新日本有限責任監査法人
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金融庁

「金融検査結果事例集」の公表について

2015.07.07
小石原 英勝 (こいしはら ひでかつ)
小石原 英勝 (こいしはら ひでかつ)
新日本有限責任監査法人
金融アドバイザリー部 エグゼクティブディレクター
2011年7月検査局検査監理官を最後に金融庁を退職。在職中は、幅広く金融検査・監督行政に携わり、入所後は、セミナー活動やトップマネジメント・インタビューなどに従事。

金融庁は、6月26日、個別の指摘事例等をとりまとめた「金融検査結果事例集(平成27年6月版)」を公表した。

金融庁においては、一昨年の平成25年9月6日に「金融モニタリング基本方針」を公表し、これまでの検査の枠組み・手法の大きな転換を図り、同方針に基づき、オンサイト・モニタリング(金融検査)のほか、一層、効率的・効果的な金融モニタリングを目指す観点から、水平的レビューやアンケート調査等様々な手法を実施してきた。
今般公表された「金融検査結果事例集」は、昨事務年度のオンサイト・モニタリングで認められた新規事例のほか、過去に公表された比較的新しい事例の中から、現状においても引き続き有用と思われる事例とともに整理され、新たな「金融検査結果事例集」として策定・公表されている。

公表された「検査結果事例」は、預金等受入金融機関184事例、信託兼営金融機関23事例、保険会社97事例、金融持株会社9事例、貸金業者21事例のほか、新たに前払式支払手段発行者6事例、及び資金移動業者5事例が掲載されている。また、預金等受入金融機関については「システム統合リスク管理態勢」及び「外国銀行在日支店」が別建てで掲載されており、これを含めれば、今般、公表された事例は、全部で373事例と大部なものとなっている。

1. 預金等受入金融機関

預金等受入金融機関は184事例が掲載されている。業態別には、地域銀行95事例、信金・信組48事例、主要行等41事例となっており、地域銀行の事例が多数掲載されている。
態様別では、指摘事例162事例、評価事例20事例、課題事例(注)2事例となっている。

(注)課題事例...「ミニマム・スタンダードはクリアしているものの、より態勢を強固にしていくために必要と考えられる課題」や「現段階では金融機関の健全性等に影響を与えていないものの、中長期的に影響を与える可能性がある課題」等。

また、カテゴリー別では、過去公表分を含めたことにより11カテゴリーすべてに事例が掲載されており、法令等遵守態勢26事例が最も多く、顧客保護等管理態勢25事例、信用リスク管理態勢25事例、オペレーショナル・リスク管理態勢24事例、経営管理態勢23事例がこれに続いている。なお、預金等受入金融機関における新規掲載事例は23事例となっており、法令等遵守態勢7事例、市場リスク管理態勢5事例で新規事例の過半を占めているほか、評価事例(20事例)についてみると、自己資本管理態勢及び流動性リスク管理態勢を除く9カテゴリーに掲載されており、オンサイト・モニタリングにおける目線を理解するうえで有用であろう。

内容的には、金融検査マニュアルの建付けに沿った整理が行われており、万遍なく事例が記載されていることから、態勢構築の際の留意点として活用することが有用であろう。なお、評価事例に着目すれば、経営管理態勢(3事例)については、「取締役会の収益管理に関する関与状況(地域銀行)」、「海外支店のリスク状況の評価(主要行等)」及び「内部監査部門における真の発生原因の把握(地域銀行)」が、オペレーショナル・リスク管理態勢(4事例)については、「事務事故防止に向けた態勢整備(地域銀行)」、「システムリスク委員会の機能発揮状況(信用金庫及び信用組合)」、「システム共同センターに対する監査態勢の構築(地域銀行)」及び「バックアップ態勢強化に向けた取組(主要行等)」が評価事例として取り上げられており、他のリスクカテゴリーの評価事例を含め、内部管理態勢の高度化、自主的・持続的な経営改善に有用なものと思われる。

なお、預金等受入金融機関のうち別掲されている「外国銀行在日支店(19事例)」については、外国銀行在日支店に特有と考えられる検査結果が取り上げられており、「経営管理態勢(4事例)」、「法令等遵守態勢(5事例)」、「流動性リスク管理態勢(4事例:うち評価事例1事例)」及び「システムリスク管理態勢(2事例)」については、特に留意を要しよう。

2. 保険会社

保険会社については、97事例が掲載されており、生命保険会社の事例が56事例、損害保険会社が41事例となっている。態様別では、評価事例3事例のほかは指摘事例となっており、指摘事例中新規1事例が掲載されている。なお、課題事例は掲載されていない。カテゴリー別では、預金等受入金融機関と同様、過去公表分を含めたことにより8カテゴリーすべてに事例が掲載されており、顧客保護等管理態勢が25事例と最も多く、保険募集管理態勢15事例、オペレーショナル・リスク管理態勢12事例、経営管理態勢11事例がこれに続いている。

内容的には、経営管理態勢については、11事例中7事例が内部監査や監査役監査が十分に機能発揮していない事例が掲載されており、最も掲載事例数の多い顧客保護等管理態勢については、支払漏れ防止態勢の整備等支払管理等に関連する事例が数多く掲載(25事例中9事例)されている。保険募集管理態勢については、代理店に対する指導・管理が不十分な事例や乗合代理店の営業の実態把握を行っていないなどの事例が掲載されている。なお、別掲されている「金融持株会社」において、保険持株会社の事例が掲載されている。

以上が、今般公表された事例集の大宗を占める「預金等受入金融機関」及び「保険会社」の概要である。検査結果については、これまで金融検査(オンサイト・モニタリング)において認められた事例を定期的に取りまとめ、金融検査結果事例集として公表してきたが、冒頭記載したように、金融庁では、従来の金融検査を抜本的に見直し、オフサイト、オンサイトのモニタリング手法を組み合わせ、より一層、効率的・効果的な金融モニタリングを行うことを目指している。今般、金融検査結果事例集についても、その枠組みを大きく変えており、今後、今回公表された事例集をベースに、有用と思われる事例が生じた場合は、随時追加等を行っていくこととしている。


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