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1・女になってしまいました
「また召喚事故か……」
今日も今日とて、いつもの通り部屋でネットゲームをしていた。
つぶやいた言葉は、ゲームの中のことだ。
そのゲームではモンスターを召喚し、戦わせるというのが主な遊び方だ。
だがたまに召喚事故が発生し、俺の意図しないモンスターなどが召喚されてしまう。
「また調合して金稼ぐかー」
そして、モンスターの召喚には金が必要だ。
その金を稼ぐ手段というのが、薬の調合。
他にも稼ぐ手段はたくさんあるが、俺が一番好きなのはこの方法だった。
さまざまなアイテムを調合し、薬を作り、それを売るという作業だ。
「まぁいいや。調合は明日学校から帰ってきたらしよう」
せっかく一週間金をためて行ったモンスター召喚が、まさかの召喚事故。
召喚できたのは、ゴーレムの心を持つスライムという、またまた突拍子のないモンスターだった。
ハッキリ言えばゴミである。
「これで召喚事故で美少女姿なスライムとか出たら、まだ良かったんだがなぁ」
俺はパソコンの置いてある机から離れ、そのままベッドへとダイブした。
もう時間は夜の十一時。そろそろ寝ないと明日の学校に遅刻しそうだな。
「あーあ。ここ最近ゲームしかしてないな」
何か刺激的なことでもないか。たとえば俺が異世界に召喚されるとか。
「あるわけないよな。あったとしても、召喚事故は勘弁してほしいな」
なんて独り言をつぶやきながら、俺は部屋の電気を消し、そのまま眠りについた。
………………
…………
……
「起きなさい」
誰だ、この声。聞いたことのない声だな。甲高い声というか、こんなうるさい声をしたやつなんて俺の友達や家族に居たっけ。
「何時まで寝ているのよ! 起きなさい!」
うるさいな……ベッドに入ってまだ一時間も経っていないのに。俺は夢でも見ているのかな。
そう考えていると、突然頭に鋭い痛みが走った。
「痛たたたた! 何するんだ! ……あれ?」
頭の痛みに目を覚ました俺の目の前には、一人の少女が居た。
それも結構なかわいらしさ。金髪に、片目が赤い瞳で、もう片方が緑のオッドアイ。髪はサイドアップテールか。
身長は高校生女子の平均くらいで、胸の凹凸は貧めだが、顔は白い肌ながらも生気を感じて、とてもかわいらしい。
しかしオッドアイとか……コスプレか何かか?
で、頭の痛みの原因はというとどうやら俺の髪はこの美少女に引っ張られていたようだ。
「誰だお前」
俺の第一声だ。その美少女は何やら黒いローブのようなものを身にまとっていて、さらに手には魔法の杖らしきものを持っている。
どうみても魔法使いのコスプレです。ハリー・○ッターとかそのあたりの。
俺の問いに対して、その美少女は答えた。
「わたくしはサフィ・マーセナス。マーセナス家の四女ですわ!」
「あー。はいはい。そんな設定なのね。というか、ここはどこだ?」
周囲を見渡してみると、そこは俺の部屋ではなかった。何やら怪しげな薬品が立ち並び、本棚には怪しげな太い本が陳列されている。されには異常に大きな鏡まである。
まるで映画に出てくる、魔女の部屋じゃないか。少なくとも俺の部屋ではない。夢かと思ったが、さきほどの頭の痛みは夢じゃない。つまりは現実というわけだ。
「何で俺はこんなところにいるのかね」
「それはわたくしが、あなたを召喚したからですわ」
召喚。召喚ね。俺もゲームの中でよく召喚しているよ。
さて、こんな痛い子は置いておいて、俺はもう一眠りしたいわけだ。さっさと家に帰りたい。
「召喚とかありえないことはさておき、俺は家に帰りたい。さっさと家に帰してくれ」
すると、目の前の美少女。サフィは。
「噂は本当でしたのね……!」
「何の話だ?」
「この魔法陣を使用すれば、異世界の生物を召喚できると伺いました。本来は禁術ですが、禁術を使いこなしてこその魔法使い! ついにやりましたわ! わたくしは異世界の人間を召喚できましたのね!」
「だめだ、完全に頭がおかしい」
確かに俺のまわりには魔法陣のようなものが書かれているが、魔法なんて存在するはずがない。
とはいえ、なんだかこの美少女。見ていてなんか面白いな。何かふっかけてみるか。
「なら魔法使いさんよ。俺を元の世界に戻せるのか?」
「もちろんですわ! 逆召喚の魔法!」
と、サフィが何やら呪文のようなものを唱え始める。瞬間、俺のまわりの魔法陣が輝きだした。
なんだこれ……まさか本当に魔法があるってか!? いや、ありえない。魔法なんて存在するはずがないんだ。きっと手品で、トリックか何かだ。
「こんな手品はいいからさ、俺は帰りた……!」
その時だった。
突然、俺は体中に痛みを感じた。
「痛……痛い……!」
全身がゴキゴキと音を立てる。まるで 内側から骨を砕かれているように。それと同時に身体が押しつぶされ……押しつぶされている!?
「ち、違う……!」
押しつぶされているんじゃない……縮んでいる。だんだんと目線が低くなっている。これはやっぱり、俺の体が縮んでいる!?
それだけじゃない。俺は胸元に妙な暑さを感じて、触れてみた。そこには。
「なんだこれ! 風船でも入っているのか!?」
筋肉質でもないし太っていたわけでもない。胸を触っても、平だった俺に胸が、若干ふくらみを帯びてきている!
すると突然、視界の一部が何かに遮られた。体中の痛みの耐えながら、その視界を遮った何かをどけようとして気づく。
これ……俺の頭から生えている。つまりは、髪。
それも俺の頭に生えていたのは茶色い髪だ。それがなぜか金色に輝いている! そして耳にかかる程度だった髪はぐんぐん伸びて、腰のあたり、目の前で呪文を唱え続けている彼女と同程度にまで伸びる!
「おいあんた! 俺に何をし……え?」
おかしい。おかしい。なんで俺の声がこんなに高くなっていってるんだ?
「あ、あー……」
だんだんと声が高くなっている。まるで女の声のように。
体中に触れると、俺の体はたった数分前よりも柔らかく、丸みを帯びているように感じる。これってまさか……
俺は焦って、自分の一番大事な部分に触れてみた。
「良かった……ある……あ、ああああああ!」
俺は甲高い声で叫んだ。突然、おなかの中に猛烈な熱を感じたからだ。
その熱を感じるとともに、俺が触れていた一番大事なところ、股間にあるものが……
「ち、小さくなってく……やめろ、消えるな! 消え……」
どんどん小さくなり、体の中に入って行く感覚。そこには男の象徴は残っていない。
そしてひとしきり変化が終わったところで、呪文を唱え終えたサフィが俺の方を見る。
「……ふう、逆召喚は完了したわ。さすがわたくしです……あら?」
サフィの視線は、俺の方を見ている。そして俺も、部屋にあった鏡に映った自分の姿を見ていた。
そこには、サフィ・マーセナスを、正に鏡写しにしたような姿。パジャマ姿で、床でうなだれている美少女が一人。
俺が右手を動かすと、鏡の中の子も右手を動かす。左手を動かすと、鏡の中でも右手を動かす。
「な、なんでわたくしがいらっしゃいますの!?」
彼女の反応を見るに……間違いない。
前略、母さんに父さん。俺、里中真澄は、女になってしまいました。
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