでもはしるのはやめない。こころが絶望と恐怖に凍えそうになるのを、ひっしでとめて走り続ける。
 息がつまりひっきりなしに呼吸がえづく。涙がじわっと目からあふれてくる。
 もう限界はそこまできていた。
 でもその前に決着はついた。
 もう一度聞こえた強くじめんをける音。ぐるぐる回る世界。木のみきに背中がぶつかって、痛みとともに体がとまった。
 起き上がろうとした。でももう前足も後ろ足もうごかない…。
 運がわるいのかもしれない。ちょうど視線は野犬にあっていた。
 しろい息を吐き、ゆっくりゆっくり歩いてくる。口がひらきするどい牙のおく、まっ赤なまっ赤な喉がみえた。
 わたし死ぬんだ。そう思った…。
 だれも助けてくれる人はいない。わたしはひとり。
「ふぇっ…。」
 ひくひくと体がふるえて、涙があふれる。
「ひっくひっく…。」
 わたしは泣きだした。犬がそれで助けてくれるわけないのに。
 そしてかすれた小さい声で、でも叫んだ。
「たすけて…たすけてぇーっ…」
 助けなんてくるはずなかったのに。
 でも、助けはきた。
 まっ赤にそまった視界から、急に犬のすがたがきえた。
「ぇ…。」
 わたしがくびをかたむけると、首に矢をつきたてられしんでいる犬のすがたがあった。
「大丈夫かっ!」
 ばたばたと馬のひづめの音がして、まだ若いといってもわたしよりはだいぶん年上の少年がすがたをあらわした。さらさらと風にながれる金色の髪に、青くきらきら輝くひとみ。さっきまで死にかけていたのに、わたしはその瞳にみほれてしまった。
 少年はとまどったようにあたりをきょろきょろ見まわしている。
「あれ…。」
「セルドさま、急に駆け出されてどうされたのですか!」
 その後ろから馬にのった大人の男があわてたようすですがたをあらわした。
「いや、悲鳴が聞こえたんだよ。それで野犬の姿が見えたから、きっと人が襲われているにちがいないと。」
「人…?うさぎしかおりませんが。」
 いぶかしげに周囲をみわたしそう言う青年に、どうやらえらい人らしい少年はこまったように頭をかく。
「うーん、確かに聞こえたんだけどなぁ…。」
「また適当に理由をつけて勉強の時間をさぼろうとしたのでしょう。メイ先生には報告させていただきますからね。きっときつい罰をくださいますよ。」
 わたしは慌てた。少年がわたしをたすけたせいで、なにか罰をうけそうになっている。
「あ、あの、ひめいをあげたのはわたしです。そのひとのいってることはうそじゃないです。」
 わたしが声をだすと、少年も青年も驚いたようにわたしを振り向いた。
「獣人だったのかっ。」
 ふたりの目が驚いたように見開かれ、わたしを見て、わたしの体はびくんっとふるえた。
 そうだ…。獣人は嫌われているんだった。村の人たちも獣人とわかったとき、わたしをおそろしい表情で見てきた。
 せめてお礼だけ言ってはやく立ち去ろう。そう思った。
「たすけていただいて本当にありがとうございました。このごおんはわすれません。」
 わたしは深く頭を下げると、くるりと振り返り動かない後ろ足をひきずりながらも森の方にもどろうとした。
 でも、わたしの体はひょいっと脇に手をいれられもちあげられてしまう。
 わたしはおもわず手足をじたばたさせてしまう。
「こらっ、暴れないで。うん、怪我してるね。」
 わたしを持ち上げた少年はしげしげとわたしのあしを見るとうなずいた。
「シュウ、この子は連れて帰るよ。」
 わたしはその言葉におどろいて、背中をそらして少年の顔をまるっとみつめてしまった。でもシュウと呼ばれた青年のほうは、別段驚いた様子もなくため息をひとつついた。
「はぁ、セルドさまの気まぐれをいちいち止めるなんて無駄な苦労はいたしませんよ。ご自由にどうぞ。」
 少年はきれいな笑顔で笑うと、わたしに瞳を向けた。
「ねぇ、君。僕がメイ先生の罰をのがれるには、君の証言が必要なんだ。僕と一緒に来て、メイ先生にさっきのことを説明してくれるかい?」
 目のまえの少年はいのちの恩人だ。少年が助かるなら。わたしはこくりとうなずいた。
「君の名前はなんて言うの?」
 少年にそう聞かれて、わたしは自分の名前をおもいだそうとした。森のなかでくらして長いことよばれていなかったので、すぐには出てこなかったのだ。
 でもわたしが思いだすあいだに少年の気はかわったらしい。
「いや、僕が名前をつけよう。きれいなかたちの耳をしているし、ミミなんてどう?」
 わたしはもう自分のなまえを思いだしていたが、でもそれはもうだれもよばない名前だった。だから少年がくれた新しい名前のほうがいいとおもった。
 こくり、わたしが頷いたのを見て、少年は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「そうか。じゃあ、君は今日からミミだ。よろしくね、ミミ。」
 そう少年は言い、わたしの体をやさしく抱き、あたまをなでてくれた。
 そしてこの日から、その少年はわたしのごしゅじんさまになった。

***

 ごしゅじんさまの家に連れてこられたわたしはびっくりした。
 そこはお城だったのだ。おっきなおっきなお城で、たくさんの人が働いていた。
 働いている人たちはみんなごしゅじんさまに頭を下げ「殿下」と呼んだ。
 ごしゅじんさまは王子さまだったのだ。しかもただの王子さまじゃなく、こうたいしさまというものらしい。よくわからないけど、凄そうだった。
 お城についたわたしは、侍女の人にあずけられごしごしと洗われた。ずっと森の奥にいたわたしはとっても汚れていたのだ。汚れがおちると、やわらかいタオルで体をふかれた。
 そしてきれいになったところでごしゅじんさまに返された。
「きれいになったね。本当はもも色だったんだ。」
 鏡をみると、確かにうすいもも色だった。森にいたとき、川に映る自分のすがたは、よごれていて灰色かかっていたので、わたしははじめて自分の毛の色を知った。
 ごしゅじんさまはわたしをつついたり、撫でたりして一通り遊ぶと、わたしの体をしげしげと見て言ってきた。
「そういえば獣人って人間になれるんだよね。ミミも変身できるの?」
 こくんと頷く。
 実をいえばわたしは自分が人間にへんしんできることをすっかり頭の外に置きわすれていた。それに長いことことばを話さなかったので、しゃべることも苦手になってた。
 ごしゅじんさまが変身してほしそうにしてるので、わたしは体にぐぐっと力を込めた。
 うさぎの体が変化してあっという間に人間になる。
「どうですか?」
 わたしが首をかしげごしゅじんさまに聞く。
 ごしゅじんさまは笑って「服を着せないとね。」と言った。
 どうやらはだかんぼだったらしい。慌てたように駆けつけてきた侍女さんに連れて行かれて服を着せられた。今まで着たことがないようなとっても綺麗なドレスでびっくりしてしまった。
 それからごしゅじんさまのお部屋に戻されたけど、ごしゅじんさまはいなかった。
 侍女さんたちに、セルドさまはメイ先生の授業を受けにいきましたと教えられた。わたしはごしゅじんさまに証言してほしいと言われていたのを思い出してあわてたが、侍女さんたちにシュウさまが説明してくださったので大丈夫ですよと教えられて安心した。
 わたしは紅茶(はじめて飲んだ!)をのみながらごしゅじんさまを待つことになった。侍女さんたちが出してくれたくっきーは、とってもあまくて口のなかでとろけて信じられないほどおいしかった。
「ふう、罰じゃないとかいっておきながら、遅れてきたからとこの時間まで授業を延長されてしまったよ。」
 お部屋の窓から夕日が見えなくなったころ、ごしゅじんさまが戻ってきた。
「おいで、ミミ。」
 笑いながら両手をひろげるごしゅじんさまに、わたしはすぐに椅子をおりてかけよった。
 近くまでくるとごしゅじんさまに抱き上げられ、腕のなかにおさめられる。
「ぼくがいない間、暇じゃなかったかい?」
「だいじょうぶでした。」
 くっきーや紅茶、部屋のなかの見たこともないもの、侍女さんたちもこまごまとお世話をしてくれて、わたしは退屈することはなかった。
 くっきーがとてもおいしかったと伝えると、明日もたくさん用意させようとごしゅじんさまは言ってくれた。
「ミミはどこから来たの?」
「森です。」
「森に来るまえはどこにいたの?」
「村にいました。」
 わたしはごしゅじんさまの質問に、素直に答えていく。
「ミミはその村に帰りたい?」
 わたしはくびをふった。
「帰ってきちゃいけないと言われました。」
「そっか。じゃあ僕と一緒にいる?」
 ごしゅじんさまは命の恩人だし、誰よりもやさしかった。わたしは一緒にいたいと思った。
「はい、一緒にいたいです。」
 わたしの答えを聞いてごしゅじんさまは微笑んだ。
「じゃあこれからはずっと一緒だよ。よろしくね、ミミ。」
 ごしゅじんさまとずっと一緒だと聞いてうれしくなったわたしは、笑顔でごしゅじんさまに返事をした。
「はい、よろしくおねがいします。ごしゅじんさま。」
 わたしのことばを聞いてごしゅじんさまは一瞬変な顔をしたが、まあいいかと呟きわたしのあたまを撫でてくれた。
 わたしは抱き上げられたままベッドに寝かされると、ごしゅじんさまの腕のなかで眠りについた。

***

 その日から信じられないような生活がはじまった。
 毎日おいしいごはんが食べさせてもらい、きれいなドレスを着せてもらえる。おやつにはくっきーが出て、おふろにだって入れてもらえる。ごしゅじんさまが暇なときはあそんでもらい、夜は一緒にふかふかのベッドで寝る。
 べんきょうもさせてもらい、あまり利発ではない、と控えめにだめだめだと評価されてしまったけど、文字の読み書きはできるようになったし、少しは頭もよくなったきがする。
 わたしは侍女さんたちから「ミミさま。」と呼ばれる。
 勉強をして侍女さんたちがみんな貴族だと知ったわたしはとまどったけど、「セルドさまの大切なミミさまを呼び捨てにすることなどできません。」と言われたのでごしゅじんさまが素晴らしい方だからと思うことにした。
 勉強して獣人には不幸なひとがたくさんいることを学んだわたしは、自分がしんじられないくらい幸せな獣人だとわかった。
 そんなとっても幸せな生活だったけど、ひとつだけ悩みがあった。
 それはごしゅじんさまに何もご恩返しができないことだ。
 命をたすけてくれたごしゅじんさま。お母さんにもお父さんにもすてられたわたしを拾ってくれたごしゅじんさま。優しい人にかこまれた幸せな暮らしを与えてくれたごしゅじんさま。
 なのにわたしがごしゅじんさまに出来ることは何一つないのだ。
 勉強も、お仕事もわたしは手伝うことができない。高価な贈り物をすることもできない。
 ごしゅじんさまには感謝してもしきれない恩があり、何よりごしゅじんさまのことが大好きだ。
 ごしゅじんさまにせめて何かひとつでも恩返しをしたかった。
 12歳になったとき、わたしはその方法を見つけた。
 その日ごしゅじんさまが忙しく、暇をもてあましたわたしは図書館でちんじゅう図鑑という本を眺めていた。なんとなく手にとったものだった。
 そこで見つけたのだ。わたしとそっくりのうさぎの絵を。
 うすもも色のそのうさぎの名前は、サクラウサギと言う名前で食用だと書かれていた。とてもおいしくてむかしみんなが獲ってしまったせいで、今ではめったに見つからないらしい。
 これだ!
 わたしは思った。
 ごしゅじんさまにわたしをたべてもらう。それがわたしでもできるごしゅじんさまへのせめてものご恩返し。
 高級食材と書いてあったので贈り物としても見劣りしないはずだ。
 死んでしまうのはこわい。けど、わたしの命はごしゅじんさまに助けてもらったものだ。ごしゅじんさまが喜んでくれるのなら、ごしゅじんさまにお返しができるのならこわくはなかった。
 わたしはさっそく料理長さんに、わたしを調理してくださいと言った。
 ことわられた。
 料理長さんたちが普段使う食材にも見劣りしないはずなのに。
 仕方ないからごしゅじんさまに「わたしを食べてください。」と言った。そうしたら、「そんなこと言ったらだめだよ。」と怒られた。
 何故だろう。きっとおいしいはずなのに。
 しょげたわたしに調理場の下働きのおねえさんが、いいことを教えてあげると言ってきた。普段は侍女さんたちに、あの人には近づいてはいけないと言われていたが、わたしはいいことが知りたくてついていった。
 なんとうさぎは3歳ごろまでが食べごろで、それ以降は肉がどんどんかたくなってしまうらしい。わたしのうさぎの姿はもう3歳ぐらいあった。はやく食べてもらわないと、どんどんおいしくなくなってしまう。
 時間がないとあせったわたしに、おねえさんは塩と胡椒をかけて焼けば肉はおいしくやけるって教えてくれた。
 わたしは塩と胡椒をかぶり、かまどのなかに飛び込んだ。
「きゃー!ミミさまが!」「はやく火を消せ!」「セルドさま!」「殿下危険です!おやめください!」
 たくさんの悲鳴が聞こえた。
 じゅうっと肉のやける音がした。体を覆った熱さはすぐになくなり、わたしは自分が死んだのかとおもった。でも、目を開くとごしゅじんさまの悲しそうな顔があった。
 すぐにお医者さんがやってきて、わたしのからだとごしゅじんさまの手に薬を塗り、包帯を巻いた。
 仕事からはやめにもどってきたごしゅじんさまが、わたしが調理室にいったことを知り、わたしがかまどに飛び込むのを見て、素手で助けだしたのだと知る。
 それから二日間はずっとベッドに寝かされたままだった。
 意識をとりもどしたわたしは、ごしゅじんさまにすごく怒られた。
「何故こんなことをしたんだい。」
 悲しそうな目をしながら怒るごしゅじんさまに、わたしも自分がやったことを後悔した。
 たしかに勝手にうさぎの丸焼きができたら、料理長さんたちが夕飯の献立に困るかもしれない。ごしゅじんさまだって、今日は肉類はやめて軽いものがいいと思ってたかもしれない。
 何よりも、ごしゅじんさまの手にやけどを負わせてしまった。
 みんなに迷惑をかけてしまった。
 悲しくなったわたしは、ごしゅじんさまに何か恩返しがしたかったことを泣きながら告げた。だからせめて一番おいしい時期に食べてほしかったのだと。
 するとごしゅじんさまは怒るのをやめて、やさしくわたしの頭を撫でながら言ってくれた。
「時期が来たらちゃんと僕がミミを食べるから。もう勝手にこんなことしちゃだめだよ。」
 ちゃんと食べてくださる。そう聞いて、わたしはほっとした。
 もしかしたら、ごしゅじんさまは固めのお肉がすきなのかもしれない。好みはひとそれぞれで、やわらかい3歳が食べごろとは限らないのだ。ごしゅじんさまがそう言ってくれるなら心配することなど何もなかった。
 火傷がなおったわたしは、ごしゅじんさまが食べてくれるのを待つことにした。
 でも努力はおこたらない。料理長からおいしい肉には健康が一番と聞いて、毎日のお散歩と柔軟体操をすることにした。ごしゅじんさまもそれに付き合ってくれた。
 した働きのおねえさんは、どこかへ旅にでかけたらしくもう会えなかった。
 無駄になってしまったけど、いろいろ教えてもらえたお礼を言おうとおもっていたのに。

***

 わたしは明日で14歳だ。
 最近のわたしのマイブームはりんごをたくさん食べることだ。
 これをりんごを食べてそだった牛はとてもおいしいらしいので、うさぎだっておいしくなるはずだ。
 いつごしゅじんさまがわたしを食べたいと言ってもいいよう、じゅんびは万全に整えていた。
 この日、侍女さんたちはとてもいそがしそうにしていた。
 誕生日には毎年ごしゅじんさまとふたりっきりで過ごして、おいしいケーキを一緒に食べるのだ。わたしは明日がまちどおしくて、はやめに寝ようとしたら、侍女さんたちに止められた。
 お風呂につれていかれて、体をごしごしと洗われた。
 わたしはぴんと来た!
 あたらしい下働きのおばさんに、食材はていねいに洗うのが肝心だと教わったからだ。
「わたし食べられるんですか?」
 とわたしの背中をあらう侍女さんに聞くと、侍女さんはくすりと笑って答えてくれた。
「食べられてしまうかもしれませんね。」
 やった!
 ついにごしゅじんさまに食べてもらえる時が来たのだ。わたしは握りこぶしをつくり、ぐっと気合をいれた。うさぎになる。
 さあどうぞ美味しく料理してくださいと仰向けになったわたしは、侍女さんたちにだめだしされた。
「ミミさま、人間の姿にお戻りください。」
 むむっ、うさぎの姿じゃだめなのだろうか。こっちのほうが美味しいとおもうのに。もしかしたらボリューム重視なのかもしれない。
 人間の姿にもどったわたしは体をふかれ、白い薄いドレスを着せられる。
 飾りつけだろうか。
 おうぞくであるごしゅじんさまへ出す料理には確かに飾りつけも肝心だった。でも調理前から飾り付けて意味があるのだろうか。
 首をかしげていると、そのままごしゅじんさまのお部屋に運ばれる。
 もしかして生で食べるのだろうか。お刺身と言うことばが頭にうかぶ。
 まもなくごしゅじんさまがやってきた。
「きれいだよ、ミミ。」
 やさしい手があたまにおかれる。
「おいしくたべてくださいね。」
「うん。」
 わたしのことばに、背中に腕をまわしたごしゅじんさまが答える。
 そうしてごしゅじんさまの口が近づいてくる。
 ついに食べられるときになったら、じわっとなみだがうかんできた。
 ごしゅじんさまに食べられて、ごしゅじんさまの役に立ててうれしい。でもごしゅじんさまとお別れするのは悲しい。今までのごしゅじんさまとの楽しい思い出が浮かんできて、うれしいのか、かなしいのかわからなくて。でも抱きしめられるぬくもりがうれしくて目を閉じた。
 ごしゅじんさまの唇の感触がわたしの唇にした。
 踊り食いかとおもったら、すぐにごしゅじんさまの口は離れる。
「味見ですか?」
 わたしはくびをかしげる。
 またごしゅじんさまの顔が近づいてきて唇があわさる。
「んっ」
 今度は舌が口のなかに入ってきた。ごしゅじんさまの舌は、わたしの口のなかをなでまわすと、わたしの舌に絡んでくる。
 ごしゅじんさまはタンがお好きなのだろうか。
 ごしゅじんさまが食べやすいように舌をさしだすと、うれしそうに舌を絡めてきた。
 そしてまた唇が離れる。また味見みたいだ。
「おいしいですか?」
 気になったので聞いてみる。
「おいしいよ。」
 笑顔で答えてくれるごしゅじんさまにわたしの気持ちもあったかくなる。
 良かった。お口に合ったみたいだ。
 それから、ごしゅじんさまはわたしをふかふかのベッドに放り投げた。ベッドはお皿じゃないですよ。と戸惑ったわたしだが、新品の真っ白なシーツを見てはっとなる。
 蒸し焼きだ。
 シュウマイとか肉マンとか中つ国の料理につかわれる技法。白い布をしいて水蒸気で焼くのだ。できたものはじっくり火が通って、みずみずしくておいしくなる。
 さすがごしゅじんさまはおうぞくだ。グルメだ。
 蒸されるのをどきどきしながら待っていると、ごしゅじんさまがベッドに乗ってきた。
 あれ、ごしゅじんさままで蒸されてしまいますよ。
 わたしがベッドから手で追い返そうとすると、ごしゅじんさまは「抵抗してもだめだよ。食べてっていったのはミミのほうなんだからね。」と言ってわたしの両手を片腕でこうそくしてしまう。
 一方、わたしは夕飯の献立がわからなくなって混乱してしまった。
 結局どうやってわたしを食べるのですか、ごしゅじんさま。
 わたしの混乱をよそに、ごしゅじんさまはわたしの首筋に口を這わす。味見しすぎですよ、ごしゅじんさま。
 それから全身をごしゅじんさまに味見された。飾りつけも全部はがされてしまった。意味がなかったですね。侍女さんたちごめんなさい。
 いろんなところを舐めてきたごしゅじんさまに、わたしは飴なのですか、と疑問符が浮かぶ。
 さすがにそれは無理がある気がする。
 ごしゅじんさまはわたしのいろんな場所を長い時間をかけて味見していく。
 わたしの全身を這っていた唇の感触が無くなり、目を開くとわたしの顔をやさしい表情で覗き込むごしゅじんさまの顔があった。青いきれいなひとみが、わたしの目にうつる。
 あの日のようにわたしはそれに見ほれてしまう。
「ごしゅじんさま…。」
「いまから僕がミミを頂くよ?本当にいいんだね。」 
「はい。」
 わたしは即答していた。ごしゅじんさまになら大丈夫。心はふしぎな安心感でつつまれていた。
 体の奥に痛みがはしった。これが食べられる痛み。でも怖くはない。とっても幸せな痛み。それからはあまり記憶になかった。
 気が付いたら、まだベッドのなかでごしゅじんさまが隣にいた。
 あれ?食べられたはずなのに、何故まだいきているのだろう。
 起きてたらしいごしゅじんさまは、わたしが目を覚ましたのに気づき微笑みながら話しかけてくれた。
「大丈夫だった?痛くない?」
「はい、大丈夫です。」
 まだ痛みは少し残っていたけど、むしろ食べられたはずなのに健康すぎて不安になるぐらいだ。手も足もうごかしてみるけど、どこも欠けたようすはない。
「ごしゅじんさま、ちゃんとわたしを召し上がられたんですよね。」
 わたしは不安になって聞いてみた。
「うん、頂いたよ。」
「おいしかったですか?」
「おいしかったよ。」
 ごしゅじんさまはやさしい笑顔で答えてくれた。ほっと息をつく。
 ごしゅじんさまがそう言うのなら、間違いなくわたしは食べられたのだ。安心できた。
「わたしはガムですか?」
 食べてもなくならないし。
「ミミはガムじゃないとおもうよ。」
 ベッドのなかでごしゅじんさまと話しながらあたまを撫でられる。
 ごしゅじんさまのやさしいぬくもりが、触れている場所からつたわってくる。とっても気持ちいい。わたしはうつらうつらとしてきた。
「寝てもいいんだよ。」
 ごしゅじんさまのやさしい声が耳にひびく。わたしはこれだけは伝えたくて、うまく動かない口をひらいた。
「ごしゅじんさま…。」
「なぁに?」
「だい…すきです…。」
「僕もだよ。」
 ごしゅじんさまの笑顔を見て、わたしは眠りの世界にたびだった。

***

 朝起きると、侍女さんたちにお風呂につれてかれた。
「ミミさま、おめでとうございます!」
 わたしの体を洗いながら侍女さんたちが、ごしゅじんさまに食べてもらえたことのお祝いしてくれる。
「ありがとうございます。」
 と笑顔で答える。
「火傷を負われたときは本当にどうなるかと思いましたけど、ついにミミさまも皇太子妃ですね。」
「こうたいしひ?」
 なんだろう。それはむずかしそうな名前だ。
「そうですよ。いずれは王妃さまです。」
「おうひ?」
 ごしゅじんさまのお母さまが似たような名前だった気がする。
 でも名前がどんどん変わっていくなんて、出世魚みたいだ。やず、はまち、めじろ、ぶり。
 もしかしたら、わたしもどんどんおいしくなっていくのかもしれない。またいつかごしゅじんさまに食べていただくとき、もっと満足してもらえるかもしれない。
「ミミはどんどんおいしくなっていくね。」
 そう笑顔で言ってくださるごしゅじんさまを想像してにまにましてしまう。
「うれしそうですね、ミミさま。」
「はい、うれしいです。」
 どんどんおいしくなって、ごしゅじんさまをどんどん満足させるのだ。
 お風呂から出ると、今度はすごく厚い白いドレスを着せられる。スカートが長くて、ずるずる地面にひきずってしまう。
「ウェディングドレスですよ。」
 裾をしきりにきにするわたしに、侍女さんたちがニコニコしながら言う。
 ウェディングドレス?
 そういえばウェディングケーキっていうケーキがあって、とってもおいしかったような。わたしはケーキになるのだろうか。
「ミミの準備はできたかい?」
 扉をあけてごしゅじんさまが現れる。純白のかれいな衣装を着たごしゅじんさまは、とってもかっこ良かった。
 見ほれていると、笑顔でわたしに近づいてくる。
「セルドさま、花嫁の衣装は本番まで見てはいけないのですよ。」
「固いこというなよ。」
 何やら怒る侍女さんたちを、ごしゅじんさまが笑いながらなだめる。
「だいたい、初夜まで前倒しされてるんですから…。」
 侍女さんたちは呆れたようにごしゅじんさまに苦言をつづけていたが、ごしゅじんさまはどこ吹く風のようすでわたしを見ている。
「ごしゅじんさまかっこいいです。」
 普段の飾らないごしゅじんさまもかっこよかったけど、今日はいちだんとかっこよかった。
「ミミもとっても綺麗だよ。」
 わたしを抱き上げながら言うごしゅじんさまの言葉にうれしくなる。
「今夜もミミを頂いちゃおうかな。」
 そう悪戯っぽくごしゅじんさまが耳元でささやかれた。すぐにまた食べていただくきかいが来た。胸に喜びがはしる。出世魚になったわたしは、さらにおいしいはずなのだ。がぜん気合が入る。
 ぐっ、と体に力をこめると、うさぎに変化した。
「ああっ、ミミさま。ドレスが!」
 ひらひらとわたしに着せられたドレスが床に舞い落ちる。
「ミミ、変身しちゃだめじゃないか。」
 ごしゅじんさまに怒られる。
 うさぎのすがたも味わってほしかったのに…。
 やさしい人たちに囲まれて、きれいなドレスを着せてもらえて、おいしいご飯をたべさせてもらって、ふかふかのベッドに寝かせてもらえて、ごしゅじんさまが隣にいる。
 そして、ごしゅじんさまに食べてもらって、おいしいと言っていただけた。
 今日もまたごしゅじんさまはわたしを食べてくださると言っている。
 ミミはとっても幸せな獣人だ。獣人のみんながこんな幸せな生活を送れたらいいのに。

***

 7年後、エキナド王国で獣人の王妃が誕生した。
 王妃は獣人が幸せに暮らせるよういろいろな活動をし、王もそれをたくさん助けた。そしてエキナド王国では獣人と人が手を取り合い暮らしていく国になった。
 そうしてエキナド王国は獣人の楽園と呼ばれるようになり、長く栄えていくことになる。
 ただしこの国では国王以外がうさぎを食べることは未来永劫禁止された。

はい、自分でも書いてて頭おかしいんじゃないかと思いました。
というかまとまりなさすぎて、何をかきたかったのかすらわからないですね。
プロットの段階ではもっと短く簡潔だったはずなのに、書いてみるとこれです…。
そして一週間近く他の作品を更新できなくなっていたというアホな事態。
一応、後で見直して校正などしたいのですが、校正のしようすらない感がひしひしと伝わってきます。
公開するのをやめようかとすら思ったのですが、これで公開しなかったらもう何のために書いたのかすらわからないのでテロ覚悟で公開します。
すいません。

評価や感想は作者の原動力となります。
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