2007年1月31日に発覚した『綾波美夏』と称する人物による

盗作事件について、著作権者・安達瑶の公式見解

 2月20日、合作小説家・安達瑶を構成する二名は、電子出版社「スタジオ・グリーン」の滝沢氏、でじたる書房の近藤氏・小西氏の計五名で、今回の盗作事件の犯人・『綾波美夏』に会いました。
 『綾波美夏』との仲介をしてくれた人物との約束がありますので、盗作を行った当人を特定出来る事柄は発表出来ません。ですので、以下、イニシャルも用いず、『盗作をした人物』と表現します。
 
 『盗作をした人物』からは、盗作に到った経緯の説明を受けました。
 それによると、『盗作をした人物』は、ファイル交換ソフトを用いて、作者名の入った小説ファイルを入手し、軽い気持ちと話題を作りたいと言う気持ちから、テレビ番組で知った「でじたる書房」を通じて、他人が書いた物であることは充分承知の上、自作として販売したという事でした。
 安達から盗作の通報を受けた「でじたる書房」は、『盗作をした人物』に事実を確認するメールを出したのですが、当人は、盗作が露見した事でパニックになってしまい、誰に相談する事も出来ずに混乱して、それ以上何をどうしていいのか判らなくなってしまっていたと。
 その段階で、こちら側(安達)が『盗作をした人物』を知る人物に接触する事が出来、当人はすべてをその仲介者に白状しました。
 我々、フランス書院を除く関係者は、協議を重ねて、和解する条件を詰め、合意をした上で、『盗作をした人物』と面会し、上記のような経緯の説明を受け、全面的な謝罪を受けました。
 また、「もう二度と著作権を侵害する行為は致しません」という誓約書を書いてもらいました。
 仲介者を交えた話し合いは予想以上にスムーズで、予定していた時間が大幅に余ってしまったほどでした。
 
 我々、安達を始めとする著作者は、今回の『盗作をした人物』の説明と謝罪を諒として、著作権法で定められた経費の精算と、でじたる書房を通じて売り上げた不当な利益の返還によって、この件について、解決したものとします。

 ただ、本件に付随する事ですが、今回のようなデジタル・データ化された小説の複製・不当な販売を防止する策については、著作者として、納得のいく解答は示されておりません。
 現在は、容易にコピー出来ない対策を施されたデジタル・データが流通していますが、過去には、コピーが容易なテキスト・データでの販売がなされており、今回もそうしたファイルが悪用されたのです。
 今回のような盗作を防ぐ為の方策として、電子出版をする場合、『自分の作品』と称して作品を売りに出す際のハードルをあげろ、本人確認を厳密にしろ、メールだけではなく物理的な郵便を使って「販売契約」書を取り交わせ、と、でじたる書房側に提案したのですが、手間がかかる事を理由に難色を示されました。すべてネット上でやれれば手間がかからず最少限の人員で運営出来るからでしょう。
 しかし、『お手軽体質』『利益優先のイージーな商法』は大いに問題だと思わざるをえません。出版社での編集実務経験もない素人スタッフが、持ち込まれた『作品』を右から左にノーチェックに『販売』していれば、盗作でなくても、その内容で、いつか問題は起きるでしょう。思想的、人権的に問題を内包するものをノーチェックで売ってしまったら、抗議してくる人々から、『でじたる書房』は逃げられるはずがないのです。
 今回の事件を、是非とも教訓にしていただき、この種の事件が再発しない事を強く願うものです。
 ホンネを言えば、こんな事がまた起きたら、やってらんねーよ、なのです。

該当作品を電子出版する「スタジオ・グリーン」の公式見解

 一月末に安達先生より、作品が盗作されているとの報告を受けてから、スタジオグリーンは関係者と協議を重ねつつ本件に対処してきました。基本的には私がでじたる書房との折衝、安達先生が『綾波』本人の特定作業と折衝という形で役割を分担しました。思いのほか短期間のうちに解決へ向かうことになったのは、何より安達先生のご尽力に負うところが大きかったことは言うまでもありません。この場をお借りして、あらためて御礼申し上げます。
 本件は、「軽い気持ちでやってしまった」という本人の弁がすべてを象徴しているように思いますが、でじたる書房とのやり取りの過程で、電子出版に携わる上での構造的な問題が大きな原因としてあることが明らかになりました。
 電子書籍を販売するサイトが電子書店ですから、でじたる書房の近藤社長が「我々は書店のようなものだから」と言うのは間違いではありません。しかし、多くの場合は『プロの作家が書いたもの』を、『プロの編集者が書籍にする出版社』を介して『電子書店』が販売しているのであり、他者の著作権やプライバシーを侵害していないか、差別的表現はないか等のチェックは、作家と編集者(出版社)の責任においてなされています。
 それに対して、「将来有望な作家さんの電子書籍が読めます!」と謳うでじたる書房では、『素人が書いたもの』を直接的に電子書籍化して販売しています。ブログやホームページ、掲示板等で誰もが表現者になれる時代にあって、いかにも今日的な商売と言えるでしょう。もちろん『素人が書いたもの』を否定するつもりは毛頭ありません。プロの作家も最初はすべて素人だったのですから。
 しかし、著作物を発表する者は、それが他者の著作権を侵害していないことを保証する義務がある等、その内容について全面的に責任を負わなければなりません。そのことをどれだけ認識して書いているか、という点で問題が生じやすいのは、アマチュアであるが故にやむを得ないところです。だからといって、許されるものでは決してありませんし、そういった作品を扱う以上、でじたる書房が「我々は書店のようなものだから」と逃げを打つように言うことも許されないと考えます。
 でじたる書房のように作者と電子書店が直接契約し、出版社が介在しない形態は他でもありますが、それは作者が商業出版の実績を積んだプロであり、内容にきちんと責任を負っているからこそ成り立つものなのです。
 今回の盗作事件は、『著作権に対する認識の欠落した人』が他者の著作物を安易に盗用し、『著作権について問題意識の希薄な会社』がそのまま販売してしまったというものです。そして、書籍であれ雑誌であれ編集業務を経験したことのある従業員がでじたる書房に皆無であるという信じ難い実態を考えれば、まさに起こるべくして起こった事件と言うほかはありません。
 でじたる書房に対してもこうした問題点を指摘し、改善を求めていますので、誠意ある対応・努力を願うばかりです。世の中のあらゆるところでデジタル化が加速し、著作権をはじめ知的財産をいかに保護していくかが社会的課題となっています。そのことから目を逸らしていると、いずれ拠って立つ足元の土を自ら崩す結果となるに違いありません。

2007年2月22日発表