長良川:天然アユの「天然」とは何?…岐阜の川漁師が反発

毎日新聞 2015年07月10日 20時51分(最終更新 07月11日 00時28分)

長良川の天然アユの初競り=岐阜市茜部新所の同市中央卸売市場で2015年5月11日午前6時13分、野村阿悠子撮影
長良川の天然アユの初競り=岐阜市茜部新所の同市中央卸売市場で2015年5月11日午前6時13分、野村阿悠子撮影

 ◇「岐阜市版レッドリスト」の準絶滅危惧種に選定受けて

 岐阜市が、4月に公表した「岐阜市版レッドリスト」で長良川の「アユ(天然)」を準絶滅危惧種に選定したことに、岐阜県内の川漁師が反発している。消費者の買い控えなどが起きると心配しており、長良川で漁をする7漁協が加盟する長良川漁業対策協議会のメンバーらは10日、リストからの即刻削除を市に求めた。

 問題の中核となっているのは「天然」という言葉だ。市は「天然」の定義を、人の手を借りずに海から遡上(そじょう)したアユとした。これに対し、漁業者らは放流した稚魚から育ったものも含め、全てを「天然アユ」として出荷している。

 同協議会によるとレッドリスト公表後、市や漁協に「アユを取ってもいいのか」といった問い合わせが寄せられるようになった。半世紀近く長良川でアユ漁をしている上田一二さん(70)は「昨年よりアユは取れているのに、競り値が低く収入が少ない」と嘆く。

 リストは、大学教授らでつくる委員会による2009年から5年間の実地調査を基に作成。絶滅の危険性を5段階に分け、市は「アユ(天然)」を最も深刻度が低い準絶滅危惧種に選定した。

 同様のリストは他の中核市や政令市も作成し、名古屋市や堺市、長崎市などはアユを載せている。ただ、これらの市はアユ漁で知られているわけではなく、「清流・長良川」のシンボルであるアユを売りにする岐阜市とは事情が異なる。

 岐阜県によると、長良川水系のアユ漁獲量は1992年の1029トンがピークで、04年には180トンまで減少した。その後、漁業者らがふ化事業や稚魚の放流などの対策を講じ、13年には300トンに回復させた。同協議会の玉田和浩会長は「長良川河口堰(ぜき)の魚道を通る稚魚数の調査では、海からの遡上は増えている。それなのに準絶滅危惧種なのか」と反発する。

 市の担当者は「(天然の文字を入れたことは)誤解を招きやすい一因だったと反省している。出荷している天然アユを否定する意図はない」と釈明したが、現状ではリストからの削除は難しいとみられる。

 選定の中心となった岐阜大の向井貴彦准教授(生態学)は「現在の自然環境を評価する基礎資料になるのがレッドリストだ。昔に比べてアユが減っていて、長良川の環境が大きく変わっているのは間違いない。これを機に自然を守るためにどうすればいいか考えてほしい」と話す。【道永竜命】

最新写真特集