社説:水害サミット 防災知見を共有したい
毎日新聞 2015年07月06日 02時34分
大雨による洪水や土砂災害が心配される季節になった。被害を防いだり最小限にとどめたりするには、地域の実情に即した自治体のきめ細かい対応が欠かせない。
東京都内で先日、豪雨に伴う災害の防止や減災対策を考える「水害サミット」が開かれ、大水害に見舞われた経験のある18市町村の首長らが意見交換した。自治体はこうした機会を生かして防災の知見を共有し、住民の安全確保に努めてほしい。
「平成の大合併」からほぼ10年を経て、職員不足による対応力の低下に悩む自治体も少なくない。10年前に1市5町が合併してできた兵庫県豊岡市の中貝宗治市長は、職員減少による影響や、それを補う取り組みを報告した。
同市は合併に伴い職員を約2割減らしたところ、出水の恐れがある現場の確認や、避難所の管理運営などにあたる要員の確保が難しくなったという。対策として、職員OBに「防災支援員」を委嘱しているほか、独自開発した土砂災害危険度予測システムを住民の自主避難に役立てていると報告した。
新潟県見附(みつけ)市の久住(くすみ)時男市長は、人事異動の際に災害時の業務も指定することで人員不足を補っていると説明した。
行政の効率化は、合併の大きな目的の一つだ。職員数の削減は避けられない。同様の悩みを抱える自治体が知恵を出し合い、要員不足の克服に努める必要がある。
住民への避難勧告を出すタイミングに悩む自治体も多い。早めに出して空振りに終わることを恐れるからだ。しかし、勧告の遅れは生命に関わる甚大な被害を招きかねない。
水害サミットでは、避難勧告を含めた市町村の対応を円滑に進めるため、事前防災行動計画(タイムライン)の有用性が議論された。これは災害が発生する前から時間を追って、誰がどんな行動を取るべきかの対策を整理したもので、国土交通省が推奨している。
タイムラインを作っている京都府宇治市や兵庫県西脇市などから、避難所の早期開設、ため池やダムの放水などに役立つという報告があった。
各自治体は、地域の実情に合わせた実効性の高いタイムライン作りを進めてほしい。
住民側の備えも大切だ。過疎化や高齢化に伴って、独居老人の安全確保が深刻な課題になっている。住民同士が助け合う「互助のコミュニティー」づくりを行政が後押ししていくことも必要だ。
近年、長雨や局地的な豪雨が頻発している。行政と住民が連携した平時からの備えが、一段と重要になっている。