社説:ギリシャの「ノー」 独仏は指導力の発揮を

毎日新聞 2015年07月07日 02時32分

 ギリシャの国民が、欧州連合(EU)などによる財政緊縮策に「ノー」を突きつけた。5日行われた国民投票の結果は、「賛成」39%、「反対」61%と予想外の大差だった。国民に反対を呼びかけていたチプラス政権は、「民主主義の勝利」などと自信を深めているようだ。

 しかし、正当性にも交渉上の効果にも疑問符が付く今回の国民投票に、果たして勝者など存在するのか。

 何といっても今回の国民投票は、有権者が具体的に何を問われているのか判断し難い内容だった。「6月25日の債権者側の提案」を受け入れるかという質問だが、10ページ以上ある提案を吟味して1票を投じたという国民がどれほどいただろう。

 一方、交渉半ばでの突然の国民投票実施決定や、運動期間中の非難合戦は、ギリシャと債権者側の信頼関係を著しく損ねた。

 EUをテロリスト呼ばわりし、攻撃的な交渉スタイルで知られるバルファキス財務相が辞任を発表したことで、進展を期待する向きもある。合意に不可欠な信頼回復の努力を特に求められているということをチプラス政権は肝に銘じるべきだ。

 だが、ギリシャ支援交渉が再開しても、もはや時間的余裕はない。これまでのような交渉の進め方では、早晩、ギリシャの銀行の現金が底をつき、政府が借用証書など事実上の国内通貨を発行せざるを得なくなる。ユーロ離脱が現実のものとなる。

 そうなる前に、大胆で新しい解決策が必要だが、それを提示できるのは、欧州統合を主導してきた独仏両国をおいてほかにない。

 ギリシャの債務危機が表面化して5年以上が経過した。財政緊縮策と追加金融支援をセットにした従来型の対応では、問題をより深刻化させるだけだ。ギリシャの債務残高は高止まりしたままで、大幅な債務カットや返済期間の延長なしに改善は見込めない。債権団の一角を成す国際通貨基金(IMF)がそれを認めている。独仏は、債務再編の議論をこれ以上、先送りすべきではない。

 金融市場が大混乱に陥っていないから、もうギリシャのユーロ離脱を認めても構わないのではないか。そんな声も広がってきたようだ。確かに、経済規模がユーロ圏全体の2%に満たないギリシャである。

 しかし決定的な問題は、あり得ないはずだったユーロ離脱に先例を作ってしまうことだ。小国への対応で今、サジを投げ、長い歳月をかけて実現させた通貨統合を崩壊へと導くようでは、あまりにももったいない。

 7日にはユーロ加盟国首脳らによる会議が予定されている。歴史的視野に立った独仏の英断と指導力に希望をつなぎたい。

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