社説:中国株急落 市場の統制は逆効果だ
毎日新聞 2015年07月09日 02時40分(最終更新 07月09日 10時51分)
中国の株式市場が動揺し、世界経済の新たな不安材料となってきた。代表的な株価指数である上海総合指数は先月半ばまで急騰を続けた後、一転、急降下を始め、3週間ほどで約3割も下落した。当局のパニック的な対応が投資家の不安心理をあおり悪循環に陥っている。
企業も自社株の急落を阻止しようと、相次いで証券取引所に売買停止を申請した。その結果、上場企業の半数以上が、取引できない異常事態にあるという。混乱は日経平均株価が今年最大の下げ幅となった東京市場など国外にも波及している。
金融不安に発展しないよう、中国政府と中央銀行は警戒が必要だが、あからさまな株価対策は、市場の自律的な機能をゆがめるだけで逆効果だ。冷静な対応が求められる。
株価の急速な高騰をもたらしてきた根っこの要因に目を向ける必要があろう。
習近平政権は、高度経済成長から安定的な成長へのスムーズな移行を目指している。景気が急に冷え込まないよう、中央銀行の金融緩和で刺激を与える半面、不動産市場の過熱抑制策をとってきた。結果、行き場を失った投機マネーが株式市場に向かい、上海総合指数は先月半ばまでの1年間で約2.5倍に膨らんだ。
株式市場のバブルを警戒した政府は、過熱の背景になっていた信用取引の規制強化などに動いた。一方、一段の金融緩和による株価上昇を見込んでいた市場は、期待が外れ、一気に株の売り圧力が強まった。
結局、カネ余り状態を作ったことが、市場を不安定にしたといえよう。行き過ぎた高騰の修正が起こるべくして起きたということである。相場維持策を総動員しても、長続きする効果が得られないばかりか、市場として信用を失うことになる。大手保険会社などを通じた上場投資信託の大量購入や、株式の供給過剰につながる新規株式公開を停止するなど、逆に当局のあわてぶりを印象付け、投資家を不安にしているようだ。
必要な投資情報が公平かつ迅速に行き渡り、自由な売買が約束されていてこそ発展する株式市場である。株価対策としての売買停止は投資家の不信を招き、後の売り圧力を極端に膨らませる結果にもなる。
不慣れな個人投資家が多数参加している中国の株式市場は未熟だが、その相場の急変は国内消費を左右し、世界経済にも大きな影響を与えかねない。
一方、市場が重要な役割を担う経済になることは、成熟した先進国の地位を得る上で欠かせない条件の一つである。習政権も市場の役割を重視する方針だったはずだ。世界は今後の対応に注目している。