野放図に膨らんだ総工費。完成後にのしかかる巨額の改修費。問題山積の新国立競技場の計画について、政府と関係組織はあすにも有識者会合で着工のゴーサインを得る構えだ。

 改めて、言う。このまま見切り発車してはならない。後世に残す国民の財産をめぐる議論はまったく尽くされていない。

 責任者である下村文部科学相は先週、こう述べた。「(計画を見直すと)超法規的な対処をしないと間に合わない。間に合わない時にどう責任をとるのかというと相当リスクがある」

 冷静に立ち止まって考えたい。工期が「リスク」とされるのは、数年後に迫る国際イベントすべてに間に合わせる計画を崩していないからだ。2019年のラグビー・ワールドカップ(W杯)と、その翌年の東京五輪・パラリンピックである。

 もし、現行計画である二つのアーチを架ける斬新なデザインではなく、ごく一般的な設計ならば、どうなのか。

 02年サッカーW杯の決勝が行われた横浜国際総合競技場(日産スタジアム)は、工事の契約から完成まで4年近くかかった。下村氏の言う「超法規的措置」は建築確認手続きなどの簡略化とみられるが、法治国家だけに限界がある。確かに、必ずしも工期に余裕は生まれない。

 ただ、現行計画にもリスクはある。完成時期はすでに当初から2カ月延びて19年5月になった。下村氏は施工業者と厳しい調整を重ねたことを認めている。独特のデザインだけに難工事は必至で、今後も工期がずれる恐れがある。

 これに対し、設計を一から見直す場合は、手続きや工程に要する期間について過去の事業の実績から目安がある。期間をどこまで短縮できるのか、国民にもわかるように必要なデータを公開して検証するのが筋だ。

 その結果、五輪に的を絞ることで間に合うのならば、ラグビーW杯は別の主会場を検討するべきだ。W杯の成功に最善を期すのは当然だが、将来にわたり禍根を残す公共事業を引き換えとするわけにはいくまい。

 総工費は最近、900億円増えて2520億円になった。下村氏の説明では、財源は国と東京都が500億円ずつ、競技場の命名権売却など民間から200億円、残りはスポーツ振興くじの収益などという構想だが、実現性の吟味を欠いた、つぎはぎ案と言わざるをえない。

 もはや、事業主体の独立行政法人や、それを所管する文科省だけの問題ではない。政府全体の姿勢と判断が問われている。