千の証言・投稿:<ノモンハン事件>父の汗と母の思いがしみ込んだ千人針=島根県浜田市・坂本文江さん(64)

2015年07月10日

 父は1939(昭和14)年のノモンハン事件に出征し、奇跡的に生還した一人でした。平和な時代になってからは慰霊碑建立に奔走したり、ノモンハン会の会長として2003(平成15)年に90歳で亡くなるまで慰霊祭などを続けてきました。その後は戦後生まれの娘の私が、戦争の記憶を風化させないためにノモンハンを語り継ぐ会を続けてきました。

 両親が相次いで亡くなり、遺品を整理していた折、どうしても捨てられなかったものがあります。母が多くの人に協力してもらって作った千人針です。父が常に身につけていたせいか、汗がしみ、黄ばんだ布に「祈武運長久 足羽部隊 馬場部隊 西村隊第一班 吉田博 昭和十三年七月十五日書 吉田美喜枝」と、母の思いを込めた力強い墨書があります。

 これを見るたびに、戦争を知らない私は胸がいっぱいになります。父が無事帰ってこられたことで、兄や姉とは年の離れた私が生まれました。この千人針は、父が書き残したノモンハン事件の記録とともに、今私があることの意味を気づかせてくれる亡き両親の大切な思い出の一品です。

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