明治産業遺産:「強制労働」表記駆け引き 日韓、英文巡り
毎日新聞 2015年07月06日 22時07分(最終更新 07月07日 00時21分)
ドイツのボンで開かれている国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は5日、日本が世界文化遺産に推薦する「明治日本の産業革命遺産」を登録することを決定した。日韓両国は審議直前まで、朝鮮半島出身者を「徴用」したことをどう表現するかで対立。韓国側が主張した「強制労働」を意味する英語を使わないことでようやく一致し、登録にこぎ着けた。
韓国側は徴用の英訳に強制労働を指す「forced labor」を使うよう求めたが、日本側は条約など国際法で「強制労働」を意味する言葉として使われていることから拒否。結局、「働かされた」という意味の「forced to work」との表現で折り合った。登録決定後、日本代表はスピーチで「forced to work」という言葉を使い、産業革命遺産の一部施設で徴用があったことを説明。議事録にも記載されることになった。
徴用は国家総動員法に基づき、戦時中の1939年に施行された国民徴用令によって国民を強制的に働かせたことを指す。44〜45年には朝鮮半島出身者も徴用され、韓国側は産業革命遺産23施設のうち7施設で徴用があった「負の歴史」を明示するよう求めてきた。
しかし、「強制労働」の文言を使えば、請求権問題が再燃しかねないとの懸念が日本政府にはあった。請求権問題は日韓基本条約で解決済みというのが日本政府の立場で、菅義偉官房長官は6日の記者会見で「代表団の発言は強制労働を意味するものでは全くない。政府の立場には全く変わりはない」と強調した。
韓国側は「forced to work」を「強制的に労役させられ」と訳した。韓国政府は従来、徴用工問題について「強制労働」との言葉にこだわっていたが、決議文の補足事項には韓国語訳でも「強制労働」は盛り込まず、「強制的な労役」との表現にすることを受け入れた。
ただ、韓国外務省関係者は「日本による植民地時代に(朝鮮人たちが)自己の意思に反して労役させられたということを、事実上、初めて日本政府が国際社会の前で公式に言及したという大きな意味がある」と強調。当初は登録そのものに反対していた韓国が、最終的な文案でも譲ったと受け止められると国内世論の厳しい批判にさらされる危険がある。国内向けに「外交的勝利」として演出する必要があった。
一方、日本側が「強制労働を意味しない」としていることを、韓国メディアは一斉に批判的に報じた。韓国外務省関係者は「日本側は自分たちで解釈しているようだが、そもそも英語が正本だ。読めば強制性があるのかないのか、わかる」と反論。「強制的な労役」と「強制労働」の間に大きな差はないとの見方がにじむ。ただ、韓国国内で日本企業を相手取って進められている元徴用工の賠償訴訟など請求権の問題と今回の文言は関連しないと、韓国政府は繰り返し語っている。【小田中大、ソウル米村耕一、大貫智子】
◇日本政府代表団声明文
英語
Japan is prepared to take measures that allow an understanding that there were a large number of Koreans and others who were brought against their will and forced to work under harsh conditions in the1940s at some of the sites,and that,during World War2,the Government of Japan also implemented its policy of requisition.
日本語
日本は、1940年代にいくつかのサイト(施設)において、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。