どこかで見たぞシリーズ
彼女の必殺技
作:逃げ馬
今年も雨の季節・・・・・梅雨がやって来た。
空を灰色の雲が覆い、しとしとと雨が降り続く季節。
会社に出勤をするために街を歩いていると、紫陽花の花が雨に打たれながら咲いている。
そして、それと競うかののように街には『傘の花』が咲いて、雨の中を忙しく行き交っている。
昼休みになった。
窓から街を見ると、朝から降り続いた雨が嘘のように、青空から陽光が降り注いでいる。
今日は外で食べるか・・・・・僕は席を立つと、昼食を食べに出かけた。
お昼時は、どの店の前にも行列ができている。
僕も牛丼屋の前で行列に並び、カウンターに座って牛丼を食べると、『次の人』に席を譲って店を出た。
店を出て空を見上げると、朝の雨が嘘のように青空が広がっている。
まだ戻るには時間がある・・・・・僕はコンビニでペットボトルに入ったお茶を買うと、公園のベンチに腰をおろした。
特に理由があって、この公園に来たわけではない。
周りを見ると、同じようにベンチに座って新聞を読んでいる人。スマートホンを眺めている人。本を読んでいる人。中にはうたた寝をしている人もいる。
僕はポケットからスマートホンを取り出すと、動画サイトをチェックし始めた。
リストの中から一つの動画を選んで再生をした。
どうやら変身ヒーローもののようだ・・・・・主人公は女性だったが・・・・・。
しかし、この内容はどうかな・・・・・僕は思わず笑ってしまった。
何しろ戦った相手が、ヒロインによって・・・・・。
「アッ・・・・・その動画?!」
突然、声が聞こえて僕は、声が聞こえた方に振り向いた。
そこにいたのは・・・・・?
「・・・・・?!」
そこには、女性が立っていた。
どちらかというと、スレンダーな体つきだ。
白いブラウスが陽射しに映えて、目に眩しい。
ブルーのスカートが、爽やかさを感じさせている。
彼女は、大きな瞳で僕を見つめている・・・・・どこかでみたことが・・・・・?
僕は、手にしたスマホの画面に視線を落とした。
「?!」
彼女の顔と、スマホの動画の女性を見比べる・・・・・まさか・・・・・?
彼女は魅力的な微笑みを浮かべながら、僕のスマホの画面に視線を向けた。
ヤバい・・・・・そう思って隠そうとしたときには、僕のスマホは、彼女の手元にあった。
「フ〜ン・・・・・」
彼女は動画を見ながら、
「こういうのが好きなんだ♪」
大きなお世話だ・・・・・そう思いながらも、魅力的な女性に『自分の好み』を知られてしまうのは、少し恥ずかしかった。
「・・・・・それなら・・・・・」
あの娘なんて・・・・・どうかな?
彼女の視線の先には、学校帰りだろうか・・・・・夏服の女子高生が歩いていた。
もちろん可愛いけどさ・・・・・視線を彼女に向けると、彼女は両腕を伸ばして、掌を僕に向けていた。
この格好は・・・・・あの動画の・・・・・?!
そして彼女は叫んだ・・・・・。
「TSビーム!!」
彼女が叫ぶと同時に、彼女の両手が赤い光を放つ。
そのままじゃないか?!・・・・・突っ込みをいれてやろうと思った僕の体は、彼女の両手から放たれた光を浴びると同時に、体に強烈な『違和感』を感じた。
体が見えない何かに押さえつけられるような感覚を感じると同時に、僕の視線が下がっていく・・・・・否、体が縮んで服がブカブカになってしまった。
同時に髪がスルスルと肩にかかるほどに伸びていく。
胸の先・・・・・乳首が『疼く』・・・・・視線を落とすと胸がムクムクと、まるで女性のように大きくなっていく。
それに合わせるように、お尻が丸く膨らんでいく。
逆にウエストは細くなっていく・・・・・自分の体に起きている事が理解出来ず、僕は声を出すことも出来ない。
その間にも、肌は白くきめ細かくなり、足からは脛毛が消えて細くなり、太股には柔らかな脂肪がついて、女性らしい脚線美を作り出していった。
「エッ・・・・・?!」
股間にあるはずの、慣れ親しんだものが、まるで溶けるように小さくなっていく。
驚いて、自分のものとは思えない白い小さな手を股間にあてた。
その掌から逃げるように、慣れ親しんだものは小さくなって、やがて代わりに溝が刻まれた。
「そんな?!」
叫んだ声は、まるで女性の悲鳴のようだ。
呆然としている僕の視界の中で、着ている服に変化が起き始めた。
シャツの下で豊かに膨らんだ胸を、何かが包みこんで、その膨らみを優しくサポートした・・・・・それが何であるかは理解はしているが、自分がそれを身に付けていることは、認めたくはないが・・・・・。
突然、履いているはずのトランクスの感覚が消え失せた・・・・・代わりに滑らかな肌触りの下着が、トランクスよりも少ない面積をピッタリと覆った。
着ているシャツはボタンの位置が左右逆になり、柔らかい肌触りのスクールブラウスになった。
ネクタイが青いリボンに変わり、可愛らしく胸元を彩っている。
「?!」
脚が直接、空気にさらされている?
夏用のライトグレーのスラックスが、視界の中で短くなっていく。
膝上までの長さになると両足を包んでいたスラックスは一本にまとまり、襞が刻まれて、プリーツスカートになってしまった。
いつの間にか、足にはハイソックスを履いていた。
そんな・・・・・僕が女子高校生に・・・・・?
視線を前に向けると、彼女が微笑みながら僕を見つめている。
僕より背が低かったはずの彼女が、今では背の高さがほとんど同じだ。
それはそうだろう・・・・・今の僕は、『女子高校生』の姿になってしまっているのだから。
「どう? あなた好みの女子高校生でしょう?」
「元に戻してくれよ!」
『変身前』とは全く違う・・・・・自分の声とは到底思えない女の子の声で、彼女に詰め寄った。
迫力があるかどうかは、わからないが・・・・・。
彼女の顔に、笑みが浮かんだ。
「そんなに可愛らしい女の子になったのに?」
彼女がスッと右腕を上げ、人差し指を伸ばすとピタリと僕の額に指をあてた。
「・・・・・あなたの心を、その姿に相応しいものに変えてあげる・・・・・」
「?!」
いつの間にか、ベンチで眠ったらしい。
わたしは傍らに置いた、スクールバッグを手にして立ちあがった。
どうしてこんなところで・・・・・わたしは、自分の行動に戸惑っていた・・・・・何か大切なことを忘れている気もするのだが・・・・・。
ふと見ると、白いブラウスとブルーのスカートを着た美しい女性と視線が合った。
彼女が会釈をした・・・・・わたしも、会釈を返す。
さあ、もうすぐ夏休み・・・・楽しみが待っている。
その前にひと頑張り!
家に帰って勉強をしよう・・・・・わたしは、胸を張って歩いて行く。
その私を、魅力的な微笑みを浮かべながら、あの女性が見つめていた。
彼女の必殺技
(おわり)
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