日本はこれから確実に「ギリシャ化」する

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グラフに示すのは、地上波テレビの視聴ボリュームを世代ごとに大きさで表現したものである。テレビの総視聴量は人口と視聴時間の掛け算だから、ブロックの大きさがそのままテレビ視聴の総量と一致する。図にみられるように、地上波テレビは高年層と老人に占領されている。

高齢化の進展で起こったのが、お笑いブームである。高齢者は脳内で分泌されるアドレナリンが減ってくるから、加齢とともにウツに落ち込みやすくなる。ここで「笑い」が得られると、このウツ気分が少し和らぐために、日本中の老人がお笑い番組にチャネルを合わせる。
ヒナ段に多数の人物が並ぶ光景もまた、高齢化と合致している。高齢になるほど人間は孤独を感じやすく、賑やかな光景に安心をおぼえる傾向があるからだ。老人は基本的に「馴染み」を重視する傾向があるから、ご愛顧の芸人を何度でも視聴する。しかも高齢化した芸人が自らの世代に近いほうが、親近感を感じやすい。

これが近年、お笑い芸人が著しく増え、しかも50代でも40代でも普通に活躍し、画面から消えない理由である。普通に考えて、あるお笑いタレントが60代で、その下の50代の芸人に突っ込みを入れるという状況は異様に近いが、これが昨今のテレビの中で起こっている日常だ。
日本はついに、ここまで来てしまった。

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上に提示する図もまた人口とブロックの面積が一致するように作ってあるが、所得を得る層のボリュームが、そうでない層のボリュームよりも小さくなってしまった。
かつては小金持ちの代表だった自営業者の年収は既に200万円代にまで下落し、非正社員は増える一方である。高齢者はもちろん言うまでもなく、カネを稼ぐよりは税金を食いつぶす。
このように他人の稼ぎを原資に録を食む人口のほうが既に多く、この構図は、今後さらに悪化する。

現在の日本にはそもそも富裕層がいないうえに、低所得層の中心は高齢者である。年収1千万円以上の人口数は男性6.2%/女性0.9%。給与所得者の範囲に限定すると、わずか3.9%しかいない。
よく「個人資産1500兆円がある」といった指摘もあるが、期待される資産には自営業/中小企業社長のもつ事業性資産が含まれており、個人の分は450兆から500兆円しかない。そのうちの6~7割は不動産で、しかも持家が多いから、分配可能なキャッシュに限定すれば200兆円を切ってくる。つまり、大衆が金持ちに分配を要求しようにも、その相手は既に多くないのである。

このような状況下において、日本では「分配を要求するにも、その相手がいない」という現象が既に多発している。
雇用を守れと言いながら、企業が無理に高年層の雇用を守った結果、押し出されたのは力の弱い非正社員と若年層だった。企業に退職金や年金を要求しようにも、明らかになったのは積立不足だった。原発に反対するのは結構だが、電気代が値上がりした結果、痛みが直撃したのは年金が基礎消費に回る高齢者世帯である。TPPに反対して農業を守るのも良いが、価格が上がって食糧が買えなくなるのは高齢者と貧困層だ。大阪都構想で明らかになったのは、既に行政は限界まで切り詰めており、市と府が合併したところで経費削減が小さいという事実であった。
貧者には稼ぎがないのだから、強奪できる退蔵資産が国内に無い以上、好景気からこぼれてくるマネーに期待するしかない。実際、富裕層が居ない日本で社会主義革命/巨大な相続税の徴収/過度の所得分配をやろうとしても、どうせ「相手がいない」。つまり、現代日本では、美しい分配思想は体現のしようがないのである。

分配の精神はご立派だが、その是非は稼ぎの多寡による。身の程に合った程度にしか分配は得られないのだが、これを大幅に超過して大盤振る舞いしたのが、ギリシャと日本である。

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既得権益と化した年金システムを改革しようと思えば、国民全体が反対に回るが、高齢者と貧困層が増え過ぎた日本では、これはもう避けられない。世論は所得分布と人口動態を忠実に反映するから、世間に「分配か産業新興か」と尋ねれば、お笑いブームと同じように、世論は分配を希望する。つまり、分配の支出があまりにも大きいうえに、世論が分配を好み過ぎる「ギリシャ化」の流れを止めることが出来ない。

米国/韓国/中国は、社会保障を充実させる意欲が最初から弱いが、北欧/ドイツは過去、構造改革と増税を進めて稼ぎと分配をバランスさせてきた。しかし、もし日本がドイツのように改革を進めるとしたら、それを穏便に進められる時期は、もう過ぎてしまった。経済専門家の大多数は、日銀の量的緩和に素晴らしい出口があるとも、安部内閣が大胆な構造改革を円滑に進められるとも考えていない。

「ギリシャ化」する日本に残る選択肢は、やはりギリシャと同じだ。つまり、「苦い構造改革か。苦いインフレか。」の二択、もしくはその双方である。どちらも高齢者に厳しいという事実に変わりは無いが、これは過去の政治に対して彼らが責任を取るということであろう。

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中村事業企画(NBI)中村
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