UXにおけるマイナス体験を考える
UXチームの宮村です。
少し前に、「荒木飛呂彦の漫画術」という本が集英社から出たのですが、ご存知の方いらっしゃいますでしょうか? 荒木飛呂彦さんは「ジョジョの奇妙な冒険」という有名な漫画作品を描き続けていますが、そこで培った漫画作りの王道を、惜しげも無く披露されています。この本の中で出てくる考えにはUXデザインとも関係するポイントが数多くあり、興味深く読むことが出来ました。
「ストーリー」におけるマイナスの法則
漫画は「キャラクター」「世界観」「ストーリー」「テーマ」といった基本四大構造を絵や言葉で構成していく、ということが書かれていましたが、UX設計(ターゲットユーザーの定義、UXシナリオ/カスタマージャーニーマップなどの体験設計など)やUI設計にも共通する考えであると感じました。例えば、キャラクターを作るときには必ず身上調査書を作るという話が出てきますが、キャラクターの特徴をうまく捉えている点など、まさにペルソナづくりに共通するものがあり……と、UX設計/UI設計と漫画作りの関係性を書き出していくといくらでもかけてしまうのでこの辺で止めておきますが、一つ、特に興味深いと思った考え方がありました。
それは、ストーリー作りにおけるマイナスの扱いです。
荒木飛呂彦さんは著書の中で、「読者に喜ばれる王道のストーリーは、主人公が常にプラスに向かっていくストーリーであること」ということを書かれています。途中でマイナスになる展開が続くと、読者はつまらないと思ってその作品に対する評価を下げたり、読むのをやめたりしてしまうのだそうです。よって、ストーリーが始まったら、主人公は常にプラスに向かっていくのが王道である、とのことでした(当然、革新的に王道ではない手を使うということもありますが、ここではあくまでも王道の話としてです)。例外として、ストーリーのスタート地点をマイナスから始めることもあるそうですが、最初のマイナスから常にプラスに登り続けていけば、「常にプラスに向かっていくストーリー」を作品全体で維持することが可能です。逆を言えば、基本的にはマイナスに向かってはならないし、プラマイゼロで終わってもいけない。それこそが漫画のストーリーづくりにおける黄金の道である、という話でした。
確かに、自分がいろいろな作品(漫画、小説、ドラマ、映画に限らず)を観てきた中で振り返ってみると、途中で主人公たちの可能性が制約されたり、立場が弱まったり、悪いことが続いたりすると、とてもつまらなく感じたものです。最悪な場合はその作品自体嫌いになり、観続けなくなってしまいます(大抵は、文句言いながらも観続けはするのですが、ストレスを感じる状況が続きます)。相当マゾな読者(笑)でも無い限り、普通はそうなのではないでしょうか?
ストーリーにおけるプラスとマイナスの法則に逆らってしまうと、読者に喜ばれにくいストーリーになってしまうことがよくわかります。
サービスにおけるマイナスの体験
このマイナスの話は作品と読者の関係にとどまりません。実際のサービスを享受するユーザー/消費者としての立場の時にも、同じようなことが言えます。
サービスを利用していく中でマイナスの体験をしてしまったら、そのサービスの必要性が高く無い限りは二度とそのサービスに戻って来ることはないでしょう。必要性が高い場合は、不満を抱えたままサービスを利用し続けることになってしまいます。そのサービスブランドにとってはどちらにしても損失です。
また、ストーリーにおけるマイナスの法則とはちょっと違う点として、サービスの体験スタートがマイナス、については×です。
スタート地点がマイナス、というのは、例えばVirpi Roto(2007)のモデルでいうところの予期的UX(ブランドイメージ、広告、記事、利用者のレビューなどからサービスの体験を事前理解するような段階)でネガティブな印象を持ったり、インタラクション中のUX(実際にサービスを利用している段階)の初期段階で悪い意味でのギャップを感じたり嫌な体験や困った体験をすることです。予期的UXの段階でマイナスであったら、そもそもそのサービスを利用しようとは思いませんし、興味も持ちません。インタラクション中のUXの初期段階でマイナスの体験をしたら、サービスの価値を理解する前に即そのサービスから離脱してしまいます。
ストーリーにおけるマイナスの法則と違って、サービスにおけるマイナスというものは、それがスタート地点であれ途中であれ、基本的には決して生じさせたくはない体験であると言えるでしょう。
ここで考えられるマイナス体験は、UXやUI設計をしていく上である程度は見つけられる可能性があります。設計物に対してウォークスルー評価やユーザビリティテストを行ったり、様々な立場の人々同士でアイディアに意見を言い合ったりすることで、マイナス体験を生じさせる要素を発見することができます。僕らはユーザーに提供すべきUX設計を行うわけですが、より良い要素を考えるだけでなく、その中で問題となる要素は極力排除しようと検討しています。ですが、小さなマイナス体験、特に、繰り返しの体験の中で発生し蓄積されていくものは、設計段階や評価段階、サービスのローンチ段階ではなかなか見つけ出しにくいものです。
繰り返すことで生じる小さなマイナス体験
幾つか例を挙げてみます。
僕はポイントカードなどは極力持たない派です。ポイントカードを利用するお店のレジでは、「◯◯カードはお持ちですか?」と毎回聞かれるのですが、「持っていません」「いりません」と断っています。今まで何回断ったのか、これからの一生で何回断るのか想像も付きませんが、これもひとつのマイナスの体験であると感じています(気にし過ぎなのかもしれませんが、個人的には結構うんざりしています……)。サービス提供者側としては、カード利用者にとってプラスと思って声をかけるというスクリプトを運用しているわけですが、店舗を頻繁に利用するカード未利用者にとっては、永続的にマイナス体験が続いてしまいます。
他にも、レストランなどで注文する際にドリンクやおすすめの注文を追加で案内されることがありますが、これもよく行くレストランで毎回断りを入れるということになると、やはり繰り返されるマイナス体験となってしまいます。よく利用するスマホアプリのロードが少しだけ他より時間がかかる、ECサイトで毎回同じ商品をサイトの深い階層から探しだして購入しなければならない、子どものために購入したブルーレイディスクの再生に時間がかかる(読み込みが遅い、広告が多い、メニュー選択がしにくいなどで)など、繰り返し利用する中で小さなマイナスは大きなマイナスになっていくのです。
マイナスの体験要素を(極力)無くすために
このような蓄積されていくマイナス体験は、単発の体験だけを踏まえて設計や評価をしてしまったり、サービス側が思う正しいユーザーのみを踏まえて考えてしまうことから発生します。「このくらい許容範囲」という小さなマイナス体験要素でも、繰り返しの利用を前提としたサービスでは、ユーザーが徐々に離れていってしまうことも考えられます。
これを見つけるためには、繰り返しの利用を踏まえた設計視点や評価視点を保つ必要がありますし、サービスローンチ後の実際の利用者の体験をウォッチし続けていく必要もあるでしょう。
その際のキーポイントは「繰り返す行為」です。以下のような視点で繰り返す行為にフォーカスして確認することで、小さなマイナス体験要素を見つけやすくなるのではないかと考えられます。
- 複数回の利用体験の中で同じことを繰り返す行為が発生しているか?
- その繰り返す行為は繰り返すにしたがって面倒に感じてくるか?
- その繰り返す行為はユーザーにとってネガティブなコミュニケーションやインタラクションになっていないか?
- その繰り返す行為はユーザーにとって重要ではない行為か?
確認する、探す、入力する、設定する、始める、終わらせるなど、サービスを利用する上で繰り返される可能性が高い行為において、上記のようなことが発生していないかどうか?を確認することで、見いだせる可能性が出てくると思います。
また、これをサービスにとって正となるユーザーだけではなく、正ではないユーザーなど様々なユーザーを踏まえて確認しておくことが重要です。前述のポイントカードの確認をするマイナス体験の例を取り上げてみましょう。
サービスにとって正となるユーザー(ポイントカードを持っているユーザー)だけで考えると、
- 複数回の利用体験で同じことを繰り返す行為が発生しているか?
⇒部分的にイエス。ポイントカードを出し忘れたときだけその有無を聞かれる。 - 繰り返すにしたがって面倒に感じるか?
⇒ノー。限定的であり、かつ、出し忘れを防止してくれるので問題ない。 - ネガティブなコミュニケーションやインタラクションになっていないか?
⇒ノー。助かっているのでポジティブ。 - ユーザーにとって重要ではない行為か?
⇒ノー。リマインドをしてくれる重要な行為である。
となり、この繰り返し行為にはほぼ問題がなくマイナス体験が無いように感じます。これが正ではないユーザー(ポイントカードを持っていないユーザー)になると、
- 複数回の利用体験で同じことを繰り返す行為が発生しているか?
⇒イエス。毎回レジでポイントカードの有無を聞かれる。 - 繰り返すにしたがって面倒に感じるか?
⇒イエス。自分には関係のない質問に毎回答えなければならないため、徐々に面倒に感じるようになる。 - ネガティブなコミュニケーションやインタラクションになっていないか?
⇒部分的にイエス。「持っていない」と否定的な回答を毎回することが面倒なだけでなく苦痛に感じる人もいる。 - ユーザーにとって重要ではない行為か?
⇒イエス。ポイントカードを利用しない、と決めているユーザーにとっては無関係で重要ではない行為である。
ということで、一転してマイナス体験が繰り返される行為に転じてしまいます。このように、一人のユーザーの体験を確認するだけではなく、複数の状況・立場のユーザーを確認することが小さなマイナス体験の発見には重要になると思われます。できれば、この後者のユーザーのマイナス体験は生じないようにするか、もしくはこのマイナス体験からプラスに移行できるような流れを生み出せるようにできるとよいですね。
終わりに
見えにくい小さなマイナス体験要素を発見・改善していくことは、サービス全体の質を高めることや愛されるサービスづくりにも繋がります。これを実践するには頭の中で考えるだけではダメで、様々なユーザーの実際の状況やインサイトを知らなければこのような要素には気づけません。本質的なUXデザインを心がけることで、マイナス体験を減らすことはもとより、マイナス体験を改善したり、マイナスをプラスに転換する施策を考えられるようになっていきたいものです。
デジタルマーケティングプロデュース事業部
ソリューションデザイングループ UXチーム
UXデザイナー 宮村 和実
2001年より、ネットイヤーグループ株式会社にてIA/UXデザイナーとして活動。情報アーキテクチャやユーザーエクスペリエンスデザインの専門家として、UX/UI設計や評価に従事している。クライアントやパートナーなど関係者を巻き込んで、設計のディスカッションを行うことが多い。また、社内でのIA/UX教育も進めている。
UXチームについて
クライアントビジネスの課題の本質や、誰も気づかなかった課題を、ユーザーの行動データやインタビュー、経験知から導出・発見。その課題解決に向けて、ユーザー心理・行動に沿った最適なシナリオを描き、それを具現化するコンテンツや機能、ソリューションを設計(デザイン)していくチームです。経験者絶賛募集中!
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