新幹線放火1週間:生活苦で自殺か 自宅に年金督促状
毎日新聞 2015年07月06日 21時59分(最終更新 07月07日 08時45分)
東海道新幹線で林崎春生容疑者(71)=東京都杉並区西荻北=が焼身自殺し、巻き添えになった女性が死亡した事件は、7日で発生から1週間を迎える。林崎容疑者は4月から定職を失っており、神奈川県警は生活苦を理由に自殺した可能性があるとみている。一方で走行中の「のぞみ」車内という場所を選んだ理由の解明は難航している。【福永方人、村上尊一、二村祐士朗】
林崎容疑者は6月30日午前11時発の新大阪行き「のぞみ225号」に東京駅から乗車。神奈川県小田原市にさしかかった11時半ごろ、先頭車両(1号車)の最前列の座席付近でガソリンをかぶり、ライターで火を付けた。煙と熱風に巻き込まれ、乗客の整体師、桑原佳子さん(52)=横浜市青葉区=が死亡、乗客と車掌の計28人が重軽傷を負った。
林崎容疑者は事件前日の29日午前、自宅近くのガソリンスタンドで「車がガス欠になった」とうそをついてガソリン約7リットルを購入。夕方にはJR中央線西荻窪駅で掛川(静岡県)行きの新幹線自由席切符を買った。県警幹部は「自殺への決意がうかがえる」とみるが、遺書は見つかっておらず、多くの乗客がいる走行中の新幹線を自殺の場所に選んだ理由は分かっていない。
火を放つ直前、無関係の乗客に「拾ったからあげる」と言って1000円札数枚を渡そうとしたり、「あなたも逃げなさい」と告げたりもしていた。県警は現住建造物等放火容疑とあわせ、巻き添えの死者が出る危険を知りながら放火に及んだとの見方から殺人容疑でも捜査している。ただ捜査幹部は、「積極的にだれかを巻き込むつもりはなく、自殺を見せたい意図があったのだろう」と話す。
岩手県在住の林崎容疑者の姉(75)によると、林崎容疑者は事件の約1週間前、姉と電話で話し、「今の年金じゃ生きていけない。自殺するしかない」と話していた。「国会の前で死ぬわけにもいかないしな」ともこぼしていた。
また姉によると、家宅捜索後の林崎容疑者の自宅から、消費者金融に借金の返済をしていたことを示す明細書や書類を家族が見つけた。数年前から毎月数千〜1万数千円の返済金を支払っていたらしい。
近隣住民の話や県警の調べでは、林崎容疑者は家賃4万円のアパートで1人暮らし。嘱託社員だった清掃会社を今年3月末に辞め、厚生年金を受給するようになった。受給額への不満を漏らし、「年寄りは早く死ねというのか」と口癖のように言っていた。
大家の男性(49)に「生活が苦しいので家賃を安くしてほしい」と頼んだこともあった。少なくともここ数年は家賃の滞納はなかったが、事件当日は6、7月分の振込期限で、この振り込みはなかった。自宅の家宅捜索で国民年金の督促状が1通見つかっており、国民年金の未納分があったとみられる。
「地元で一緒に暮らそうと誘ったが、畑仕事はできないと断られた。もう少し話を聞いて、お金くらい貸してあげると言っていれば……」と、姉は涙ながらに話した。