日本の英語学習者にとってネイティブスピーカーのような英語の発音は憧れの対象であることが多いようです。「でも海外留学をしないとネイティブスピーカーのような発音は身につけられないのでは?」こう思っている人はかなり多いようです。
一般論としてはこのようなことが言えるかもしれませんが、海外留学だけが英語の発音を身につける唯一の方法ではありません。下の2つの音声を聞いてみてください。
Gettysburg Address(アメリカ英語)
画像出典:www.telegraph.co.uk
Momotaro(イギリス英語)
画像出典:hanamiblog.net
これらの音声は私が自分で録音し作成したものです。
ここまでする必要はないのですが、私は海外留学することなくこうした比較的標準的な「アメリカ英語」と「イギリス英語」の発音を2つとも身につけることができました。
一般に「英語の発音は海外留学しないと身につけられない」と言われています。しかし、発音に関して言うのならば、絶対に留学しないとだめだということはありません。頑張れば少なくともこれくらいの発音には到達可能です。
この記事では、今年で英語教師歴10年目になる筆者がどのようにして海外留学なしでこうした標準的な発音を身につけることができたのかということを簡単にお話ししたいと思います。
この記事の目次
工夫した音読をする
画像出典:https://pixabay.com
私が今も昔も続けていることは、音読です。本屋の英会話・英語学習コーナーへ行くと、驚くほど「音読」に関する本が多いことに驚きます。いつのころからか英語が話せるようになるためには、音読が重要だと世間でも叫ばれるようになりました。英語の発音をよくするためにも、また「音読」というトレーニングは重要です。
「音読ならやってきたけど、英語の発音はなかなかよくならなかった」
ずいぶん前からもう世間で音読の重要性がこれだけ叫ばれているわけですから、このようにおっしゃる人も多いのではと思います。音読は試したけどなかなか英語の発音が上達しなかったという人は、おそらく「音読に工夫が足りなかった」のではと思っています。
特別なことをやってもいないのに英語が上手な人の多くは、誰から教わることもなく、これからお話しする「工夫した音読」を使い分けていることが多いです。
リピーティング(Repeating)
中学校や高校では英語の授業で次のような発音練習をさせます。
先生:Repeat after me. “apple”.
生徒:”apple”
先生のお手本に続いて、生徒が見よう見まねでおうむ返しに発音を繰り返すというものでリピーティング(repeating)と呼ばれています。”apple”のような簡単な単語レベルなら、このリピーティングだけでも発音はかなり向上できるのですが、長い複雑な文レベルものになればなるほど、単純にリピーティングだけでは難しくなります。
ためしに、次の英文をお手本の音声に続いてリピーティングしてみてください。
Apple is an American multinational technology company headquartered in Cupertino, California, that designs, develops, and sells consumer electronics, computer software, online services, and personal computers.
(Wikipediaより:一部改変)
長くて複雑なのであたりまえなのですが、リピーティングは一気に難しくなります。なので、こうした長い英文をリピーティングする時は、たいてい次のように短く切って切れ目ごとにリピートをすることが多いです。
//Apple is an American multinational technology company /
headquartered in Cupertino, California, /
that designs, develops, and sells consumer electronics, /
computer software, online services, and personal computers. //
リピーティングする英文素材を細切れにするメリットは、記憶をためておく脳の部位へかかる負担が軽くなり、お手本の音声が頭に残りやすくなります。上の切り方は一例ですが、通例は「意味の切れ目」で切ることが多いです。
画像出典:www.smartspeechtherapy.com
「リピーティングなら昔からやっているけど発音はよくならないぞ!」
そうおっしゃる人も中にはいるかもしれません。そうした原因はおおきく分けて次のようなものが考えられます。
①お手本の音声のイメージを忘れてしまう
②文字情報から発音に先入観がある
まずは、①から考えてみたいと思います。
①はつまり、「お手本を聞き終わってから発音したのでは再現性が低い」ということです。つまり、お手本の印象が頭の中にもっと強く残っているうちに発音するために、お手本の再生と自分が発音する間の時間を限りなく短くします。
パラレル・リーディング(Parallel Reading)
パラレル・リーディング(parallel reading)とは「お手本の音声が流れてくるのに合わせて、ほぼ同時に発音していく音読」で、別名オーバーラッピング(overlapping)とも呼ばれています。
厳密にはお手本の音声が流れたほんの一瞬後に発音をするので、そういう意味では「お手本の再生と自分が発音する間の時間を限りなく小さくした究極のリピーティング」と言えるかもしれません。
リピーティングを続けているのに、なかなか発音がよくならないといういう人はぜひこのパラレル・リーディングをためしてください。
慣れるまで少し時間がかかりますが、何度か同じ音声をつかってやっているとコツがつかめてきます。もし、ここまでやっているのに効果が感じられない人がいるとしたら、それは先ほど挙げたふたつめの理由の「文字からの発音の先入観」に苦しめられている可能性があります。
シャドウイング(Shadowing)
画像出典:www.youtube.com
お手本の音声に合わせて発音をしていく音読をパラレル・リーディングといいました。パラレル・リーディングではリピーティング同様、「文字を見ながら発音する」ことが許されていましたが、文字を見ないでお手本とほぼ同時に発音していくトレーニングがシャドウイング(shadowing)と呼ばれる音読です。
シャドウイングは文字情報を頼りにできず、かつ、お手本の音声とほぼ同時に発音をしなければならない(厳密にはお手本のほんの少しだけ後)ため、最も難しいとされている音読トレーニングです。純粋に「聞いた音声の印象」を元に発音を再現するという意味では、子供が言語を覚えていくプロセスに近く、もっとも原始的かつ自然なトレーニングと言えるかもしれません。
文字情報がないということは、結構な人にとってかなりの不安要素になることが多いようです。
「ろれつの回っていないような発音になってしまって恥ずかしい」
こうした声を漏らす人も多いようですが、これもシャドウイングの過程で経験することです。文字情報による先入観に邪魔されることなく、お手本の音声をできる限り忠実に再現しようと格闘している姿なのです。「文字を見ないで」という意味では、シャドウイングは実際に英語を話す状況に似ています。
しかし、大人の場合シャドウイングだけやっていてもなかなか発音はよくなりません。文字とうまく付き合いながら、また、文字の影響を受けすぎずに音読の練習と付き合っていかなければならないのです。私の場合、試行錯誤する過程でこうしたいろいろな種類の音読を発見しました。
そして、リピーティング⇄パラレルリーディング⇄シャドウイングをバランス良く組み合わせて練習することが発音を向上させることに自分で気づきました。
発音の理論を学ぶ
上記で述べたような発音を身につけるための音読は、いわば「トレーニング」です。トレーニングは、自分の身体でルールを覚えるためにやるものですが、それだけでは大事な要素を取りこぼしてしまうこともあります。そうした時には既存の「理論」を学ぶと、パフォーマンスが安定します。ここでは、発音の理論である「英語音声学」について簡単にお話しします。
英語音声学とは
画像出典:www.telegraph.co.uk
私は大学では英語英文学科というところに進んだのですが、そこで「英語音声学」という学問分野に出会いました。英語音声学とは、簡単にいうと英語の発音のメカニズムを詳細に説明してくれる学問です。人によっては非常に難しく感じることもあるようですが、上で述べたような音読トレーニングをしっかりやっていれば問題なく学ぶことができます。
私の場合も高校時代からリピーティング⇄パラレル・リーディング⇄シャドウイングといった一連の音読トレーニングを繰り返し行い、音声英語の基礎が固まっていたので自然に学ぶことができました。それまではなんとなく体当たりで身につけていた発音が、英語音声学を学んだことでいっそう磨きがかかりました。
英文科の人が大学で学ぶような専門分野ではあるのですが、一般の英語学習者にも十分理解可能な領域です。英語音声学から学ぶことができるものには、例えば以下のようなものがあります。
①個々の発音について(発音記号、発音生成のメカニズム)
②英語のリズムについて(英語独特の強弱リズム、等時性)
③英語のメロディについて(声の上げ下げ、イントネーション)
④アメリカ英語とイギリス英語の発音の違いについて
①に関しては、母音と子音の定義から始まり、それぞれの母音と子音がどのように生み出されるのかということを図解で学ぶことができます。また、IPA(International Phonetic Alphabet:国際音声子母)と呼ばれる音声記号を元に、発音記号も体型的に学ぶことができます。
②に関しては、英語特有の強弱のアクセントの説明から始まり、強勢を等間隔で表すことができるといったことまで学ぶことができます。たとえば、次の英文は強勢を等間隔で読むと実に英語らしいリズムになります。
Húmpty Dúmpty sát on a wáll
Húmpty Dúmpty hád a great fáll
Áll the king’s hórses and áll the king’s mén
coúldn’t put Húmpty togéther agaín
画像出典:blog.hix05.com
③のイントネーションや④のアメリカ英語とイギリス英語の違いなども、体型的に英語の発音を学んだことのない人には目からウロコの情報が満載です。
おすすめの書籍
ここで、一般の人でも読めるおすすめの英語音声学の入門書籍を紹介します。
Amazon.co.jp: 英語音声学入門 (英語・英米文学入門シリーズ): 松坂 ヒロシ: 本
『英語音声学入門』はその名の通り英語音声学の入門書です。個々の発音の説明から始まり、音の変化、リズム、イントネーションまで触れていて、非常にわかりやすく書かれています。著者の松坂ヒロシ先生自身もすばらしくきれいな発音の使い手で、まさに理論と実践を極めている英語の達人と言えます。
章の合間に書かれているコラムもご自身の経験に基づいたもので、わかりやすいものばかりです。別売りのCDも販売されていますので、練習用にぜひ活用してみましょう。
まとめ
英語の発音は理論と実践でかなり身に付きます。センスがいい人は実践だけで身に付いてしまいます。残念ながらすべての人がそういったセンスの持ち主とは限りません。まずは、上で述べたような工夫した音読のトレーニングをいろいろと組み合わせながら、体当たりで頑張ってみてください。
それでもだめなら英語音声学の理論を活用して発音の練習に取り組んでみてください。いっそうの効果が期待できます。
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