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大作洋画の国内プロモーションが炎上しているのをよく見ます。
「タレントによる吹き替え」、「主題歌の差し替え」、「シーンカット」など、熱心な映画ファンの怒りを買うような施策が、なぜ未だにまかり通っているのでしょうか。

私は映画業界の人間ではありませんが、別の業界でエンタメ商材のプロモーションの仕事をしています。映画ファンでもあり、なおかつプロモーションにも携わる立場から、「洋画の国内プロモーションはなぜああいうことになっているのか」を改めて分析したいと思います。みなさんも感覚的には分かっている内容が多いかとは思いますが、現在の洋画プロモーションの手法全体を改めて見返すきっかけとして読んでいただければ幸いです。


【 その1 : 「吹き替え問題」を考えてみよう 】
洋画プロモーション炎上の一番分かりやすい例として、「芸能人の吹き替え問題」があります。
タレント○○が洋画吹き替え初挑戦! → 案の定ひどい演技で大不評、という流れを映画ファンはもううんざりするほど見てきました。配給会社もこうなることが分かっていてなぜこの手法を続けるのか、あらためて考えてみましょう。

まず、1本の映画にかけるプロモーションの予算配分を見てみます。私は実際に映画のプロモーションをしたことはないですが、自分自身が1つの映画作品の情報にどれだけ当たったかを振り返って、経験上だいたいこのぐらいの金額規模だろうな、というざっくり推測を記します。

テレビCM :ウン億円
屋外広告  :ウン千万円前半
雑誌広告  :ウン百万円~ウン千万円前半
WEB広告 :ウン百万円~ウン千万円

「いくらなんでもザックリすぎるだろ!」と思った方、ごもっとも。タイトル規模やターゲットユーザーの属性によってどの媒体にお金をたくさん投下するかが全然変わってくるので上記のようなボカした書き方になっていますが、ここで注目してほしいのは一点だけ、「他の媒体に比べて、テレビでの情報発信にとにかく金がかかる」ということです。

ライフスタイルの多様化やネットの普及によりテレビの存在感はどんどん小さくなっていると広告業界ではよく言われますが、それでもまだまだテレビで情報を発信する効果は絶大です。特に、自分から積極的に新作映画の情報を探しにいかないような人たちに一気に情報を当てるには、そして世の中で“ブームになってる感”を作り出すには、未だにテレビが最強の情報伝達経路なのです。

テレビで情報を流したい。しかし広告を流すにはとにかく金がかかる。
ここで「タレントの吹き替え」が効果を発揮します。

先ほど挙げたプロモーション予算の金額感は、「広告として出稿した場合」の金額です。つまり、テレビ局や雑誌社、WEBサイトに対して、「お金を出すので広告させてください」とお願いするわけです。それとは別に、旬な話題やニュースになる話題であれば、テレビ局や雑誌社が独自に情報をピックアップして、番組内・雑誌内で勝手に取り上げてくれます。こっちの場合は費用ゼロです。話題を作りさえすれば、お金を払わなくても媒体側が自発的に情報を流してくれるわけです。

「タレントによる吹き替え」という情報を発信することで、例えばテレビであれば、ニュース系番組・ワイドショー・バラエティなど芸能系の紹介コーナーがある番組で、最新ニュースとして取り上げてくれる可能性が出てきます。5番組~10番組で、それぞれ1、2分取り上げられたら、それだけでトータル10分の情報露出。30秒のテレビCMを20本流した分の時間をタダでゲットできます。金額換算で数千万円分の効果です。当然、雑誌やWEBニュースでも同じように取り上げられるので、こちらもタダで情報露出できます。さらに棚ボタ的に、そのタレントのファンの集客も見込めるかもしれません。

こう考えると、ギャラ数百万円で有名な声優さんを起用するより、ギャラ2、3千万円のタレントをキャスティングしたほうが、テレビやWEBが勝手に情報拡散してくれるので、結果的にプロモーション費が安くあがるのです。
私自身も乏しいプロモーション経験の中でそこそこ色々手がましたが、けっきょくテレビ局に情報を取り上げてもらうにはタレントを起用するのが一番確度が高いです。

じゃあなぜ起用されるタレントが「最近売れっ子になった」とか「声優初挑戦」とか、しょっぱい人ばかりなのでしょうか。理由はシンプルです。
あまりに人気の俳優を起用すると、コスト ( 出演料 ) が高くなりすぎてテレビ露出で得られる金額メリットを上回ってしまうので、話題性はあるけどギャラの高くない人 ( =実績がまだない人 ) が適していること。そしてマスコミは「史上初」が好きなので、「これまで何回も声優を務めた○○が今回もやります」という話よりも、「あの○○が声優に初挑戦!」という話のほうがニュース性があって取り上げてもらえる可能性が高まるからです。

つまりまとめると、「話題性だけで実績がなく、声優に初挑戦のタレントが吹き替えをするのが、プロモーション的には一番旨味がある」ということです。純粋に作品の内容を楽しみにしている映画ファンにとってはたまったもんじゃない話です。
では次に、映画ファンからしたらトンチンカン以外の何物でもないこういうプロモーションを、なぜ配給会社は続けているのかを考えてみましょう。


【 その2 : プロモーションのターゲットは誰か 】
現在、日本において劇場まで映画を見に行く人は絶賛減少中です。これは映画業界全体としても相当な危機感をもって対策が論じられているはずだし、ある作品のプロモーション計画を練るにあたり、配給会社と広告代理店の間ではこんなやり取りが行われているはすです。
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これはもう完全に私の当て推量で作ったニセ資料ですが、自分の業界を省みても、ほぼほぼこの通りの資料が行き交っていると確信します。

そもそも宣伝とは、「広く告げ知らせること」です。ターゲットとなりそうな人たちに効率的に情報を伝える作業になります。そう考えると、映画ファンは最低限の情報さえ与えれば、あとは自分から自発的に情報を取りに来てくれる層であり、そこにあまり丁寧に工数とお金を裂く必要はありません。

配給会社からしたら、その映画に興味をもっていない莫大な量の一般層を振り向かせ、劇場に引きずり込むことのほうが優先度が高いのです。そしてテレビを使うような広範囲に向けた情報発信は、タレントを使ったり感動を売りにしたり、映画リテラシーが低い人たちでも興味を持つような、キャッチーさと分かりやすさだけを考えた内容になります。

つまり、配給会社が行っているプロモーションの注力ターゲットは、「熱心な映画ファンじゃない人」なのです。そこで、熱心な映画ファンになるほど、配給会社のプロモーション内容に違和感を覚えます。そして新たな炎上騒動になるわけです。


【 その3 : 炎上・・・・してるんだっけ? 】
さて、冒頭からここまで炎上炎上と繰り返してきましたが、果たして我々映画ファンの怒りの声は、社会的にどの程度のインパクトを及ぼしているのでしょうか。結論から言うと、ほぼゼロです。

まず、炎上の情報は「一般層」には届きません。生活している上で、情報に接触するポイントが違うからです。世の中の大半の人は、ネットのまとめサイトやTwitterで映画クラスタと呼ばれる人たちがリツイートしている内容に触れることはほとんどありません。それらのコミュニティは、コミュニティに参加している人たちが思っているほど市民権を得ていないのです。

また、もし炎上の情報が届いたところで、「一般層」が態度変容をするほどのインパクトにはなりません。例えば、たまにしか映画を見ない人が、「映画『TIME』でアマンダ・セイフライドの吹き替えをしている篠田麻里子がひどい!」という情報を聞いて、「え、そうなの!?じゃあ見るのやめた!」とはならないでしょう。彼らはアマンダ・セイフライドに何の思い入れも無ければ、吹き替えの巧拙で作品への没入感が大きく変わることをそもそも重要視していないからです。

つまり、いくら映画ファンが炎上だ炎上だと言ったところで、配給会社が「これはヤバい。興収に大きなインパクトが出るほどお客が離れてしまう!」と焦るようなことはないのです。

さらに、映画ファンは、悲しい性ではありますが、気になった作品ならどんな文句を言いつつも劇場に観に行くものです。映画ファンの方は思い返してください。予告編の内容がおかしいと文句を言いつつ『ベイマックス』を観に行ったことを。エンディングがマンウィズの曲に差し替えかよと文句を言いつつ『マッドマックス』を観に行ったことを。そんなわけで、ここでもけっきょく、大規模な客離れは起こりません。

そう、我々映画ファンが基点となって「炎上」したと思っていたことは、世の中全体からしたらほとんど何の影響もないほど局所的な、内輪の話題にすぎず、配給会社としては実のところ大したマイナスにはなっていないのです。
が、そうはいっても映画ファンへの配慮として、配給会社から情報発信する段階でもうちょっと炎上を避ける方法があったんじゃないのか、という事例が最近ありました。


【 その4 : 『チャッピー』はなぜ燃えた 】
ニール・ブロムカンプ監督の最新作『チャッピー』公開直前に、ソニー・ピクチャーズ公式Twitterから以下のツイートが投稿されました。
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内容を乱暴に ( かつ やや恣意的に ) まとめると、
・PG12区分で上映したいので、一部の暴力シーンをカットします
・詳細は説明しません
・カット前のバージョンは公開しません
という内容です。

製作中の映画が配給会社の意向で内容修正を求められることは、テリー・ギリアム監督が『未来世紀ブラジル』でユニバーサルと大モメにモメた「バトル・オブ・ブラジル」を始めとして、よくあることではあります。さらに、昔を振り返ってみれば東宝東和が『バタリアン』で勝手に字幕を書き換えて「オバンバ」というキャラを作ったりしたのはどうなんだ、とかいう話もあったりしますが、大手配給会社が、1地域の興行都合で比較的作家性の強い監督の大作に手を加える ( しかもコアなファンが期待していた部分をカットする ) というのは異例です。

ただ、その決断の功罪はさておき、情報発信のやり方としてもこれはちょっとすごいです。映画ファンを怒らせようとしているとしか思えません。普段、炎上案件には乗らないようにしようとしていた私も、あまりに腹が立ったので「ソニーピクチャーズはクソだ」とツイートしてしまいました。
それと同時に、「なんでこんな情報発信の仕方をしてるんだろう?」と職業がら疑問に思いました。Twitterでこういう情報発信をするのは、失敗としか言いようがありません。ちょっと分析してみましょう。

失敗①は、誰もが一見して分かるとおり、文章があまりに酷い。特に原稿の後半、「○○はしないのでご了承ください。○○はしないのでご了承ください。○○はしません。よろしくお願いします」というたたみ掛け。否定的な文章を3連発したまま、なんのフォローもなく「よろしく」で文章が終わります。読み手の心理を考えたら、こんな心象を悪くするような文章構成は出てきません。

失敗②は、画像添付で文章を掲載してしまったこと。文章が挑発的なことと併せて、これは致命的です。文章を読んでムカついたらボタン一つで簡単に拡散できるし、画像の引用も簡単。これでは炎上拡散させてくれ、と言わんばかりの投稿です。文章を複数ツイートに分けて投稿したり、本文はリンク先に逃がすなどして、数アクションを経ないと文章全体を追えないようにすれば、脊髄反射的な炎上拡散にかなりブレーキがかかったはずです。

失敗③はそもそもこの情報の投下先としてTwitterを選んだことです。Twitterに張り付いて活発に投稿やリツイートをしているユーザーは、40歳前の人たちがほとんどです。小学生以上の子供を持っている人なんか当然ほとんどおらず、配給都合の「若い子供達にもチャッピーを見てほしいから一部シーンを改変しました。みなさんガマンしてください」という情報を受け取ったところで「小中学生なんか知るかよ!俺ら関係ねえし!」と反発するに決まっています ( かくいう私がそうでした )。

最近の洋画プロモーションでは、この例のように不適切な情報を不適切な形で投下して余計な反発を煽るパターンが非常に多いように感じます。
映画を「芸術作品」としてみた場合の損失はさておき、映画をビジネスとして冷静に見れば「タレント起用」や「内容の一部改変」にメリットが見込める以上、これらの手法は今後も無くなることはないと思いますが、そうはいってももっと上手いやり方があるのではないでしょうか。ここでちょっと提言をさせていただきたいと思います。


【その5 : みんなが気分を害さないやり方を考えよう】
例えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で起用されたAKIRAさん。彼の起用が発表された際には、映画ファン・シリーズファンから拒否反応の声が上がっていました。しかしこの事例も、WEB記事の末尾にこんなコメントが入っているだけで、印象はだいぶ違ったはずです。

AKIRA 「マッドマックスは中学の時に2を見て最高にハマって、それ以来ずっとシリーズのファンだったんで、この仕事が決まったときには叫びました!未だにウェズは映画史上最高のキャラクターだと思ってます。声優は初挑戦でしたけど、大好きなシリーズの最新作で絶対に悔いを残したくなかったので、改めてボイストレーニングにも通って、今作の設定資料も読み込んで準備をしました。ベテラン声優の方達もたくさんアドバイスをくれて、そのおかげもあって自分の実力以上のアクトができたと思っています。吹き替え版もぜひ楽しんでください!」

要するに、「旬なタレントを起用する」際に、納得感のある起用理由がちゃんと用意されているだけでイメージが全然違うということです。熱狂的なシリーズファンとして有名な人を起用するのが一番手っ取り早いですね。
まあ正直、旬なタレントでその条件に当てはまる人がそうそう見つからないのであっても、最悪過去シリーズを一気見させて、即席のシリーズファンの振る舞いを記者会見で取れるレベルにしてぐらいまではできるでしょう。

さらに上記のコメント例のように「門外漢だけど、作品のためにできることを尽くしました」という日本人が好きな浪花節のストーリーを見せるのも有効かと思います。最悪、ボイストレーニングなんて収録前に15分ぐらいやらせて「ボイストレーニングに通いました」でももういいです ( もちろん、本当にシリーズファンで、きちんとトレーニングを積んで声優に望んでくれるのであればそれがベストですよ )。
とにかく、ファンの神経を逆なでするような振る舞いをさせなければ私達映画ファンの不満はかなり減ります。リリース原稿に一文書き足すだけでこれだけ印象が変わるんです。そのぐらいはやってくださいよ・・・。

チャッピーの例だって、配給側が気概を見せて「R18バージョンもごく一部の劇場ですが限定公開します」と宣言するか、それが無理だとしても、せめて「DVD / ブルーレイでのソフト化の際にはカットシーンを含んだバージョンも収録予定です」と一言加えておけば、映画ファンからここまでの拒否反応は出なかったと思います。
( 将来販売予定のソフトの内容について現時点で明確なコミットを発信できないという企業側の事情は分かります。分かりますが、そんなことも言えないような覚悟だったら最初から独自判断でシーンカットなんかするんじゃねえよ、と思います )


【まとめ : 大作洋画プロモーションの行く末は】
長々と書いてきましたが、国内の配給会社が行っているプロモーションを振り返ってみて、改めて2つの可能性を意識しました。
「とにかく1人でも多くの新規層に劇場に足を運んでもらって、映画の楽しさに気付いてもらい、映画離れにブレーキをかけることが必要なので、長期的に見ればこの方法が正しい」のか。
「作品の本質をねじまげた宣伝で人を呼び込み、作品の質をそこねる低クオリティな日本版改変を加えた作品を見せたところで、継続的に劇場に来るような熱心な映画ファンは育たない」のか。

このへんの究極的な終着点がどうなるかは、私には分かりません。
ただ、今からでも自分にできると思っていることを書いて本稿を終えたいと思います。

たしかに配給会社の方法にも理はあります。だからと言って私達映画ファンが異議を唱えるのを控える必要は全くありません。しかし、単なる「炎上」が建設的な結果を何ももたらさないのもまた事実です。
そうなのであれば、私達がすべきなのは、配給会社の宣伝手法への批判を拡散させることではなくて、「日本の予告は“感動”を推してるけど、この映画はアクションもすごいよ!この海外版のトレーラーを見てみて!」的なポジティブな情報拡散をしていくことなのかもしれません。
映画の魅力を一人でも多くの仲間に伝えたいという点で、配給会社も私達も、目的は同じなのですから。

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