欧州連合(EU)などが求める緊縮財政を強める改革案の賛否を問われた国民投票で、ギリシャ国民の多くが「反対」の意思を示した。

 ギリシャのチプラス政権は国民世論の後押しを支えに、再びEU側に改革案の見直しを求め支援交渉を有利に進めようと考えている。だが、それは甘い考えだろう。ギリシャに年金削減や増税などの厳しい改革を求めるEU側の姿勢は基本的には変わらないと見られる。

 とはいえ、お互いが歩み寄って交渉がまとまらなければ、ギリシャは今後も次々と迎える債務返済期限のどこかで債務不履行(デフォルト)に陥ることが確実だ。

 EU側がそれを放置すれば、ギリシャはユーロ離脱へと向かわざるをえなくなる。そうなれば、ギリシャ経済はもとより、世界経済の安定を著しく損なうことになりかねない。なんとしても避けるべきだ。

 国民投票が決まってからの1週間、ギリシャでは銀行休業で経済が機能しなくなった。国民は生活がままならず困窮している。チプラス政権は早くこの事態を正常に戻さなければならない。ユーロ離脱は状況をさらに悪化させ、国民生活の苦境を長びかせてしまうだけだ。

 ユーロ圏諸国(19カ国)にとってもギリシャが秩序なきデフォルトに陥り、離脱してしまうことのコストは高くつきすぎる。40兆円超の規模のギリシャ債務の多くはより返済が難しくなる。何より問題なのは世界の主要通貨であるユーロへの信認が損なわれてしまうことだ。

 財政が悪化した国の離脱がありうる、ということになれば「次の離脱候補はどこか」と金融市場で標的探しが始まる。そうなれば、前回の債務危機以上に深刻な危機となって世界経済に波及しかねない。

 ギリシャ国民の多くはユーロ離脱まで望んでいない。一方、他のユーロ圏諸国も問題の重大性を十分認識している。ならばやや急進的にすぎたギリシャの緊縮策の見直しに配慮しつつ、両者は早急に支援交渉をまとめるよう努めるべきだ。

 カギを握るのはユーロ圈の中核ドイツである。ドイツはもともと強かった輸出力を、ユーロ安でさらに強め、通貨統合の恩恵を最大限に享受してきた。その意味からも、経済の弱いギリシャのような国への支援で最も負担しなければならない責務がある。

 ユーロ分裂を避ける責任は、ギリシャだけでなく、ユーロ圏諸国、とりわけドイツにある。