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9・これのどこが男性ですの?
たくさんのブクマ、評価ありがとうございます!
今回はちょこっとだけ長くなっております。
人間の姿へと戻ったサフィは、自らの手を握り締めては開き、握り締めては開きを繰り返している。
そして自分の身体をまさぐり、身体の中に綿が詰まっていないことを確認すると。
「も、戻れましたわ!」
「だー! うるさい! いきなり大声をだすな! それより自分の格好をもっとちゃんと見てみろ!」
そこでやっと気づいたのか、はっとしたサフィは自分の姿を見下ろす。そこには布一つ身にまとっていない、一人の少女の姿。一言で言えば、裸だ。
「きゃああああ! わたくしの裸を見るなんて、変態、変態ですわ!」
「仕方ないだろう! そもそもお前の貧相な身体なんて見ても興奮しなグホォ」
サフィのチョップが俺の頭を直撃した。ぬいぐるみの時と違って痛い。すっごい痛い。
それはともかく、まさかサフィを裸のまま置いておくわけにはいかないし、だが服なんてそうすぐに用意は……そうだ!
「サフィ、俺の服を着ろ」
「きゃっ! 突然服を脱がないでくださる!?」
「仕方ないだろこの際は!」
俺は見につけていた制服の、ブラウスとベスト、っそしてスカートを脱ぎ、サフィに手渡した。受け取ったサフィが、それを身に着け始める。
ブラウスの下が、男のときの大きめのシャツだったおかげで助かった。俺はこのシャツさえあれば、とりあえず身体は隠せる状態だ。
それに、俺は男だから恥ずかしくないし……ないし。
「……」
「あら? いかがいたしました」
「な、なんでもないっての!」
俺の今の格好は、シャツにトランクスという格好。前なら恥ずかしくなんてなかった、なかったはずなんだが……
な、なんでこんなに顔が熱くなるんだ……!?
なんて考えているうちに、既に制服を身に着け終えたサフィは、俺のほうを向いて言った。
「サフィ・マーセナス、完全復活ですわ!」
そう言って人差し指を立て、それを頬に当ててキメポーズのようなものを取っているが。
……顔中が白濁液、もといポーションまみれじゃ説得力がないぞ。それに制服のした、はいてないんじゃ。
「さて、お喜びのところ悪いが」
「あら、何かしら?」
俺は手にしていたフラスコをサフィに見せた。そのフラスコの中には、アンチマジックポーションが半分ほど残っている。
「アンチマジックポーション。魔法による状態異常の効果を抑える薬だ。今度は飲め」
「……もう嫌ですわ! もうぬいぐるみ化は治っていますわ! なんでそんなものを飲まなければいけないのかしら!?」
そうだよな。俺も正直こんな白濁液なんか飲みたくないと思うよ。
だが、もしもこのポーションの効力が、俺のやっていたゲームと同じなら。
「サフィ。頭を触ってみろ」
「頭? わたくしの頭になにか……!?」
サフィが頭に触れる。サフィは気づいていなかったようだが、そこには先ほど引っ込んだはずの黒い猫耳が。
「にゃあああああああ!? 治ったのではないのですの!?」
「ポーションをかけるだけじゃ効果が薄い。それにこのポーションはあくまで、状態異常の魔法を一時的に抑えるだけだ。まだ完全にぬいぐるみ化は解けたわけじゃない」
「ならそれを渡しなさい!」
さっきまであんなに嫌がっていたのに、俺からフラスコを奪い取ったサフィは、その中にあるポーションを一気に飲み干した。
途端に頭に生えていた猫の耳は引っ込み、ちゃんとした人間の耳が現れる。
「……うえぇ、不味いですわ」
「これで三日はぬいぐるみにならずに済むはずだ」
「完治は不可能なのです?」
「少なくともぬいぐるみ化を完治するポーションは俺は知らないよ」
なにせ、ぬいぐるみ化は俺のやっていたゲームでもかなり特殊な状態異常だったんだ。それもアップデートで実装されたばかりのものだったから、情報も少なかった。
それでもアンチマジックポーションを使えば、一時的にその状態異常を抑えられるって知識は持っていた。
「それでも……」
「ん? それでも?」
それでも。そう言ったサフィが突然。
「すばらしいですわー!」
「うわっ!?」
突然俺に対し、猛烈な勢いで抱きついてきた!
本来ならここで振り払いたいところなんだが、俺の今の腕力では振り払うことすらかなわない。
そうしているうちにサフィはなぜか俺の頬に、自身の頬を擦り付けてくる……
「おいやめろ。俺は男だぞ!? 女子がこんなことしていいのか!?」
「ふふっ、確かに男性ですわね。けれど、わたくしはあなたの能力に感動していますわ!」
「感動?」
「ええ。ぬいぐるみ化を治す……お父様のお話ではとても難しいと聞いていますのに、それを成し遂げていまわれましたわ! きっと先ほどの授業でも言っていた、上級のポーションも作れますわ! すばらしいですわ!」
「あはは、そりゃ光栄だ」
女の子に抱きつかれている……こんなおいしい状況なのに、なぜか興奮しないのは、サフィの胸元からはまったく胸という圧力を感じないからだろうか。
抱きつかれ続けて正直暑苦しい。ポーションでサフィの身体はベトベトだし……きっと今の俺はなんとも言えない表情をしているだろう。
「サフィ、悪いんだが、そろそろ俺は男に戻る方法を調べ……」
そう俺が言おうとしたときだった。
突然、大きな音を立てて、調合室の入り口の扉が開かれた。そこから現れたのは。
「サフィさん、ポーションはできたかしら?」
ショートの青い髪。担任の先生だった。
メリノよりも若干低い身長で、いわゆるモノクルという、片目だけのメガネを右目にかけている。
生徒の制服とは違い、濃い茶色のマントに、赤を基調とした司書服のようなものを身に着けたその先生は、俺たちを見て目を丸くした。
「サフィさんが……二人!?」
まずい、これはまずいぞ。もう言い逃れはできなさそうだ。
さらに不幸なことに、騒ぎを聞きつけた周囲の教室の生徒たちが……
「なになに? なにかあったの?」
「あれ? あの子って一年のサフィさんよね?」
「な、なんで二人もいるんですか~!?」
どんどんこの調合室に集まって、もう大騒動になりかけている……!
「お、おい、どうするんだサフィ」
「大丈夫、わたくしにいい考えがありますわ」
そう言ったサフィは、自身ありげに先生たちの前に出ると。
「……こほん。大変失礼いたしました皆様。この子はリリィ・マーセナス。わたくしの双子の妹ですわ」
俺が妹だって!? いや、それはちょっと無理があるんじゃ……
「リリィはずっと病気がちで、遠方の国に幼い頃から療養に行っていました。このたび病が完治して戻ってきたのですが、外に出たことが無いため、学校というものにとてもあこがれていましたの」
すると、なぜか先生は手のひらをぽんと叩き、何かを察したように言った。
「わかったわ。リリィさんが、サフィさんのふりをして登校をしていたのね」
「ええ、そのとおりですわ先生。校則に違反していることは承知でしたが、リリィがどうしても来たいと……さすがに長時間入れ替わったままだと問題ですので、今衣服を交換していたところですわ」
なるほど、今の俺の格好とサフィの格好をそう説明するか。なかなか頭がまわるじゃないかサフィ。
「……サフィさん、なら先ほどの調合レシピは」
「ええ、リリィが発案したものですわ。療養中、リリィはずっと病気を治すために、調合の勉強を独学でしていましたの。そうよねサフィ?」
「あ、ああ。そうだ」
「恥ずかしながら、男性の医者と共に過ごしていたため、男性のような話し方ですの」
そこまでフォローしてくれるか。なんだかうれしいな。
にしても、そろそろ話を切り上げたほうがいいんじゃないかと思うんだが。
今の話に先生や周囲の生徒たちも納得しているようだし、あとは俺が帰るようサフィが誘導してくれれば完璧だと思うんだが。
「そこでです先生。一つ提案がありますわ」
「何かしら?」
「これを見てくださいまし」
サフィが見せたのは、先ほどサフィを元に戻したアンチマジックポーションが入ったフラスコだ。ほとんど残ってはいないが、わずかに中身が残っている。
「これはアンチマジックポーションという、魔法による状態異常を一時的に緩和するポーションですわ」
その言葉を聞いた瞬間、なぜか先生は驚いたような表情を見せた。
「なんですって!? そのフラスコを借りてもいい?」
「ええ、どうぞ」
サフィからフラスコを受け取った先生は、人差し指と中指を立てて、フラスコの中に指を突っ込んだ。すると、先生の指先から、フラスコの中に小さな光が落ちる。
その光はフラスコの中のポーションに当たったかと思うと、バチッという音と共に消え去った。
「確かに反魔法作用があるわね。まさか、魔法による症状を緩和するポーションができたとでも言うの……!?」
「おそらくは、そうですわ」
すると先生がサフィの手を力強くにぎり、ブンブンと揺らし始めた。その表情は歓喜に満ちている。
「すごいじゃないサフィさん! これでこの国のたくさんの状態異常患者が救われるわ!」
「残念ながら、作ったのはわたくしではありませんわ? 妹のリリィです」
「妹さんが!? すごいわ! 彼女がこの学園の生徒でないことがとても残念だわ」
学園の生徒でなくて残念か。そりゃそうだ。俺はこの学園の生徒じゃないし、ましてや学園に入る気なんてさらさらない。早いところ男に戻る方法を調べて、元の世界に……
「いかがでしょう? わたくしの妹、リリィをこのグラハクス魔法学園に入学させるというのは」
……はいぃ!?
「お、おいサフィ、今何を!?」
俺は必死にサフィに対して問いかけるが、サフィは一切反応を見せず、先生と話し続けている。
「リリィもそろそろ学校に通うべきだと思っていますの。病弱であったとはいえ、勉強は必要ですわ」
「おいサフィ、何を」
「グラハクス魔法学園は王国でもとくに優秀な生徒が集う学園。リリィは魔法は使えませんわ。ですが、非常に優秀な調合技術を持っている。というのは、そのポーションで実証できると思います」
冗談じゃない。俺はこの学園に通う気なんてさらさらないぞ!? ましてやここは女子の学園じゃないか! 男子がいるならともかく、この女の姿でこんなところに通うなんてお断りだ。これは全力で断らないと。
「サフィ、俺はむぎゅ」
サフィに抱きつかれ、そのまま口を押さえられてしまう。振り払いたいが、俺の腕力が足りずに振り払うことができない。
「いかがでしょう先生?」
よし、先生。断ってくれ。先生が断ってくれれば、俺はこんなところに通わずに済む。
「……ええ、許可するわ」
先生ー!? ちょっと、俺は男だぞ!? 冗談じゃない! 早いところ俺が男だって言わないと……けれど、サフィに口を押さえられてしゃべれない……
「校長先生にも交渉をしてみないといけないけれど、リリィさんほど実力のある子なら、きっと許可をいただけるわ」
「感謝いたしますわ先生」
「じゃあ早速校長先生や他の先生にもお話してくるわ。これを持ってね。ほら、他の生徒たちは授業に戻りなさい」
そう言って、先生はアンチマジックポーションの入ったフラスコを手に、部屋から出て行った。
さらに部屋に入ってきていた他の生徒たちも、ぞろぞろと部屋を出てゆく。
そんな生徒たちから聞こえてくる話し声は。
「すごいねリリィさんって。さすがはサフィさんの妹だね」
「でも、リリィさんもサフィさんみたいにかわいいね。男の子みたいな口調だけど、どこか弱々しい感じで、かわいいかも」
そして生徒たちが立ち去り、部屋の中には俺とサフィだけが残される。
「ぷはっ!」
ようやく俺の口からサフィの手が離され、喋れるようになった俺は、第一にサフィに問いただそうとした。
「おい、サフィ! 俺は学園に通う気なんか……」
「あら、それでいいのですの? 学園に居れば、さまざまな情報が入ってきますわ。それこそ、もしかしたら双子化の状態異常を治すことができるような情報があるかもしれませんわ?」
「うっ……」
「その様子ですと、双子化を治すポーションについてはご存じないようですし」
「で、でも、俺は男で……ひっ!?」
突如、人差し指の先端を俺の腹の上に当てたサフィが、そのまま指を上半身へと……俺の首元に向かうように動かし始める。
その指先の動き。若干の胸のふくらみや、筋肉の一つもついていない腹部の感覚がダイレクトに脳に伝わってきて、俺が女になってしまったことを痛感させてくる。
「これのどこが男性ですの?」
「……」
「あなたが男の言葉を使っても、双子化の状態異常と言っても、きっと誰も信じてはもらえませんわよ? 王国立図書館の館長をしているお父様がかろうじて知っているような状態異常ですもの」
「そ、そうなのか」
「ふふ」
くすり、と笑みを浮かべたサフィが、少し背伸びをしたかと思うと、突然、俺のおでこにキスをしてきた。
「……なんのつもりだ?」
「誓いのキス、ですわ。サトナカマスミ。あなたは今から、わたくしの妹、リリィ・マーセナスですわ」
「妹って……勘弁してくれよ」
俺はうなだれながらも、考えていた。サフィの言うことは正しい。俺は双子化を治す方法なんて知らない。それなら、確かにこの学園にいたほうが情報は入ってくるかもしれない。
なんだかんだ言いながらも、サフィの提案する方法が最善策なのはわかっていた。けれど、女子の学園に、それもサフィの妹として、同じ姿で通うなんて、勘弁してほしい。
けれど……
「ふふ、これからよろしくね、リリィ」
「……わかったよ。サフィ」
前略、母さんに父さん。俺、里中真澄は、リリィ・マーセナスという、サフィの妹として、異世界で魔法学園に通うことになってしまいました。
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