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やる気なし英雄譚 作者:津田彷徨

第1部 第1章 カーリン編

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襲撃

「軍務長は全騎の準備が整い次第、魔石工房に向けて兵を進めてください。私は部下四人を引き連れて先行します」
「わかった。ただ無理はするなよ」
「私の辞書に無理をするとか、頑張るとかはありませんよ」
 ユイがそう言うとエルンストと顔を合わせて笑いあった。

「では、失礼します」
 そう言って、ユイは一礼すると、後ろに控えていたクレイリーたちの元に歩み寄った。

「旦那、クレハのやつはどうしやすか?」
「あいつはそのままだ。ただ、連絡だけは絶やすなと伝えておいてくれ」
 クレイリーの問いに、ユイは即答した。

「わかりやした。連絡係の人員も増強しておきやすね」
「任せた。あとナーニャは現地についたら水球魔法を全員に掛けてもらうことになるので、そのつもりでいてくれ」
「あいよ。完璧にずぶ濡れにしてやるから、お前ら覚悟しな」
 ナーニャがそう言ってニヤリと口角をあげると、濡れるのが嫌なフートは、露骨に嫌そうな顔を浮かべた。カインスがそれを見て、フートの頭の上に手を乗せるといつものように豪快に笑った。

「よし、では出陣する」




「エリーゼ様、もう少しで炎上地帯を突破できますので」
「ええ、わかりました」
 エインスの励ましの言葉に、炎に肌の表面を焼かれながらも必死に山路を下って行く。既に最も炎上の激しかった地点を超え、少しずつ周囲の温度が下がり始めていた。

「お待ちしていました、お姫様」
 突然周囲に声が響き渡り、エリーゼとエインスの頭上から燃え盛る木々が倒れ込んできた。
「危ない!」
 エインスは声の主を目で探そうとしたため、わずかに反応が遅れたが、何とかエリーゼを抱えると、倒れる木々の前方に身を投げ出した。

 全力で飛んだため、受け身も取ることができず、二人でそのまま地面を転がった。斜面のため、数回跳ねるように転がりながら、何とか前方の木に体をぶつけて止まる。

「大丈夫ですか、エリーゼ様」
 エインスは庇いはしたものの、あちこち擦り傷だらけの王女に声をかけた。しかしエリーゼは足を痛めたのか、うまく立ち上がれず、エインスが彼女を支えるよう起こそうとした。まさにその時である、彼は前方から人影が近づくのを感じた。

「お疲れ様。でも君には用がないんだよね。ここで消えてくれるかな」
 エインスはその声に、視線をあげると、彼らに立ちふさがるように二人の身なりの整った武装兵が立っていた。

「お前らはなにものだって聞くまでもないか。タリムの雇われたゴロツキか」
「ゴロツキ呼ばわりされるのは心外だが、まあタリムさんとは協力関係にあるのは事実だな」
「兄者、後方を遮断したが、いつ他の者たちが駆けつけるかわからない。無駄口を叩く前に、さっさと仕事をこなしますよ」
 左手に立っていた、兄者と呼ばれた男は舌打ちを一つ打ったが、弟の言葉が正しいと認めたのか右手を前に突き出した。

 エインスは視線を少し前方に向けると、先ほどまで先導していた近衛兵が数十名の武装兵に制圧され、次々と命を絶たれていた。その状況に、戦況が厳しいことを把握し、覚悟を決める。

「さて、武器を持っていないということは、あなた方は魔法士ですか。地方の一貴族ごときが雇うにはやや不相応ですがね。ただ、この場はやるしか無いようですね」
 エインスはそのままエリーゼを後ろに下がらせると、腰に備えていた剣を抜く。

「エインス、すいません」
 エリーゼはその状況に震え、どうすることもできないことが情けなかった。

「エリーゼ様、違いますよ。こう言った時は、『任せたわ』と一言くだされば良いんです」
 エリーゼに向けて笑いながらそう言うと、改めて武装兵に向き直った。

「覚悟は決まったかい? ではその命貰い受けるよ。『フォイエル』」
 その瞬間、兄者と呼ばれた男の突き出した右手に炎が宿り、エインスに向けて放たれた。エインスは間一髪側方に避けると、一気に間合いを詰め、左下段から突き出された腕に向かい剣を振るう。
 エインスの剣がその腕に届く直前に、側方から二つ目の炎がエインスに向けて打ち出され、慌てて後方に飛び下がった。

「フォイエルか、なるほど帝国語の魔法士ね。だいたい事情が見えてきましたよ」
「ふん、ここで命を落とすお前に関係のない話だ」
 そう言って、改めて右手に発火魔法を宿し、エインスに向けて放つ。
 エインスは再度その炎をかわすと、今度はもう一方の魔法使いに向かい駆け出す。

「ちっ、『シュタイフェ・ブリーゼ』」
 二人目の魔法士がそう唱えると、その前の空間が歪み、次の瞬間にエインスはその場から吹き飛ばされていた。

「ああ、この風の魔法式も帝国製のものですね。やはり帝国軍の手のものということですか」
 衝撃のあまり、剣を杖代わりにして、再度立ち上がり、二人の魔法士を睨みつける。

「止めなさい、離して!」
 二人の魔法士と対峙していたエインスは、突然のエリーゼの声に、慌てて視線を向ける。すると、先程まで近衛を取り囲んでいた一部の者が、王女を掴み、連行しようとしていた。

「やめろ!」
 エインスはふらつく身体に鞭をいれ、エリーゼの元に駆け出す。しかしその無防備に走り出した瞬間、再び魔法の衝撃波が、彼の体を吹き飛ばした。

「おっと、戦いの最中であったことを忘れたのかな?」
 そう言って、風を使う魔法士は、懐に隠し持っていたダガーを鞘から引き抜くと、エインスに止めを刺すために振り下ろす。エインスは無念を感じ、両目をつぶったが、一向に痛みが体を襲うことはなかった。

「キ、キサマは!」
 魔法士が確信を持って振り下ろしたダガーは、エインスの胸のわずか手前で、長剣により止められていた。

「エインス、いつも最後の瞬間まで諦めるなと言っているだろ!」
 そこには、鎧を含め全身を焦がしながらも、その視線の強さは衰えることのないリュートの姿があった。リュートはそのままダガーを跳ねあげると、その持ち手であった左腕を一刀の元に切断した。

 その痛みのあまり、風の魔法士は地面をのたうち回る。エインスはその隙に立ち上がると、再度剣を構え直し、リュートに礼を告げる。

「ありがとうございます。確かに、先輩はいつも諦めるなと言ってましたよね。でも、もう一人の先輩には、いつも『さっさと諦めろ、そしてすぐにもっと楽な方法を考えろ』って言われてたんですけどね」

「フン、だからあいつはダメなんだ」
 リュートはそう言って、笑みを浮かべそうになる口元を無理に歪めた。
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