長崎平和宣言:「安保法案の慎重審議を」起草委文案

毎日新聞 2015年07月11日 11時37分(最終更新 07月11日 12時03分)

 長崎原爆の日(8月9日)に長崎市の田上富久市長が読み上げる平和宣言の起草委員会の最終会合が11日、同市の原爆資料館であった。市は、憲法の平和理念を重く受け止め、安倍晋三政権が成立を目指す安全保障関連法案の慎重審議を求める内容を盛り込んだ文案を提示した。

 文案では、憲法の平和理念は被爆、戦争の体験と反省から生まれたとして、堅持する必要性を強調。安保法案について国民への丁寧な説明も求めた。6月の第2回起草委で示された素案には安保法案に関する文言が盛り込まれておらず、委員からは明確なメッセージを盛り込むよう求める意見が出ていた。

 委員からはさらに踏み込んで、安保法案への強い懸念を示すべきだという意見が相次いだ。被爆者の朝長万左男・核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員長は「『戦争をしない』という憲法の平和理念が揺らいでいると指摘すべきだ」と強調した。

 また、梅林宏道・長崎大核兵器廃絶研究センター客員教授は「多くの憲法学者が安保法案を憲法違反と言っている。その中で十分な議論がされないまま法案が通ってしまうことに強い不安と懸念を示すべきだ」と述べた。別の委員からも「集団的自衛権の行使容認は立憲主義の瓦解につながる。立憲主義の大切さを強調してほしい」との意見が出た。

 今年の起草委は委員長を務める田上市長のほか、被爆者団体代表や学者ら15人で構成。これまでの3回の議論を踏まえて、田上市長が宣言文を決定する。

 昨年の長崎市平和宣言は集団的自衛権の議論に触れ、「日本国憲法に込められた『戦争をしない』という誓いは、被爆国日本、被爆地長崎の原点」と強調。日本政府に対し、「その平和の原点が揺らいでいるのではないかという不安と懸念の声に、真摯に向き合うこと」を求めた。

 起草委を巡っては、昨年まで改憲や集団的自衛権の行使容認に強く反対した一部委員が、今年は再任されなかった。長崎市では、被爆者らでつくる市民団体がシンポジウムなどを開いて、委員の不再任に抗議。「安保法案反対」の明確なメッセージを盛り込むよう求める動きなどが出ている。

 広島市は、被爆者や有識者ら10人が委員を務める懇談会(座長は松井一実市長)で平和宣言に盛り込む内容について意見交換しており、21日に開かれる会合で今年の宣言案を示す予定だ。

 1日にあった会合では、安全保障関連法案を巡る動きに言及するよう求める意見はなく、松井市長も「世界に向けてのメッセージを発信する場で、我が国の中だけの話を取り上げることにはならないと思う」と述べていた。

 広島市は昨夏の集団的自衛権の行使容認の閣議決定についても、平和宣言で直接、触れなかった。【樋口岳大、大平明日香、加藤小夜】

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