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 ベトナム最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長が7日、ホワイトハウスでオバマ米大統領と会談した。1975年のベトナム戦争終結後、書記長の訪米は初めて。中国の南シナ海進出も影響し、冷戦時代からの対立構造に変化が見え始めた。

 オバマ氏は会談後、「今も政治の考え方や体制に大きな違いがあるが、互いの努力で建設的な関係を見いだせた」と会談の歴史的意義を強調した。チョン氏も「重要なことは、我々が敵から友、パートナーへと変わったことだ」と応じた。チョン氏はオバマ氏をベトナムへ招待、オバマ氏は前向きな姿勢を示し、関係強化をアピールした。

 さらに両首脳は共同声明で、岩礁の埋め立てが進む南シナ海の現状に「緊張を高め、信頼を壊し、平和や安全、安定を脅かす」と懸念を共有。名指しは避けたが「脅しや武力による威嚇や行使を拒絶する」と暗に中国を牽制(けんせい)した。

 冷戦時代、ベトナムは旧ソ連や中国から支援を受けて米国とベトナム戦争を戦った。今も共産党による一党支配を維持する。中ロ首脳部とのつながりも深く、チョン書記長も「親中派」で知られる。ベトナムの武器の大半はロシア製で、現在、計6隻の潜水艦購入を進めている。中国は現在もベトナム最大の貿易相手国だ。

 しかし、長年の中国支配の歴史や、74年と88年の海戦で西沙諸島と南沙諸島の一部を奪われた経験から、「反中国」の国民感情もくすぶる。特に昨年5月、中国が西沙諸島近くで石油掘削をした際は、大規模な反中国のデモが起きた。中国は100隻超の船団で掘削海域を防衛、ベトナムは30隻の巡視船を派遣したが圧倒され、防衛力の差を見せつけられた。

 米国と軍事同盟を結ぶフィリピンと違い、ベトナムは中国に対抗する軍事的な後ろ盾がない。そこで米国との防衛協力に期待を向けた。この点、中国の影響力拡大を警戒し、アジア重視政策を掲げるオバマ政権と利害が一致。米国は巡視船購入資金1800万米ドルの供与を決めたほか、昨年10月にはベトナムへの武器輸出の一部解禁を表明した。

 今回の会談で両首脳は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の早期妥結への協力でも一致した。ベトナムは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加するなど当面は中国との関係重視を維持する方針だが、TPP参加をてこに、将来的には経済分野の「中国依存」からも脱却したい思惑がある。(ワシントン=杉山正、ハノイ=佐々木学)