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2・俺は男だ!
女になってしまいました。女に……
いや、まだだ! もしかしたら胸元にあるのはただの膨らんだ風船かもしれない。
ためしに触ってみる。決して大きくないが、ほのかなふくらみがそこに。
「ある……」
まだだ! まだ認めんよ! もしかしたら股間にはちゃんと男の象徴があるかもしれない!
ためしに股間に触れる。そこには俺の男の象徴は微塵も残って……
「……ない!」
夢だ。夢に違いない。頬をつねってみる。痛い。とても痛い。それはつまり夢じゃないということ。
……
「どういうことだよ!」
「さぁ? わたくしには全く見当もつきませんわ」
とりあえず、俺の今のこの姿。魔法以外で説明のつくものはない。だからきっと魔法はあるのだと思う。
魔法の存在は認めよう。だとしても、なんで俺が突然、目の前の女の子と同じ姿にされたんだ。
「逆召喚の魔法は完璧でしたわ! 最初に少々詠唱を失敗しましたが」
「失敗してるじゃないか! どうするんだ! 俺を元の姿に戻してくれ!」
俺の身長は少なくとも170センチ近くあった。それが、今や目の前の女の子、サフィと同程度の目線だ。
身に着けていたパジャマもダボダボになっていて、手を伸ばしても、袖の口からは指先しか出ない始末だ。
いきなりこんな姿にされたんだ。戻してくれと言うのは普通のはずだ。だがサフィはというと。
「残念ですが、今はわたくし魔力を使い果たしてしまったので」
「なら、その魔力が貯まったら俺を元に戻せるのか?」
そう聞くと、サフィはなぜか顔をそらした。どういうことだ、おい。
「まさか戻せな……」
と俺が全ての言葉を言う前に、突然、部屋の中にあった一つの扉が開かれた。
「サフィ、何があったのだ!」
「いったいどうしたのサフィ、そんなに叫んで!」
ドアから現れたのは、若々しい二人の男女だった。
年齢は三十過ぎくらいだろうか? 片方は口に銀色の髭を蓄え、メガネをかけたナイスミドルなおっさん。
もう一人は美しい金髪を持った女性だ。身に着けている衣服は、海外の寝間着というか、ローブというか……少なくとも日本ではあまり見ない衣服だ。
そして、その二人はサフィと、彼女にそっくりな姿になってしまった俺を見て、一言。
「わが娘が二人、だと」
「あら? 私双子を生んだ覚えはないわよ」
なるほど、二人はこの子の両親か。
「お父様、お母様、これは」
そうサフィが説明するよりも早く、サフィの両親は俺に近づくと。何故か俺の顔を眺めてきた。
「な、何か?」
「ふむ。そこにあるのは異世界から生物を召喚する魔法陣。そして君のその姿。鏡に映したように左右対称になっているその姿は」
「大方、サフィが召喚した異世界人が、逆召喚に失敗したために双子化した、というところかしら? あなた」
ちょっと待って。双子化? それはどいうことだ?
なんて俺が問いかけようとするよりも早く、二人はサフィのもとへと近づいて言った。
「すごいぞサフィ! 禁術とはいえ、異世界人を召喚したか!」
「さすがは私の娘ね。でも禁術はダメよ? 王国魔法局にばれたらお叱りを受けてしまうわよ?」
「うう、ごめんなさい。けれど、わたくしやりましたの! 召喚できましたのよ!」
なぜか俺を放っておいてサフィをほめたたえる二人。完全に俺は無視された状態になったわけだ。
……いや、待て待て待て!
「俺を放っておくな! 説明を求めるぞ、説明を!」
俺が叫んでようやく振り向いた三人。そのうちの一人、サフィは俺の言葉に対し。
「わたくしの声で叫ばないでくれるかしら?」
「……あんた性格悪いって言われないか?」
「誰が性格が悪いですって!?」
「そんなことより、俺を元の世界に返せ! あと姿も!」
俺がサフィと言い争いを続けていると、間に入ったサフィのお母さんは、俺に柔らかい笑顔を見せてこう言った。
「そうね。異世界から来たのなら、何もわからないわよね。あなた、説明してあげましょう?」
「うむ、そうだな。ついて来るのだ」
俺はそう言った二人の促されるまま、サフィと共に部屋の外へと歩き出した。
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異世界に召喚……最初は信じられなかったが、周囲の光景を見ていると、ここが異世界だって思ってしまう。
建築物は、いわば中世ヨーロッパのお屋敷を思い起こさせる内装をしていた。廊下には赤いカーペットが敷いてあって、案内された広間の天井にはシャンデリアがつるされている。
そのシャンデリアの下にある、白い布のかかったテーブルの椅子に座り、俺は説明を受けることになった。
「では説明を始めようではないか。ここはキミの居た世界ではない」
「はぁ」
「ここはロンドベイル王国と呼ばれる国なのだ。キミの反応を見るに、おそらくキミは魔法が無い世界から来たのだろう」
王国……王国ね。信じられないな。まさかドッキリでも仕掛けられてるんじゃないか? と思うが、この体は間違いなく本物。信じるしかないのかな。
それで、サフィのお父さんの言葉を信じるなら、この世界は魔法がある世界ってことだ。現に俺も魔法らしきものでこの姿にされてしまったし。
「その魔法には様々なものがある。魔物から身を守る攻撃の魔法。治癒の魔法とさまざまだ。その中の一つが」
「召喚魔法よ。サフィがあなたをここに呼びだした魔法なの。本当は禁術と言われていて、特別な理由が無い限り使用を禁止されているのだけれど」
「さすがはわが娘! まさか禁術を成功させてしまうとは!」
「ふふふ、わたくしにかかればこの程度、余裕ですわ!」
うん、まるで娘の犯した犯罪をほめたたえているかのような言い方。
……まぁいい。なんで異世界なのに日本語が通じるかとか、さっき話していた魔力がどうとかいう話は置いておこう。まず一番知りたいのは。
「俺は日本に帰れるのか!?」
「帰れるぞ」
即答だった。
「まだサフィは逆召喚を行えるほど魔法に熟練してなかったようだ。だが吾輩の友人の優秀な魔法使いに頼めば、逆召喚は容易であろう」
「ああよかった。俺は帰れるんだな……」
「うむ。吾輩の娘と同じ姿の絶世の美女として帰れるのだ。これほど嬉しいものはないであろう」
……ん、ちょっと待て。今なんて言った。
「この姿のまま帰る? ばかを言わないでくれ。俺はちゃんと男として、元の姿に戻って帰る」
「残念だが、それは無理じゃ」
「無理ってどういうことだよ!」
俺はサフィの使った魔法の失敗で、この姿になったんだろ? だったら元の姿に戻ることだって……!
「キミにかかっているのは、『双子化』という状態異常の魔法なのだ。それは非常に珍しい状態なのだ。さすがは我が娘サフィ! このような珍しい状態異常にしてしまうとは!」
「逆召喚の失敗故不本意ですが、お父様がおっしゃられるのでしたら、わたくしはとてもすごいのですのね!」
「というわけであなたを元の姿に戻す方法はわからないの。ごめんなさいね」
はいはいごめんなさいごめんなさい。ごめんなさいで納得が出来たら苦労しねぇよ!
「元の姿に戻せ! 何がなんでもだ!」
「ですから無理ですわ」
「張本人! お前はなんで他人事のように……!」
「わたくしの声でそんな男のような口調で話さないでくださる?」
「俺は男だ!」
「男ならなおさら、美女になれてよかったではないか。あっはっはっ!」
だからなんでそんな軽いんだよ! 全員が全員が他人事のように……
「落ち着くが良い。魔法使いの友人を呼び寄せるのは明日になる。今日はこの屋敷で泊まって行くといい」
泊まってって……この姿でか?
「サフィ。彼、いや彼女の身の世話をしてやるのだ。この姿になったばかりで、女性には疎いであろう」
「な、なんでわたくしがですの!? 彼はわたくしの姿ですが、男ですわよ!?」
「サフィ。あなたが召喚したのだから責任を持ちなさい」
……なんだか自分か、拾われてきた犬のような扱いをされている気がするが。
というか俺が泊まるってのは確定なのか。この姿で。
で、サフィはというと、椅子から立ち上がったかと思うと、俺の側へとやって来て言った。
「……今日はわたくしと共に行動することを許します。ですが、何かふしだらな真似でもしたら……その時は覚悟なさってください」
「お、おう」
マジな形相で言われ、俺はただ怖気づくしかなかった。
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