(cache) 追い込み漁でのイルカ入手が禁止 問われる水族館のあり方 井田徹治 | THE PAGE(ザ・ページ)

 欧米では野生捕獲のイルカ類の展示が例外的となっているのも日本の水族館との大きな差である。欧州連合(EU)では1999年の動物園・水族館の規制に関する指令や97年の野生生物取引に関する指令などによって野生イルカの捕獲と取引が厳しく規制され、スイス、英国、アイルランド、ポーランドなどイルカ飼育施設自体がない国も多い。米国でも1972年の海洋生物保護法によって水族館による野生イルカの捕獲は厳しく規制されている。欧州の環境保護団体の13年の報告では欧州で飼育されているイルカの数は323頭で、その75%が人工繁殖個体だ。野生個体は82頭にとどまり、減少傾向にある。これに対し日本の保護団体のほぼ同時期の調査では、国内の飼育頭数は約590頭。10年前に比べ18%増で、その90%近くが野生捕獲のイルカである。

 日本の水族館での絶滅危惧種の保存に関する取り組みや、生物多様性、絶滅危惧種に関する環境教育などは極めて少ない。「イルカショーをやらない水族館」を標榜し、調査研究にも力を入れている福島県の「ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)」などはまれな例だ。

 日本の水族館は、今後、JAZAを脱退しても入手が容易な追い込み漁からのイルカに頼るのか、多くの投資をして人工繁殖をしたイルカを入手するのかを迫られることになる。だが、日本の水族館が直面しているより根源的な問いは、日本の水族館がイルカのショーに代表されるレクリエーション施設にとどまるのか、種の保全や調査研究、環境教育などの重要課題に力を入れ、来訪者が自然や野生動物、持続的な漁業や生物多様性の保全といった問題への関心を持つきっかけろ作るような総合的な施設に変わるのかどうかというものだ。

 それは安からぬ金を払って水族館に行く水族館の利用者が向き合うべき問題でもある。単にショーや珍しい動物を見るための木戸銭として金を払うのか、あるいは自分の払う金が、一部ではあっても野生のイルカなどの保全や調査研究、環境教育などに使われてほしいと望むのか。単に感情的な反発をするのではなく、今回の問題を熟慮のきっかけにすべきだろう。


井田徹治(いだ てつじ) 共同通信社 編集委員兼論説委員。科学部記者、ワシントン特派員などを経て現職。環境とエネルギー、貧困・開発問題がライフワーク。著書に「ウナギ―地球環境を語る魚、「生物多様性とは何か」(ともに岩波新書)など多数。

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