朴大統領の周囲には神秘的なムードが漂っている。朴大統領がいつ出勤するのか、今どこにいるのか、大統領府の秘書室長でさえ分からないことがある。旅客船「セウォル号」沈没事故が起こったとき、さんざんひどい目に遭いながらも、中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)が発生したときには担当の閣僚から報告を受けるまで6日もかかった。人々は「なぜこうなのか、理解に苦しむ」と、もどかしく思っている。だが、大統領と閣僚の関係ではなく、王と臣下の関係だと考えてこれらの事象を見れば、そうおかしくは思えない。
前任の秘書室長の時代には、首席秘書官たちは秘書室長にも業務報告をしていたという。その秘書室長は「上の方の意向に従って」といった、王朝時代のような言葉を口にしながら朴大統領に仕えていた。そうして、大統領と閣僚、首席秘書官の関係は、君臣関係と言っても過言ではないようなありさまになった。閣僚の態度が気に入らなければ、大統領は更迭すれば済むことだ。ところが朴大統領は、前代未聞の「免職発表」までした。これは法律上の任命権を行使するのではなく、部下や臣下の不忠を懲らしめる行為といえる。
朴大統領は依然、熱烈な支持者を抱えている。ほとんど無条件に支持しているといってよい。かつて、朴大統領が選挙応援に出向けば、どこでも歓声に包まれた。全羅道でも人々が駆け付け、その姿を一目見ようと集まった。美容院でパーマをかけてすぐに駆け付け、歓声を上げる人もいた。それは政治的な支持ではなく、愛情に近いものだった。朴大統領の家柄に同情する心情も混ざっていた。そのような政治家は朴大統領以外にはそうそういない。朴大統領が「私は普通の政治家とは違う」と考える背景には、このようなことがある。