日銀経済報告:8地域判断据え置き…消費格差広がる
毎日新聞 2015年07月06日 21時06分(最終更新 07月07日 01時47分)
日銀は6日、全国各地の景気情勢をまとめた7月の地域経済報告(さくらリポート)を公表した。景気回復で一部に弱さがあった北海道の基調判断を上方修正する一方、他の8地域は判断を据え置き、回復基調を改めて確認した。景気底上げでカギを握る個人消費を巡っては、富裕層や訪日外国人の消費が好調な一方、一般世帯の節約志向は根強く、「格差」がジワリと広がりつつある。【中井正裕】
北海道は今年1月に判断を下方修正したが、自動車や鉄鋼など輸出関連の生産が回復傾向にあるため、今回は「緩やかに回復している」と判断を引き上げた。地域別の基調判断は、東海が「着実に回復」、北陸と近畿が「回復している」、その他は「緩やかに回復」などと明記した。
地域によって回復ペースにばらつきがあるが、昨年1月以降、7四半期連続で「回復」の表現が全地域の判断に盛り込まれている。日銀幹部は「全ての地域で『回復』と判断されるのは、過去の景気回復では見られなかった。景気の全国的な足並みは比較的そろっている」と評価する。
項目別では、住宅投資の判断を6地域が上方修正した。消費増税の影響がほぼ解消しているほか、「不動産の値下がり期待が払拭(ふっしょく)されつつある」(札幌)との見方も出ている。
一方、国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費は、株高の恩恵を受ける富裕層や、円安を背景に増加している訪日外国人の消費が堅調なのに対し、一般世帯や地方で持ち直しの動きは鈍い。多くの支店から「高級和牛や自然食品など高単価でも品質の良い商品を求める傾向がある」などの報告があった一方、「高齢者や勤労者世帯の節約志向は引き続き根強い」との指摘も目立った。
各地域内で、格差が広がっているとの観測も強まっている。6日に記者会見した杉本芳浩・札幌支店長は「北海道は札幌地区の独り勝ち。それ以外は人口減少も抱え、消費や設備投資の回復はなかなか厳しい」。秋山修・福岡支店長は「福岡市への一極集中が鮮明になりつつある。行政的な対応が必要ではないか」と述べた。
政府は2014年度補正予算で「プレミアム付き商品券」の発行などを後押しする消費喚起策を盛り込んだ。観光振興に加え、高齢者の移住支援策なども強化する方針。しかし、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の恩恵は、現時点で全体に行き渡っていない。
◇さくらリポート◇
日銀が全国9地域の景気情勢をまとめた「地域経済報告」の通称。米連邦準備制度理事会(FRB)が発表する「地区連銀景況報告」をベージュブックと呼ぶことにならい、桜色の表紙から名付けられた。
日銀総裁ら幹部と全国32支店の支店長、海外拠点の責任者らが参加し、日銀本店で3カ月に1度、開催される「日銀支店長会議」の後に公表される。
各支店の報告をもとに、設備投資、個人消費、生産、雇用・所得などから地域ごとの経済状況や先行きを分析する。日銀の中長期経済見通し「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)や金融政策の判断材料にもなる。