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SATORI『トゥー・マッチ・ラブ・ウィル・キル・ユー!』

2015年上半期のバンドシーンを振り返る。「シティポップブーム」の本質とは?

2015年上半期のバンドシーンを振り返る。「シティポップブーム」の本質とは?

テキスト:金子厚武 (2015/07/08)

ブラックミュージック寄りのポップスが席巻した、2015年上半期のバンドシーン


京都発の男女5人組SATORIがニューシングル『トゥー・マッチ・ラブ・ウィル・キル・ユー!』を8月19日に発表する。僕は昨年10月に『「4つ打ち」の次にくる邦楽バンドシーンのトレンドとは?』というコラムの中で、「ファンク、ソウル、R&B、ディスコといった、ブラックミュージックの要素を含むポップス」が次のトレンドになるということを書き、彼らがリリースしたミニアルバム『RHYTHM OF THE NIGHT WAVES.』を紹介したが、2015年の上半期を振り返ってみると、実際にそういう傾向にあったと言っていいのではないかと思う。




先のコラムでも名前を挙げたShiggy Jr.がやはりディスコファンクな曲調のシングル『サマータイムラブ』でメジャーデビューを飾ったことを筆頭に、Awesome City Club、Yogee New Waves、Lucky Tapes、Suchmosといった若手バンドが次々に頭角を現し、クラブシーンからはSugar's Campaignがメジャーデビュー、シンリズムや入江陽といったソロアーティストも注目を浴びた。こうしたブラックミュージックを基盤としたポップスを鳴らす若手アーティストたちの台頭に合わせ、ここ数年インディーシーンの流行語となっていた「シティポップ」というワードが改めてクローズアップされ、1980年代のオリジナルとは異なる「新しいシティポップ」として注目を浴びることになった。


「4つ打ちブーム」を先導したバンドたちの活躍と貢献


こうしたバンドの生み出すファンキーでグルーヴィーなリズムは、同じ4つ打ちであったとしても、それまでフェスなどで重宝されたBPMの速い縦ノリの4つ打ちとは異なり、結果的に「4つ打ちブーム」に対してある種のカウンターの役目を果たしたと言っていいと思う。ただ、よくよく考えてみると、以前までの「4つ打ちブーム」を先導したバンドの中にも、実はブラックミュージック的な資質の強いバンドが少なからず存在していた。

例えば、5月に発表したアルバム『HOT!』がオリコンの週間チャートで4位を獲得し、10月には武道館公演も決定しているKEYTALKは、もともとブラックミュージックをパンキッシュに演奏することを志向していたバンドで、インディーズ時代の彼らに初めて取材をした際、ブラックビスケッツの“Timing”(作曲は中西圭三・小西貴雄)がいかに名曲かを語ってくれていたのが思い出深い。また、ゲスの極み乙女。にしても、もともとジャズやヒップホップとの接点が強いバンドであり、4月に発表したシングル『私以外私じゃないの』はプログレッシブなフュージョンといった感じで、シンプルな4つ打ちを配した、いわゆる「ダンスロック」からはこれまで以上に距離のあるものとなっていた。こうしたバンドの活躍も、今のブラックミュージック的な空気の形成に大きく寄与していたと言えよう。


ceroとORIGINAL LOVEのリンクに見る、「シティポップブーム」の本質


とはいえ、「シティポップ」を巡る盛り上がりに関しては、今年の上半期で一区切りと言ったところだろう。そもそも現在の「シティポップ」という言葉は、ポップスの新しい流れを何かとして総称するために借り出された感じが強く、すでに言葉だけが独り歩きしてしまっている状態。そんな中、ceroが5月に発表したアルバム『Obscure Ride』で初めて意識的に「シティポップ」と向き合い、決定打と言うべき完成度の作品を作り上げたことは、表層的なブームに対する最後通告のように感じられた。思えば、「シティポップ」という言葉が取り沙汰されるようになったのは、彼らが1stアルバム『WORLD RECORD』を発表した2011年頃であり、つまり、その流れを終わらせることができるのも、またceroだけだったのだ。

そのceroはCINRAで行ったインタビューにおいて、新作でロバート・グラスパーやD'ANGELO、A TRIBE CALLED QUESTなど、ブラックミュージックの影響を受けつつ、何より「楽曲の構造を意識した」ということを語ってくれた。そして、これとリンクする話をしてくれたのが、6月に新作『ラヴァーマン』を発表したORIGINAL LOVEの田島貴男。彼はceroの話を補強するかのように、「最近の若い人たちのやってることにはいいなと思うところがあります。曲の構造を工夫して、ポップな曲を作ろうとしてるのが聴けばわかる」と語り、「今の状況は渋谷系の頃と似てると思う」と話してくれたことが非常に印象的だった。

田島の言葉を補足して言えば、1980年代後半から1990年代前半のバンドブームによって、アーティストのキャラクターや熱量ばかりが取り沙汰された状況に対し、曲の構造そのものにこだわって、楽曲主義を掲げたアーティストが活躍したのが「渋谷系」の時代だった。そして、2000年代後半から2010年代前半のフェスブームによって、BPMの速い4つ打ちなど、「フェスで盛り上がる」要素ばかりが取り沙汰された状況に対し、渋谷系時代と同様に、楽曲の構造そのものにアーティストの目が向かい始めたのが今ということになる。「新しいシティポップ」の背景にあるのは、まさにこうした状況だ。


「楽曲の構造に目を向けよう」とするアーティストの意志


この「構造的に面白い楽曲を作ろう」という動きは、「新しいシティポップ」の文脈を超えて、先鋭的なリズムを志向する新しいアーティストの出現にも表れている。例えば、僕がceroと並んで今年の上半期に最も興奮したバンドの1つがDALLJUB STEP CLUBであり、ダブステップやジュークといったアンダーグラウンド発のベースミュージックを生演奏で再現する彼らのデビュー作『We Love You』は実に素晴らしい作品だった。MOP of HEADやAureoleなども同様のリズムへのアプローチを見せていて、彼らのような存在が従来の「ダンスロック」という言葉が持つイメージを更新しうるのではないかとも思う。

もちろん、下半期もブラックミュージック寄りのポップスがトレンドであること自体は変わらないだろう。SATORIのニューシングルにしても引き続きディスコファンク路線で、よりアグレッシブになったリズムセクションと、オルガンとコーラスによる華やかな味付けによって、パーティー感をさらに増しているのが非常に印象的だ。一方、前回のコラムでも名前を挙げ、SATORIと一番近い立ち位置にあると言える住所不定無職は、Earth, Wind & Fireを意識したような新バンド「Magic, Drums & Love」を結成し、8月にリリースすることが決定。また、現在制作中だという一十三十一のアルバムが年内に完成すれば、再度「シティポップ」という言葉が注目を集めることにはなるはず。ただ、繰り返しておきたいのは、これは一ジャンルのブームではなく、「楽曲の構造そのものに目を向け、クリエイティブな音楽を創造しよう」とするアーティストの意思の表れなのだ。そして、僕はこうした動きを積極的に支持したいと思っている。

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2015年上半期のバンドシーンを振り返る。「シティポップブーム」の本質とは?

『トゥー・マッチ・ラヴ・ウィル・キル・ユー!』(CD)

2015年8月19日(水)発売
価格:1,080円(税込)
EVOL RECORDS / MOONSHINE Inc. / EVOL-1060

1. トゥー・マッチ・ラブ・ウィル・キル・ユー!
2. 気まぐれチューズデーガール
3. トーストにビーフ スパイスにチーズ

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SATORI レコ発イベント
『東京編「トゥー・マッチ・ラヴ・ウィル・キル・ユー・キョート!」』

2015年9月5日(土)
会場:京都府 Live House nano
出演:
SATORI
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『京都編「トゥー・マッチ・ラヴ・ウィル・キル・ユー・トーキョー!」』

2015年9月22日(火・祝)
会場:東京都 高円寺 CLUB LINER
出演:
SATORI
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SATORI

SATORI(さとり)

フロム京都のニューカーマー。二次元と三次元を行ったり来たりな、男女5人組バンド・SATORI。2013年にアルバム『Yeah!Yeah!Yeah!』にて全国デビュー。白衣を身にまとった彼らが、ソウルでグルーヴィー、時にメロウで極上にハッピーなサウンドで全国各地を駆け回る。2014年にはセカンドアルバム『RHYTHM OF THE NIGHT WAVES.』を発表し、5都市を巡るツアーを敢行。その他、『MINAMI WHEEL』『SAKAE SP-RING』『Shimokitazawa SOUND CRUISING』など、全国のライブサーキットにも出演。開放感と多幸感、そしてユーモア溢れるステージで、多くのオーディエンスを熱狂の渦へと巻き込む。

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