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想像創造―最強の転生者― 作者:天海疾走
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第4話 盗人

 佐奈と色んな話をしながら町を歩いていたら、いつの間にか夕方になっていた。数年ぶりに佐奈とまともに話ができて楽しかったせいか、時が経つのを随分と早く感じた。

 とりあえず残り三人の赤組を探すより、まず先に今日の寝床を見つける必要がありそうだ。しかし当然ながら俺達は金なんて持ってないので宿に泊まったりはできない。


「うーん、こりゃ今夜は野宿するしかないか?」
「そ、そんなの絶対嫌よ! 外で寝るなんて危険にも程が――」


 その時「キュルル……」というとても可愛らしい音が佐奈のお腹から聞こえてきた。顔を赤くして俯く佐奈。


「お腹、空いたよな」
「……うん」


 とても恥ずかしそうに佐奈は頷いた。この異世界に来てからまだ何も食べてないし、腹が減るのは仕方がない。しかしお金がない以上食べ物を買うことすらできない。


「困ったな……」


 俺は右の手の平を広げる。一応考えが何もないわけではない。町を歩いている間にこの世界で流通している硬貨やお札は何度か目にする機会はあった。俺は【想像創造】を発動し、手の平に一枚のお札を生成した。


「そっか! 悠人の能力があればお金の問題は解決よね!」
「……いや、ダメだな」


 そう言って俺は生成したお札を消した。


「えっ……どうして?」
「もう分かってると思うけど、俺が生成したものは俺の想像が途切れたら消えてしまう。もしそれがバレたら面倒なことになりかねないし、こういうやり方は毎日汗水垂らして働いてる人達に申し訳ないだろ?」


 すると佐奈はクスッと微笑んだ。


「悠人って、昔から変なところで真面目よね」
「変なところは余計だ!」
「でも確かに悠人の言う通りね。この方法はやめた方がいいかも」
「ああ」


 とは言ったものの他にお金の問題を解決する策があるわけではない。どっかでバイトでもした方がいいだろうか。そんなことを考えていると、とある店の前で立ち話をしている二人の女性がふと目に入った。表情を見ると何やら深刻な話のようだ。


「一昨日の夜、この近くの家に泥棒が入ったそうなのよ」
「ホント? もう十軒以上被害に遭ってるでしょ?」
「昨日は怖くて夜も眠れなかったわ。私の家もいつ狙われるか……」
「早く捕まってほしいわねえ……」


 二人の女性からこんな会話が聞こえてきた。泥棒か、やっぱりどこの世界でもそういった輩は存在するんだな……。


「!」


 その時俺の中に一つの考えが浮かび、思わず笑みがこぼれた。


「佐奈、良いこと思いついたぞ」
「……え?」



 深夜になり、人々が寝静まった頃。元の世界の時間でいうと今はだいたい午前一時くらいだろう。


「ほ、本気なの悠人? 泥棒を捕まえるって……」
「ああ」


 俺と佐奈は建物間の細道で身を潜めていた。話を聞いた限りでは泥棒の犯行は夜に行われている。現れるとしたら今から明け方にかけての時間帯だろう。


「でも何の手掛かりもないのにどうやって泥棒を見つけ出すの?」
「んー、問題はそこなんだよな」


 俺は少し考えた後、【想像創造】の力を発動させた。


「タ○コプター!」


 俺はダミ声でタ○コプターを生成した。目を点にする佐奈。しかしそのタ○コプターを頭に付けてみても体が宙に浮く気配はなかった。


「……何してるの?」
「タ○コプターを使って上空から探せば見つけやすいと思ったんだけど、どうやら無理っぽいな。予想はしてたけど、やっぱりフィクション世界のものは生成しても機能しないらしい」
「というか仮に機能して空を飛べたとしても、途中で想像が途切れちゃったりしたらどうするのよ。地上に向かって真っ逆さまよ?」
「はは、それもそうか」


 ではどうやって泥棒を見つけ出すか。何か【想像創造】を使った上手い方法でもあればいいんだけど。


「佐奈も一緒に考えてくれよ、【想像創造】を使って泥棒を見つけ出す方法」
「そうねー……」


 俺と佐奈は喉を唸らせて考え込む。


「!!」


 すると遠くの方から女性の悲鳴がし、俺と佐奈は顔を上げた。まさか例の泥棒が現れたのか!?


「佐奈、行くぞ!」
「うん!」


 俺達はすぐさま声のした方に向かって走り出した。



「確か悲鳴はこの辺りから聞こえてきたはず……」
「悠人、あれ見て!」


 佐奈が指差した先には明かりの点いた一軒家があり、その窓ガラスが割れているのが見えた。間違いなく泥棒の被害に遭った家だ。

 俺達はその家に駆け寄ると、割れた窓ガラスの向こうに座り込んで泣いている女性の姿を発見した。


「すみません! 泥棒はどこに逃げたか分かりますか!?」


 佐奈がその女性に問いかける。女性は顔を上げて右方向を指差した。


「ありがとうございます! 行くわよ悠人、追いかけるんでしょ!?」
「ああ。でも走ってたんじゃ多分追いつけない」


 俺は【想像創造】を発動し、一台の自転車を生成した。ちなみにこれは俺が前世で愛用していた自転車と全く同じものである。本当はバイクとかの方がいいんだろうけど運転の仕方が分からないのでやむを得ない。


「よし行こう! 佐奈は俺の後ろに乗ってくれ!」
「……待って悠人! アタシが前に乗って運転するわ!」
「えっ、いいのか!?」
「悠人は想像に集中する必要があるでしょ! ここはアタシに任せて!」
「……分かった、頼む!」


 佐奈がサドルに座り、俺はその後ろに乗った。女の子に運転させるのは少々気が引けるけど佐奈の提案だし、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「ひゃん!?」


 俺が佐奈の腰に手を当てると、佐奈が変な声を出した。


「ちょ、ちょっと悠人、なに触ってんの!?」
「ご、ごめん! でもこうしないと途中で落っこちるかもしれないだろ!?」
「……まあ、いいわ。でもどさくさに紛れて変な所触っちゃダメよ!?」
「わ、分かってるって!」


 俺と佐奈は泥棒が逃げた方へ自転車で走り出す。俺を乗せた状態で佐奈がどれくらい保つか不安だったが、佐奈は元々運動神経は良い方なので特に問題はなさそうだった。

「あっ……あれ!」


 それから数分後、佐奈が何かに気付いた声を出した。数十メートル先を見ると、いかにも怪しげな男達が大きな袋を持って五階建てビルの中に入っていくのが見えた。泥棒はあいつらで間違いないだろう。暗くてハッキリと見えないが人数は三人だと思われる。


「よし、ここで降りよう。ありがとう佐奈」


 俺達はそのビルから少し離れたところで自転車を降り、近くに生えていた木の陰に身を潜めた。


「ここから先は俺一人で行く。佐奈はここで待っていてくれ」
「えっ……悠人一人で?」
「佐奈は自転車を漕いで疲れてるだろ? 俺一人でなんとかしてみせるさ。それに女の子を危険な目に遭わせるわけにはいかないからな」


 俺がそう言うと、佐奈の頬がほんのり赤く染まった。


「ま、まあ、悠人の能力なら99%問題ないと思うけど、油断しちゃダメよ?」
「ああ、分かってる」
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