高さ230メートルの屋上に、展望施設を整備すると発表されました。
18年前日本中を震撼
(しんかん)させた神戸児童連続殺傷事件。
元少年Aが先月出版した手記が大きな議論を呼んでいます。
「書くことが唯一の自己救済でありたったひとつの生きる道でした」。
そう記した元少年。
しかし、被害者遺族には事前になんの説明もない突然の出版でした。
元少年の更生に関わってきた精神科医。
今回初めて、複雑な心境をカメラの前で打ち明けました。
発売から1か月足らずで15万部が発行され異例の売り上げとなる一方出版の是非を巡る議論も噴出しています。
元少年の手記が社会に投げかけたものはなんだったのか。
広がる波紋を見つめます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
重大事件の加害者が匿名のまま事件についての本を出すのは異例のことです。
1997年神戸市須磨区で起きた児童連続殺傷事件。
当時10歳だった女の子と11歳だった男の子の命が奪われました。
残忍な犯行の手口。
そして酒鬼薔薇聖斗と名乗り犯行声明文を新聞社に送りつける挑発的な行動。
犯人が14歳の少年であったことに社会は驚がくしました。
少年は当時の少年法に基づき非公開で審判を受け矯正教育を受けるために医療少年院へと送られました。
少年は21歳のときに少年院を出て社会復帰しています。
社会に大きな衝撃を与えたこの事件のあと重大な犯罪を犯した少年を刑事裁判にかけられる年齢が16歳から14歳へと引き下げられ事件は少年法改正の大きなきっかけにもなりました。
事件から18年。
加害者の少年は今、32歳。
元少年Aという名前で自分の生い立ちや事件に至るいきさつ現在の心境などをつづった手記を出版し大きな波紋を呼んでいます。
被害者の遺族は出版の中止と本の回収を出版社に求めましたが初版の10万部に加え先週さらに5万部が増刷されました。
表現・言論の自由が民主主義の柱としてその重要性が改めて強調される状況の中でも手記が書かれたこと出版されたことを問う否定的な声が多く聞かれます。
その一方で、全国図書館協会は手記は貸し出しなどの提供を制限するケースには当たらないという見解を出しています。
元少年Aによる手記がもたらした遺族感情と表現の自由の対立。
そして少なからず人々に与えている違和感。
出版が問いかけたものを見つめます。
18年前、神戸市で起きた児童連続殺傷事件。
当時小学6年の土師淳君ら2人の児童が殺害されました。
遺体の一部を中学校の校門に置くという犯行の残忍さや、犯人が当時14歳の少年だったことが社会を震撼させました。
あれから18年。
その元少年によって書かれた今回の手記。
みずからの生い立ちや生々しい犯行時の様子そのときの心境などが記されています。
殺害された淳君の父親土師守さんです。
土師さんのもとには5月の命日に合わせて毎年、元少年から謝罪の手紙が届けられてきました。
ことし届いた手紙から土師さんは少年の変化を感じていました。
初めて事件に至った経緯などが詳しく書かれていて分量もこれまでの10倍ほどに及んでいたといいます。
しかしそれから僅か1か月後。
事前の連絡も全くない中で土師さんは手記が出版されることを新聞の報道で知ったのです。
手記の出版は元少年の更生にも深刻な影響を及ぼすと見ている人もいます。
関東医療少年院の院長として元少年の更生に関わった精神科医の杉本研士さんです。
男女2人の精神科医が親のように関わりながら取り組んだ更生教育。
その中で最も重点を置いたのは事件について話し合い被害者と遺族へのしょく罪の意識を高めていくことでした。
6年に及ぶ教育で杉本さんは少年の心の変化を確かに感じていたといいます。
医療少年院でしょく罪の意識を高めたと見ていた杉本さん。
元少年が遺族に伝えることなく手記の出版に踏み切ったことでこれまで積み重ねてきたものが崩れてしまったと感じています。
今回、杉本さんは手記を通して社会に出たあとの元少年の暮らしぶりを初めて知りました。
2005年、元少年は保護観察期間を終え1人で社会生活を始めました。
仕事や住まいを転々とする生活を繰り返した元少年。
手記には、周囲にみずからの過去を明かすことのできない苦しみを記しています。
「こんな思いをするくらいなら少年院から出なければよかったと本気で思った」。
杉本さんは、元少年が思いを誰にも打ち明けられない中で手記の出版へと駆り立てられていったのではないかと見ています。
手記の出版を社会はどう受け止めたのか。
都内の大学では犯罪心理学の授業でも手記が取り上げられていました。
見てくださいね当時の新聞です。
こういうふうに、ショッキングな報道になったわけですよ。
手記の出版に対する学生たちの意見は大きく分かれました。
実際に本を購入して読んだという学生は15人中5人。
しかし、学生の大半は内容に興味があるものの出版への抵抗感を抱いていました。
さらにインターネットの中では不買運動や出版の差し止めなどを求める厳しい批判も広がっています。
こうした中、手記を閲覧する機会を制限しようという動きも出てきています。
被害者、土師淳君のお墓がある兵庫県明石市です。
発売から1週間後、市では市立図書館で手記を購入しないことを決めました。
市民の閲覧する権利を制限してでも遺族感情に配慮すべきだと考えたのです。
その根拠としたのが市が去年改正しその後初めて適用した犯罪被害者や遺族を支援する条例です。
遺族などが中傷や報道などで精神的苦痛を受けないよう必要な支援を行うとしています。
今回、市は、手記が遺族に苦痛を与えていると判断し対策を取ることにしたのです。
さらに市は、市内の書店にも協力を要請しました。
市立図書館などでは手記の購入をしないことを伝えたうえで書店にも十分な配慮を求めました。
一方で、手記の出版への批判が強まる風潮に違和感を感じている人もいます。
ドキュメンタリー映画の監督として、加害者の視点から事件を描いた経験を持つ森達也さんです。
森さんは、遺族の理解を得る努力を最大限するべきだったとしながらもいかなる言論も規制されてはならないと強く主張しています。
さらに森さんはこれまでも重大事件の受刑者や被告が手記を出版することはあったにもかかわらず元少年の手記にことさら批判が集中していることにも注目しています。
その背景には元少年が少年法の下で社会的制裁を免れているのではないかという根強い不満があると見ています。
今夜のゲストは、作家の柳田邦男さんです。
事件発生当初から取材され、そして被害者の遺族の方々との関わりもお持ちでいらっしゃいます。
本当に、被害者の方々は深く傷つき、そして、この出版に対する抵抗感、あるいは、その知ることを拒絶してはいけないといった議論が出たり、もう本当にこう、違和感が渦巻いている状況、どう見てらっしゃいますか?
これはね、出版よしとしても、悪いとしてもですね、簡単に白黒でどちらかによしあしをつける問題ではなくて、いろんな要素が絡んでいて、それを整然と区分けしながら、どうあるべきかっていう、これからの社会の在り方や表現の問題というものを考えていく、そういうきっかけにしなければ、なんの収穫にもならないと思うんですよね。
やっぱり、とりわけ気になるのは、2度、自分たちは殺されたと、非常に深く傷ついている、被害者遺族の方で、番組へのコメントも寄せてくださっている、土師守さんのメッセージを紹介したいと思いますけれども、最も重要なことは、加害者が、被害者、被害者遺族をさらに苦しめる権利があるのか。
さらにはそれを社会、国家として認めるのかということです。
被害者は加害者からのさらなる被害を甘んじて受けなければならないのか。
被害者の人権は守られる必要がないのかということが大きな問題点です。
この声をどう聞かれますか?
私はね、被害者学っていうのが必要じゃないかと思うぐらい、この十数年ですね、犯罪にしろ、災害にしろ、事故にしろ、あるいは戦争にしろ、被害者の視点からものを考えるっていうことを、社会の中できちっと位置づけないといけないと。
ただ、社会の片隅で苦しんでいるだけでは、本当に社会が教訓を読み取れないと。
この犯罪の被害者は、とりわけ少年事件で幼い子を殺された親というのは、生きるだけで精いっぱいなぐらい、つらい思いをしているわけです。
中には、家族が崩壊するような事態さえ起こりかねないような、大変な人生を歩んでいるわけです。
それに対する加害者側のしょく罪っていうのがね、明確に示されないと、被害者は生きるのもいつまでたっても、メドが立ってこないみたいなところがあるんですね。
では一体、加害者側のしょく罪っていうのは、どういうものなのか。
これはごめんなさいというような型どおりのことばで済むものではなくて、生き方や、あるいは、何か表現するならば、その表現自体から、全体から伝わってくる、本当に加害者が自分が人間としてどう生きることが、しょく罪になるのかというのが伝わってくるようでなければですね、被害者も納得感を持てないと思うんですよね。
今回は、ことば、文章によって、犯罪の詳細なども書かれているわけですよね。
それにやっぱり深く傷ついているということへの、想像力っていうのは十分あったんでしょうか?
いや、これはね、少年Aがこのものを書くという、必然性は理解できるんです。
これはどういうことかというと、人間は、ある意味で限界状況、例えば死が迫ってくるとか、あるいは戦争の危機とか、あるいは、病気で死期が近いとか、そういうときに、手記や体験記や、闘病記や、そういうのを書くわけですね。
なぜ書くかというと、やっぱり、自分の存在証明みたいなものをつかまないかぎり、生きられない。
あるいは、死を迎えられないという、そういう思いがあるわけですね。
恐らくこの少年は、少年院出てから、なんとか、初めのうちはパートで働きながらも、自分で生きていかなきゃっていうことで、そしてまた、罪を滅ぼさなきゃという思いはあったと思うんですよね。
でも、やはり過去に罪を犯し、しかも異常な事件だった。
社会の目が厳しい、匿名で生きなきゃいけない、さまざまな中で、疎外感と孤立間の中で、だんだんだんだんこの自分の世界に閉じこもっていってしまう。
その閉じこもっていたときに、これはね、最初に精神鑑定を、家庭裁判所で提出した精神鑑定書、この中でも、最後に、この少年がやがて矯正を経て、通常の人間の感性や思考力を持つようになったら、非常に難しい問題に直面する。
それは、生きるだけの支えってものが、自分でどう見つけていかなきゃいけないとか、そのためには、さまざまな問題があるわけですが、場合によると、自殺ねんりょというもう自分を否定するような方向にいかなきゃ、あるいは自暴自棄になる可能性がある、あるいはもう一つの…として、必死に生きるために、自分を他者に分かってほしいとかですね、つまり、表現活動をするという、これは過去の死刑囚なんかで、しばしばあったながやまのりお事件なんていうのも、本当に文学賞の候補になったぐらいのものを書いたりした例もあるわけですけれど、この少年もですね、本を読んでいますと、ものすごく追い詰められた孤立感と疎外感を持っている。
こちらに元少年Aのその後というのをまとめた表があるんですけれども、ちょっとご覧ください。
転々としながら、住まいも、そして職もしていたという様子がうかがえます。
そうですね、初めのうちは食べて生きていくことに懸命ですから、パートであれ、なんであれ、やってるんですが、それが続くうちに、何かその、保護観察的な視線が、絶えず自分の周りにある、実際にケアワーカーみたいな形で、法律の専門家が、ケアチームというような形で関わっているわけですね。
それさえうるさく感じて、1人で生きたいというところにいくわけですが、今度は、1人でいくと、ものすごい孤立感というものを避けられないわけですね。
それが、先ほどの年表なんかの経過の中で、10年以上続くと、もう耐えられないものになってきたんだろうと思いますね。
その結果、書いたものが被害者を傷つけている。
で、出版に対するやはり抵抗感、否定的な声がこれだけ上がっている。
出版をした太田出版に取材をしたんですけれども、取材に応じていただけず、ホームページに、このようなコメントが出されています。
ご遺族の心を荒らすものであるとして、ご批判を受けています。
そのことは重く受け止めています。
加害者の考えをさらけ出すことには、深刻な少年犯罪を考えるうえで、大きな社会的意味があると考え、最終的に出版に踏み切りました。
この社会的意味ということが、一つの重要なポイントだと思うんですけれども、この本読みますとね、社会的な意味を提起する最も重要な部分が欠けている、それは、あれだけ異常な犯罪を犯した少年がですね、更生の道を歩むまでの、医療少年院での6年間、どのように更生が可能だったのかということを、本人が書くということが、一番社会的に意味があるんですね。
そこがすぽんと抜けているんですね。
そして、自分の犯行の詳細なところと、それから出所後の苦労話とこれが書いてあるわけですね。
時々、ものすごくしょく罪的なことばがあるけれども、それが被害者にとって、そくそくと伝わってくるようなことばじゃない。
通り一遍で終わっている。
しかも時々、文学的な表現というか、誰が書いているんだろうと、まるで第三者的なところもあるわけです。
ですから、土師さんは、2度殺されたっていう意識は、もう思い出したくもないような、むごたらしいことを詳細に書いているところなんていうのは、本当にしょく罪意識があったら、表現するわけはないんですよね。
本来は、どうやって表現を自由の部分と、遺族との感情の対立を…。
これはね、表現の自由っていうのを守らなければいけないんですが、これは政治とかイデオロギーだとか、絶対的に守らなければいけないんですが、こういう殺人事件なんかの場合はですね、非常に人間関係が身近ですし、そういうときに出版という、社会化する過程で出版の編集業務っていうのは、ものすごく重要な意味を持つ。
編集者が、これでは遺族を傷つけるから、ここはどうするか、こうするとか、そうして、なおかつ被害者側、遺族の側等のすり合わせっていうのに対して、十分な配慮をすること、それは自己規制ではなくて、むしろ、表現の自由を守るための2015/07/02(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“元少年A” 手記出版の波紋」[字]
神戸市の連続児童殺傷事件の加害者による手記が発売され、初版10万部がほぼ売り切れとなっている。道義的問題を問う声も高まる中、手記が社会に投げかけた波紋を追う。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】作家…柳田邦男,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】作家…柳田邦男,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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