夫婦間で自然に子どもができないとき、第三者の精子・卵子の提供をうけたり、第三者に妊娠・出産を依頼したりする医療はどこまで認められるのか。

 生殖補助医療をめぐる国内の議論は国会で合意をみず、法規制がないまま進められてきた。

 代理出産など、国内では原則受けられない治療を海外に求めた人たちも出ている。だが、夫婦と子どもの法的な親子関係の確定や国籍などで紛争になるケースもあとを絶たない。

 こうした事情をふまえ、生殖補助医療を扱う自民党の部会が法案をまとめ、今国会への提出をめざすという。

 第三者の卵子を用いた生殖医療でうまれた子の母は、出産した女性とする。また、第三者からの精子提供に同意した夫が後で父であることを否認することを禁じるといった内容で、法的関係を安定させる狙いだ。

 一方、併せて法制化が検討されてきた、代理出産や卵子提供の可否、認める際の条件などについては、合意が難しいとして先送りされるという。

 この動きをきっかけに、国会は党を超えて議論し、医療そのものの規制も含めた法制化に臨むべきだ。技術が許しても、どこかで一線を引く必要がある。

 第三者が妊娠・出産を担う代理出産は、命にかかわるリスクも伴う。依頼した夫婦がダウン症の子を引き取らない例など、海外ではトラブルも起きている。卵子提供も、人工的に排卵を促し採卵する提供者の負担は軽いものではない。

 いずれも倫理面から欧州では禁止している国もあり、慎重な検討が必要だ。

 こうした治療を受けるための行き先は、かつての米国から、より安価なインド、タイなどの新興国に移っている。生殖の商品化、搾取の側面は否定できない。日本法が及ばないから、と済ませるべき問題ではない。

 第三者の精子を用いた医療は、めだった議論がないまま実施されて60年以上たつ。この方法でうまれ、自分のルーツがわからないつらさを明かす人が近年出てきた。アイデンティティーにかかわる切実な訴えだ。

 「出自を知る権利」は、国連の子どもの権利条約にも記され、先進国では提供者情報の記録・保管と、希望する子への開示をする流れがある。

 国内で導入すると、「提供者が減る」との否定的な声が自民党内などにあるが、子どもと提供者を保護しつつできる情報提供の検討を避けてはならない。

 うまれてくる子どもの視点で考えるべき問題だ。