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命守る「ホース筒先」 盗難相次ぐ

7月7日 18時28分

永田恒記者

消火用ホースの“筒先”が盗まれる被害が全国で相次いでいます。
奈良県では、この半年ほどの間に146本が盗まれていることが警察への取材で分かりました。高知県では、ホースの筒先が盗まれたために初期消火に影響が出たケースさえ出ています。
命を守るための大切な道具がなぜ盗まれるのか、奈良放送局の永田恒記者がお伝えします。

ある日 なくなっていた“筒先”

奈良県葛城市の笛吹地区では6月20日に、道路脇に設置された消火用ホースを保管する格納箱からホースの筒先だけがなくなっているのを住民が見つけ、警察に通報しました。

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なくなっていた筒先は長さおよそ60センチで、放水する際に水圧などを調節するものです。格納箱は、火事の際にすぐに使えるよう鍵はかかっておらず、警察は夜間に盗まれたとみています。
筒先がなくなっているのを見つけたのは区長の持田加代子さん(63)で、格納箱の隣にあるお地蔵さんを掃除するために来たついでに、たまたま格納箱を点検して被害に気付いたということです。持田さんは「早く火を消すための初期消火の器具なので、困りますし腹が立ちました。みんなの命を守るものなので、絶対こういうことをしてほしくありません」と話していました。

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全国で相次ぐ被害

消火用ホースの筒先が盗まれる被害は、全国で相次いでいます。
岐阜県では、去年からことしにかけて1000本を超える消火用ホースの筒先が盗まれています。去年11月には、池田町でホースの筒先を盗んだ疑いで3人が警察に逮捕されました。
警察によりますと、「業者に売った」という供述に基づいて捜査したところ、およそ450本分の筒先などが金属買い取り業者のもとから見つかったということです。

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和歌山県では、去年1年間に630本余りの消火用ホースの筒先が盗まれたと警察に被害届が出されています。
栃木市では、ことし3月までに消防が調べたところ、屋外に設置されている589か所の消火用ホースの格納箱のうち、186か所で筒先がなくなっていることが分かり、警察に被害届けを出したということです。
三重県桑名市では、去年4月から5月までに消火用ホースの筒先が100本以上盗まれる被害が出ているのが分かったほか、隣の川越町でも、去年5月に38本が盗まれているのが見つかりました。
各地のNHKの放送局が取材した中から、おもだったものをまとめただけでもこれだけあり、実際にはさらに多くの被害が出ています。

母子が亡くなった火事で…

消火用ホースの筒先が盗まれていたために、住民による初期消火がうまくいかなかったケースが起きていたことも分かりました。
高知市ではおととし12月、木造2階建ての住宅が全焼し、2階の寝室からパート店員の池上早苗さん(38)と4歳の息子の永ちゃんの2人が遺体で見つかりました。

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周辺の住民や警察、消防によりますと、火事が起きた際、近くの住民が格納箱からホースを取り出して消火栓につなぎ、火を消そうとしました。
ところが、ホースの筒先がなくなっていたため水がうまく出ず、親子が寝ていた2階まで水が届かなかったということです。
なくなっていた筒先は長さ60センチほどの金属製で、盗まれたあと、予備がなかったため業者に注文していたところでした。
消防によりますと、高知市ではおととし8月から去年2月にかけて、このホースが入っていた格納箱を含め、23か所でホースの筒先が相次いで盗まれていました。

なぜ“筒先”が狙われるのか

消火用ホースの筒先は「管鎗」と呼ばれる部品で、さびにくい「しんちゅう」製やアルミ製のものがあります。防災用具を販売する業者によりますと、しんちゅう製の管鎗は、高いものでは3万円前後で売買されているということです。

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警察は売却する目的で盗んだものとみていますが、盗難の被害を防ぐのは難しいのが実情です。というのも、道路脇などに設置されているホースの格納箱は、火事の際にすぐに使えるように鍵がかかっていないものがほとんどだからです。
さらに、被害を受けた地域を調べてみると、あることが浮かび上がってきました。
ことしに入って6月下旬までに146本が盗まれた奈良県の場合、被害は南部の吉野町や川上村、それに五條市など、山間部で人口の減少が急速に進んでいる地域に集中していました。日中でも人通りが少ない地域では、被害に気付きにくかったとみられています。
高齢化も進んでいるため、広い地域に点在する格納箱を住民が定期的に点検するのは難しく、被害にあった地区の中には、1年以上点検していなかったところもありました。

対策講じるも不安は尽きず

消火用ホースの筒先が盗まれた地域の自治会では、いざというときに消火活動に支障が出かねないと不安を募らせています。
盗まれていないか確認するために見回りをしたり、ホースを保管する格納箱に防犯ブザーを取り付けたりするなどの対策を始めたところもあります。

しかし、人口が減っている地域では、見回りをする人手さえ足りないところもあり、取り付け直した筒先が再び盗まれるのではないかという不安の声もあがっています。
奈良県葛城市の西辻地区でも、パトロールをはじめ、格納箱の扉に防犯ブザーを取り付け、すぐ異変に気付くようにしましたが、住民の不安は尽きません。区長の奥村吉成さん(64)は「地域に火災が起きたときに全く使えなくなると思うと、怖さを感じます。少しでも盗難を防いでいく対策を考えていかなければならない」と話しています。

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金属製品の窃盗事件といえば、送電線や側溝のふたが盗まれるケースも相次いでいますが、消火用ホースの筒先は、いざというときに命を守る大切な道具です。それを盗むというのは、決して許されないことだと考えます。


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