【今回のまとめ】
1.上海総合指数の下げがきつい
2.利下げは逆効果だった
3.中国人民銀行は後手に回っているという印象が出てしまった
4.株高は、実体からかけ離れていた
5.信用取引が株価を押し上げた
6.人民元高が業績不振の一因
7.改革は容易ではない
8.市場が荒れると「逆コース」への誘惑も増える
連日下落する上海総合指数。6月中旬からは約30%下落
このところ上海総合指数が下落しています。6月中旬につけた高値からの下落幅は-28.8%に達しています。
連日の株式市場の下落を受けて中国人民銀行は6月27日に1年物貸出基準金利を0.25%引き下げ、4.85%としました。
これまで中国人民銀行は一度利下げしたら3カ月休み、また利下げしたら3カ月休むというペースを維持してきました。しかし今回は5月に利下げしたばかりなので、このリズムが崩れたわけです。
さらに今回はこの発表と同時に金融機関に対する預金準備比率も引き下げました。利下げと同じ日に預金準備比率も引き下げるのは、極めて異例のことです。
投資家はこの様子を見て、中国人民銀行が後手に回っていると感じました。投げ売りが加速したのはそのためです。
中国政府はマーケットの下げが止まらない様子を見て、当面、新規株式公開を中止させるとともに証券会社に対し、相場買い支えのためのファンドを編成するよう指示を出しました。これは昔、日本で行われたPKO(株価維持オペレーション)をほうふつとさせます。
実体経済とはかけ離れた株高となっている
上海総合指数が際立った上昇を見せ始めたのは、中国人民銀行が利下げを発表した去年の10月でした。不動産投機は当局の監視の目が光っているので、緩和によってもたらされるマネーは株式市場へ流れ込むと多くの市場参加者が判断しました。
この頃から信用取引を利用して、自分の資力よりずっと大きな相場を張ることが横行しました。このレバレッジの存在が、今回の下げ局面を一層きついものにしていると言えるでしょう。
人民元が相対的に高いこともあり中国本土企業の業績は悪い
問題は、今回の株高が経済は企業の経営の内容を全く反映しない、実体の乏しいものだった点です。実際、中国本土企業の収益はぜんぜん伸びていません。
中国企業の業績が悪い理由は、人民元が周辺国の通貨に対して強くなり過ぎたことと無関係ではありません。人民元は緩く米ドルに連動しています。すると去年以来のドル高で、人民元も相対的に高くなってしまったのです。
これは中国の輸出企業の競争力を削ぎ、輸出不振を招きました。このところ中国の輸出と輸入は、いずれも前年比マイナスを続けています。
GDPターゲットが達成できなくなる可能性も高い
中国政府は今年のGDP成長率のターゲットを+7%としていますが、国際通貨基金(IMF)は+6.8%を予想しています。
つまり政府の経済成長目標の達成は、かなり苦しい状態になっているのです。
政治的な痛みが伴うため政府系企業の淘汰が進まない
中国政府は不動産バブルを抑制するためシャドー・バンキングに対する監視を強化しました。これが建設活動の減速につながっています。
不動産開発は地方政府の重要な財源となっています。従って地方政府の財政の健全性を維持しようと思うと、たんに不動産の乱開発をおさえるだけではダメで、税制を改革してやる必要があります。これには時間がかかります。
また、不採算案件を開発してしまった業者に対しては、不良貸付けを誤魔化し続けるとアク抜けにならないので、倒産を受け容れる必要があります。これには民間企業だけでなく、多くの従業員を雇用している政府系企業も含まれます。これは政治的に大きな痛みを伴います。
しかし競争力に乏しい政府系企業がいつまでも淘汰されないということは、民間企業がその陰でクラウディング・アウト(=押しのけられること)されることを意味します。それが中国経済から活力を奪っているのです。
資本市場の改革は政府のコントロールが効かなくなる可能性も
同様のムダは、資本市場にも存在します。そこで最も競争力のある企業が実力に応じて資本を獲得できるよう、市場原理を導入することが期待されています。その導入にあたり、中国政府はすでに預金保険機構を設立するなど準備を進めています。
さらに金利の自由化、政府によるインプリシット・ギャランティー(=言外の保証)の廃止が望まれます。そして人民元レートも、ゆくゆくは市場原理により調整されるべきです。IMFはそのようなことを踏まえ、為替レートの完全自由化を2~3年後に導入することを奨励しています。
これらはいずれも中国政府がとるべき道ですが、それは政府が市場をコントロールする力をはく奪することも意味します。市場が乱高下しはじめると「逆コース」(政府がコントロールする方策)を歩む誘惑も大きくなるわけです。
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