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【中高生のための国民の憲法講座 第95講】
憲法で国家の姿が思い浮かぶか 長尾一紘先生
次に前文は、「共同防衛」を国家の任務であるとしています。アメリカという国家は、「防衛共同体」であるとしているのです。この「防衛共同体」の構成員は、当然、共同防衛に参加する義務を負うことになります。各人は各人にふさわしい方法でこの義務に対応することが求められているのです。
前文は、さらにアメリカという国家が「福祉の増進と自由の確保をめざす共同体」である旨を定めています。
アメリカ憲法の前文は、このようにきわめて明確にアメリカのあるべき国家のイメージを描き出しています。ところでこの点において、日本国憲法はどうなのでしょうか。
日本国憲法の国家像
日本国憲法の草案を作成したのは占領軍です。その前文を作成する際、右のアメリカ憲法の部分を参照したものと思われます。両者を比較して留意すべき点は、「福祉」と「自由」については、日本国憲法に受け継がれていますが、「正義」と「共同防衛」については削除されているということです。これを偶然とみることはできません。終戦当時における、アメリカの対日政策を反映したものとみることができます。
「共同防衛」を日本国憲法に導入することは、当時のアメリカとしてはぜひとも避けたいことでした。日本の恒久的な弱体化を考えていたからです。「正義」もまた、占領軍にとっては不都合なものでした。原爆投下や、都市に対する無差別爆撃は明らかに正義の原則に反するものだったからです。そのかわりに導入されたのが、日本政府の行為によって戦争の惨禍が引き起こされた、とする文言です。