安倍首相の国民への説明は「丁寧ではない」が69%。「丁寧だ」は12%。朝日新聞の6月の世論調査の結果である。

 安全保障関連法案について、政府与党は来週の衆院採決をめざしている。だが、この期に及んでも国民の理解は進んでいない。そんな現状を打破すべく、首相が自民党のインターネット番組に出演している。「安倍さんがわかりやすくお答えします! 平和安全法制のナゼ? ナニ? ドウシテ?」

 どのような説明がなされているか。たとえば、集団的自衛権についてはこうだ。

 「不良が、安倍晋三は生意気なやつだから今夜殴ってやろうと言っている時に、友達のアソウさんが、俺はけんかが強いから守ってやるよと一緒に帰る。そこに3人ぐらい不良が出てきて、私の前にいたアソウさんをまず殴った。で、私もアソウさんをまず守る。これが昨年の憲法解釈を見直す時に、限定的にできますね、と認めたこと」

 抑止力については「戸締まりをしっかりしていれば泥棒や強盗が入らない。隣のお宅に泥棒が入ったのがわかったら、すぐに警察に連絡する。そういう助け合いがちゃんとできている町内は犯罪が少ない。これがいわば抑止力」。

 複雑な国家間の関係を単純化する。わかりやすいかどうかはさておき、戦後日本の平和国家としての歩みを一大転換させる法案の説明にふさわしいたとえ話だろうか。聞けば聞くほど、ナゼ? ナニ? ドウシテ?が頭をもたげてくる。

 国民の「わからない」は「わかりたい」の裏返しでもあるはずだ。

 首相は「丁寧に説明したい」と繰り返すが、国会で個別事例に即した議論を迫られると、政府見解を長々と説明したりはぐらかしたりヤジを飛ばしたり。「説明は全く正しいと思いますよ、私は総理大臣なんですから」と言ってのけたことも。

 首相は何か、思い違いをしているのではないか。

 異なる意見を持つ者の間に橋を架ける。それが政治の、とりわけ首相の大事な仕事だ。

 そのために、数におごらず、「身内」ではない批判者や反対者の疑問や不安を真正面から受け止め、理を尽くし、情を傾けて説得する。すべての人の同意は得られなくても、橋を架ける努力をしたという事実は「次」への土台として残る。

 架橋を放棄し「身内」だけで編んだ綱は太く見えても弱く、短い。その上を渡るがごとき首相の政治姿勢は危うい。