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時論公論 「どうする五輪メインスタジアム計画」

中村 幸司  解説委員

2020年のオリンピックの東京開催が決まり、開会式などが行われるメインスタジアムについては、国立競技場を建て替えることになっています。
この新しい競技場をめぐって、いま議論が高まっています。担当大臣が規模を縮小する考えを示したほか、建築家などの間からも見直しを求める声が上がっています。
メインスタジアムの何が問題になっているのか。今後、建設計画をどう進めていけばよいのか考えます。
 
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メインスタジアムは、東京にある国立競技場を取り壊して、新たに建設されます。2013年9月に行われたIOC・国際オリンピック委員会のプレゼンテーションで紹介されたことは、記憶に新しいところだと思います。
デザインは、国際コンペによって選ばれました。世界各国から寄せられた46の応募の中からイギリスの建築家の作品に決まりました。開閉式の屋根を支える2つのアーチが印象的で、コンペでは「スポーツの躍動感を思わせるような斬新なデザイン」と高く評価されました。8万人を収容、床面積を合計した延床面積は29万平方メートル、建物の高さはおよそ70メートルです。
 
しかし、この計画については、建築の専門家などから様々な指摘が出されています。

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ひとつは「規模や建設費が大きすぎる」。そして「オリンピックが終わった後も有効に活用できるのか」、「周囲の景観との調和がとれているか」といったものです。
 
このうち、規模については、2013年10月、下村オリンピック・パラリンピック担当大臣が、縮小する考えを示しました。当初の想定では、1300億円とされる建設費が、デザインを忠実に実現すると3000億円かかると試算されたためです。
 
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新しい競技場の規模はどれくらいなのでしょうか。

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収容人数と延床面積を現在の国立競技場と、新しい競技場と比べると、面積は新しい競技場の方が5倍以上あります。収容人数が同じロンドンオリンピックのスタジアムと比べても2倍以上。過去最大規模とされる北京オリンピックの会場よりも広いのです。
建設費を抑えるために、国立競技場を管理・運営する「日本スポーツ振興センター」では、「現在、規模や構造、材料などが最適なものになるよう検討している」と話しています。下村大臣は、コンペのデザインは生かし、収容人数の8万人は維持する一方、建物の周りを回る立体通路を縮小するなどして、費用を削減させるとしています。
 
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国は建設費を試算の半分程度にまで圧縮する方向で検討していますが、大幅な費用削減をデザインを生かしながら行うことは、どこまで可能なのでしょうか。デザインの少なからぬ変更、あるいは当初、想定された建設費からの上積みが避けられないのではないかとも指摘されています。
また、そもそもコンペの際に、建設費が想定を大きく超えるデザインかどうかの検証がどこまでできたのか、疑問が残ります。
 
もう一つの問題は、オリンピックが終わった後の活用です。
スポーツ振興センターを取材すると、「各スポーツ団体が競技場にふさわしい大会の誘致を検討してほしい」と答えるにとどまっています。
新しい競技場は、屋根が閉まる多目的スタジアムで、スポーツ以外にコンサートなどにも使われる予定です。しかし、8万人の観客席を必要とするコンサートが、年間どれだけ行えるのでしょうか。

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オリンピックの後、スポーツ大会やイベントの開催が、どれくらい見込まれるのか、具体的に示すことが求められます。
施設が大きくなると維持費も高くつきます。国立の競技場ですから、建設費や維持費は国民の負担となって跳ね返ってきます。
8万人の観客席の一部を仮設にして、オリンピック後は撤去し、建物の規模を抑えるというのも選択肢の一つかもしれません。
 
この競技場は、スポーツの中でも、特にラグビーとサッカー、それに陸上の3つの競技については、最高水準で実施できるよう設計することになっています。しかし、オリンピック後は、規模の大きな陸上の大会を開催できないという問題があります。
こうした大会では、競技場とは別に、ウォーミングアップをするための400メートルトラック、つまり「サブトラック」があることが必須条件になっていますが、新国立競技場にサブトラックはありません。敷地に余裕がないからです。

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オリンピックのときは、隣の絵画館の前の敷地に一時的にサブトラックをつくる予定ですが、オリンピックが終われば撤去されます。
サブトラックの設置には、数億円の費用がかかるとされ、大会のたびに作るのは現実的ではありません。つまり、いまの計画ではオリンピック終了後、陸上競技は国際大会だけでなく、国内の全国レベルの大会も開催できないのです。
 
国立競技場周辺は、「明治神宮外苑」と呼ばれています。いちょう並木や絵画館など、落ち着いた雰囲気のあるこの一帯は、東京都が最初に風致地区に指定した場所です。
 
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国立競技場の敷地は建物の高さが原則15メートルに制限されていますが、2013年6月に都市計画が決定され、自然の景観が維持されるなどの条件を満たせば、高さは75メートルまで緩和されます。新しい競技場はこの都市計画決定を適用して建てられることになります。
「巨大な競技場は風致地区の景観を損なう」という意見がある一方で、「オリンピックの象徴的な建物としてのインパクトは必要だ」とする意見も聞かれます。景観のとらえ方について、一概にどちらが正しいと、判断することは難しいと思います。
ただ、建物の高さを抑えるようにしている風致地区に、高さ70メートル規模の競技場を建設するには、一定の理解を得るための説明が必要だったように思います。
 
これまでの経過をみてみると、新国立競技場の計画は、手続きを短期間で進めてきたという印象がぬぐえません。
国立競技場を建て替えることが決まったのは、2012年3月のことです。コンペの期間も、2か月あまりと短く、デザインが決定したのは、建て替えが決まってから8か月後です。試算で建設費が3000億円にまで膨らんだ背景には、こうした余裕のないスケジュールがあるように思えます。

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今後も、時間は限られています。
計画では、2013年10月には基本的な設計に入る予定でしたが、11月現在、まだできていません。一方で、オリンピックの前の年、2019年のラグビーのワールドカップは新しい国立競技場で開かれることが決まっています。
これから検討や協議に多くの時間をかけるのは難しくなってきていますが、どれくらいの規模、予算の競技場にするのか。時間がない中でも、いくつかの案を国民に示しながら最終的に絞り込むといった、より透明性の高い手続きを踏んで、競技場の姿を決めていくことが必要ではないでしょうか。
 
49年前の東京オリンピックは、新幹線が開業し、首都高速道路の整備も進むなど、高度経済成長の中での開催でした。しかし、いま、全く違う状況のもと、日本は2回目の東京オリンピックの準備を始めています。
高齢化が進み、東日本大震災の復興の途上にあるという中で、どのようなオリンピックを世界に示していくのか。メインスタジアムになる新国立競技場の計画をめぐって高まっている議論は、そうしたオリンピックのあり方を考える議論にも、つながってほしいと思います。
 
(中村幸司 解説委員)

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