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【中高生のための国民の憲法講座】
第96講 自国の姿をイメージできるか 長尾一紘先生
国家相対化論は、多様な形で展開されていましたが、2010年前後を境に、内外においてその主張はしだいに弱いものになっていきました。
国家相対化論は、民主主義と市場原理の、世界における一元的な支配を前提とするものでしたが、事態はそのようには進行していません。冷戦終結以降、とくに民主国家が増大したわけではありません。また、世界において市場原理が拡大して、国家の統制が弱まったというわけでもありません。
たとえば、中国は経済のグローバル化によってもっとも大きな利益を得た国ですが、経済活動に対する国の統制にはきわめて強いものがあります。しかもこの間に獲得した巨額の財源を軍備増強につぎ込んでいます。これは一例にすぎません。
このような事情から、この当時から、「グローバリゼーション以後」が語られるようになっています。いずれにせよ、国家相対化論の影響をうけて、日本における国家像は一段と混迷を深めることになったのです。
◆憲法解釈と国家像
憲法は、国家の基本法です。国家のイメージが明確でなければ、憲法解釈に支障をきたすこともありえます。9条解釈がすっきりしない理由の一つとして、国家像がはっきりしないということを挙げることができます。