中国は国家目標を細かく分け、段階的に達成する能力が優れている。中国の今をつくった改革開放政策も実は4つの点(経済特区)から始まり、それを線でつなぎ、全国へと広げる段階的戦略だった。外交・軍事面でも中国は「サラミ戦術(サラミソーセージを薄く切るような段階的交渉術)」に長けている。1990年代初めの採用した「列島線戦略」が代表的だ。3段階から成る列島線戦略は、米軍が掌握した南中国海(南シナ海)とインド洋、太平洋に対する影響力を段階的に高めることが目標だ。20年以上が経過した現在、習近平主席がオバマ大統領に「太平洋は中国と米国をいずれも受け止めるだけの大きさがある」と大言壮語するほど中国の海軍力は変貌した。
中国はサラミ戦術を終末高高度防衛ミサイル(THAAD)問題でも駆使している。THAAD問題をまず提起したのは中国の民間学者や退役軍人だ。中国軍部で代表的なタカ派である尹卓・予備役海軍少将は昨年8月、中国国営テレビ(CCTV)のインタビューで、「THAADの韓国配備は韓中関係を損ねる可能性があり、韓国は他国の核による先制攻撃を受ける可能性がある」と脅した。
民間で火を起こし、それを政府がたきつける。中国の劉建超外務次官補は今年3月に韓国を訪れ、韓国外交部(省に相当)だけでなく、国会でまで「THAAD反対」を強調した。常万全国防部長も同じ時期、ソウルで同様の立場を示した。このように中国は最初に民間人を使って韓国の反応を見た上で、特に反発がなければ、発言のレベルを高め、結局は反転不能の状況を定着させようとする。
こうした状況を招いたのは、韓国政府が当初中国の主張に論理的に反発できず、あいまいな態度を取ったためだ。韓国政府はTHAADを採用するかどうかは別として、最初から「韓国の生存問題に中国は内政干渉するな」とクギを刺すべきだった。そして、その原則を一貫して主張すべきだった。THAAD問題で韓国が中国に「低姿勢」を取る理由は何もない。中国が致命的な攻撃兵器である北朝鮮の核は放置し、北朝鮮の核攻撃から生き残るための韓国の防衛手段だけを問題視するというのは話にならない。