(晋作)うそじゃと言わんか!参るぞ!文という名は捨てます。
古の都奈良。
興福寺や東大寺など古刹の数々で知られるこの町で今ワンコイン程度で手に入るイッピンが人気沸騰中なんです。
噂を聞いてやってきたのは女優の小野ゆり子さん。
そのイッピンとは…。
(小野)こんにちは。
あホントだ。
え…。
それはなんと「ふきん」。
あの台所や食卓の必需品ふきんなんです。
今奈良のふきんが女性を中心に大人気。
年間200万枚作られ全国に出荷されています。
その人気の理由は?
(店員)こちらはですね噂の。
はい。
同じですよねあの蚊帳ですよね。
そうですね織り方は一緒です。
わ〜。
こちらの…。
へぇ〜。
なるほど。
ふきんは蚊帳の生地でできたもの。
かつて多くの家庭で使われていた「蚊帳」。
風は通すが蚊は通さない。
そのための「粗目織り」という独特の織り方がなされています。
この蚊帳生地を何枚も重ねてふきんは作られますが通気性がよくすぐに乾くんだそう。
そしてさらに驚きの特徴が!こんにちは。
おじゃまします。
こんにちは。
小野さんが訪ねたのは蚊帳生地ふきんを愛用しているという和食店。
常時10枚のふきんを使っているそうです。
いいですか触っても。
(店主)どうぞどうぞ。
あ!使うほどにやわらかくなる。
これがもうひとつの特徴。
さらっとしてるんでふいても優しいと思うんですよ。
ちょっと。
フフフフ気持ちいい。
ちょっとこぼしてみます。
大胆に。
さて肝心の汚れを落とす力は?私がふいていいんですか?どうぞ。
はい。
いかせていただきます。
どうですか?すごいすごいです!一発でしみ込んでます。
とにかく汚れ落ちがいいんです。
あ浮いてくるね。
はい。
ジュワ〜っと出てきました。
あない!ありません!すごい吸水性と汚れの落ち具合。
なんか幸せな気持ちになりますね。
そうです。
汚れが落ちよく乾き使うほどにやわらかくなる奈良の蚊帳生地ふきん。
その奥深い世界にご案内します。
蚊帳生地ふきんはどうやって作られているのか工場を訪ねました。
こんにちは!あこんにちは。
3代にわたって蚊帳生地を織っている…織機っていう「機場」っていう所です。
(織機の音)すごい音ですよ!ハハハハ。
耳。
すごい。
ずらりと並んだ自動織機。
ここでは年間16万枚の蚊帳生地ふきんを生産しています。
蚊帳生地は縦糸と横糸を1本ずつ交差させて織ります。
糸と糸との間隔を広くとるのが特徴。
これが「粗目織り」です。
(織機の音)うわぁ…。
(丸山)細かいでしょ?細かいです。
でももうきれいです。
わぁ弾力が。
やわらかいでしょ?トランポリンみたいです。
いったいどうしたらこんなにきれいに織ることができるんでしょうか。
これが織物の一番最初のはじまりの…。
はじまりの?はじまりの工程。
織りは縦糸を巻き取ることから始まります。
糸は天然素材の「レーヨン」。
実はこれがふきんのやわらかさを生み出す理由の一つなんです。
これがふきんの糸です。
引っ張ってみてください。
いいんですか?はいどうぞ。
いきます。
あふわっと。
プチじゃなくて離れるように。
え?こんなにやわらかいんですか?3本くらいでやっても!え〜。
やっぱりこれくらいやわらかい糸じゃないとああいうふうにやわらかいふきんは出来ないんですか?ああそうですね。
だけどこのままでは織れないので次の工程の「サイジング」というところでのりをここへつけまして。
頑丈になって織りやすくなるということですか?そうです。
やわらかいままでは糸は織れません。
そこで登場するのがのり。
高温に熱したのりをローラーを使って糸に満遍なくつけていきます。
これ今…。
80度80度。
温泉みたいですね。
アハハハ。
のりには料理でとろみを出すコーンスターチなどが使われています。
その分量の調整が一苦労なんだそうです。
つけすぎても駄目なんですか?はい駄目。
極限まで切れる極限まで落とすというところがポイント。
ポイントなんですね。
難しいのは糸にはけばがあること。
同じ種類の糸でも「けば」の量はまちまちなんです。
けばの状態を見極めのりの濃度を調整するのがコツ。
けばが多い糸はのりがつきやすいので濃度を薄くしてつきすぎるのを防ぎます。
反対にけばが少ない糸には濃度を濃くしてのりがしっかりつくようにします。
こうして巧みにのりづけした糸は次の工程へ。
でここで一応はい。
乾燥してるんです。
触っていただいたら糸と糸がくっついて固いですよね。
あ固いです!全然違います。
わぁすごい!のりづけした糸は数十本の束になっています。
あ離していく。
離していきます。
それを棒の上下に通しほぐしていくのです。
正面から見ると束がだんだん細くなっていくことが分かります。
そして最後は1本1本の糸になるんです。
最終1本1本が糸。
あ1枚の布を触ってる感覚です。
これが生の糸。
整経機のところの。
はいさっきの…。
これが今巻いてるふきんののりづけし終わった糸がこれ。
全然違う。
全然違うでしょ。
のりづけされると1本1本の糸になっちゃうんですね。
「糸が立ってる」と言うんですねわれわれは。
「立ってる」っていうんですか。
へぇ〜。
しかしのりづけがうまくいかないとこんなことが。
これなんです。
うわぁ。
目がずれてますでしょ?ずれてます!これはふきんですけど蚊が通っちゃいますよね。
あそこでつけすぎると目がずれやすくなる。
だからなるだけのりは落とすけどでもつけないとこの粗目織りっていうのはできない。
織れない。
織れない。
だからその極限までどう落とすかっていうところ。
ふ〜ん。
こうして苦労して織った生地を6枚重ねにしていきます。
ミシンをかけ35センチ角に裁断すれば蚊帳生地ふきんの完成です。
こうして切れそうにやわらかい糸から美しいマス目を持つふきんが生まれました。
蚊帳生地ふきんが手放せないというのが料理研究家の野口真紀さん。
家庭の味をベースにした手軽なレシピで大人気の野口さんに蚊帳生地ふきん活用術を見せていただきましょう。
(野口)きょうは下に敷いて熱いお皿を持ち上げる。
ホントもう何十とおりにも使えますね。
目の粗い生地なので下から上がる蒸気を遮ることもありません。
蒸したジャガイモの皮むきもスムーズに。
ジャガイモの皮むく時に滑りづらくなるんですかねぇ。
やっぱしこの目の粗さが。
水回りの掃除にも大活躍。
水けの多いシンクも水跡を残さずきれいに。
さっぱりするというかきれいな仕上がりになりますね。
ふきんの中で何が起きているんでしょう?色を付けた水をたらすとすぐに重なった生地の間にしみ込んでいきます。
目が粗いので水は滞ることなく素早く奥の層にまで達するんです。
すごいこのふきんはあっという間にカラッと乾いてくれるので菌が繁殖しずらいかなぁって。
では蚊帳生地ふきんの通気性はどれほどのものなんでしょう。
比較実験しました。
比べるのはこの2つ。
6枚重ねの蚊帳生地ふきんと1枚の綿の生地。
まずは綿。
生地に一定の空気を当ててはね返す力を数値化します。
値が小さいほど通気性がいいことを意味します。
綿の生地は0.09。
一方6枚重ねの蚊帳生地ふきんは…。
6枚重ねであっても蚊帳生地は綿1枚の3倍通気性がよいことが分かりました。
もう15年も蚊帳生地ふきんを使っている野口さん。
愛用する最大の理由は…。
このふきんを使うと他のふきんがもう使えなくなってしまってる感じなんですけどもやっぱり他のふきんと違うところは手触りのよさとかふんわりとしてますしすごく拭きやすいですね。
おろしたてはのりが利いてパリパリしていますが1か月毎日使い続けるとこのとおり。
のりがすっかり落ちてけばだらけになります。
このけばが絡まり合うことでふわふわのやわらかさが生まれ使い心地抜群になるのです。
料理のプロが手放せない理由分かっていただけましたか?古来奈良では寺のさまざまな儀式などに使う薄い織物を作ってきました。
その技術を応用して江戸時代には蚊帳を盛んに生産するようになったといいます。
明治に機械が導入されるといっそう発展。
大正10年には全国の蚊帳生産の頂点に立ちました。
こんにちは。
こんにちはどうも。
代々蚊帳製造業を営んできた垣谷欣治さんです。
どうぞ。
うわぁ。
私初めてなんです。
蚊帳を生で見るのが。
そうですよね。
はい。
若いから…。
きれい!結構きれいでしょ。
きれいです。
いいもんですよ。
いやいいもんって分かります。
よかったら中に入られたら?いいんですか?どうぞどうぞ。
しかし入り口がどこか分からないです。
あのねどこからでもいいんですけどちょっと座って虫を払って。
「蚊がいるぞ蚊がいるぞ」みたいな。
そうそう。
ここからスッと入ってもらって。
はい。
アハハハ。
そうそう。
そんな感じそんな感じ。
わ〜。
なんだかお姫様になった気持ちです。
昭和40年代になると生活様式の変化により蚊帳の需要は激減します。
ここが一番分厚いところ…。
そんな中蚊帳生地を使って作られるようになったのがふきんでした。
僕のおばあちゃん僕で3代目になるんだけどその人から数えて。
明治生まれの人でねこれをずっと作ってきた人なんですけど。
仕立ての時にはぎれが出るじゃないですか。
はぎれをミシンで縫って自家用のふきんとして使ってたんですよ。
それがあんまりにも使い心地がいいんでね。
ふ〜ん。
もともと自家用に作ったふきんが使いやすいと周囲で評判になり多くの会社で製品化されることになったのです。
蚊帳生地ふきんはここ東大寺でも大活躍しています。
毎年8月に行われる「お身拭い」。
年に一度大仏様を拭き清めるのに蚊帳生地ふきんが使われているんです。
大仏様もすっきり。
ありがたい蚊帳生地ふきんです。
最近大人気の新しいふきんがあると聞いて小野さんがやってきたのは…。
こんにちは。
(店)いらっしゃいませ。
これがそのふきんですか?
(店員)そうですね。
こちらが大判なおふきんになっておりまして蚊帳の生地を2枚重ねにして使っているんですけども。
2枚?はい。
乾きも速いというデザインになってます。
(店員)はい。
すごい薄いんですよ。
通常6枚から8枚重ねなのにこれは2枚。
そのため広げれば乾きやすく畳めば吸水性も問題ありません。
ああでもこれで食器拭いたら助かります。
いつも拭いても拭いても水滴が残っちゃうことが多くて。
そうですよね。
はい。
最終的にポンと置いておくのでこれは便利そうです。
ありがとうございます。
しかし2枚重ねの薄いふきんの開発には大きな苦労がありました。
薄いと目の粗い蚊帳生地は僅かな力でもゆがんで裂けてしまいます。
生地の端もほつれやすいんです。
こうした課題を克服するためこのふきんにはさまざまな工夫が凝らされているんです。
(林)ここで縫ってますねん。
はい。
2枚重ねのふきんは職人の手によって生み出されます。
林隆敏さんはキャリア50年のベテラン縫製職人。
(ミシンをかける音)速い。
いやこれは仕事やからね。
まず2枚の生地を縫い合わせる作業から。
生地を重ね端の1センチの所を縫っていきます。
それで縫った後に裏返すんですか?そうそう。
内側が表になるようひっくり返した後縫い目を指でしごきます。
こうしてほつれやすい生地の端が内側に来ました。
そして4枚重ねになった端をもう一度縫うともはやほつれの心配はなくなります。
縫い代はたったの2ミリ。
端の部分を丈夫にするためギリギリの幅で縫っていくんです。
さらにふきん全体に独特のステッチを描きます。
こうすると縦横斜めさまざまな方向から力がかかっても生地が裂けにくくなるんだそうです。
ではその縫い方を見ていきましょう。
印?はい。
ステッチ走るための印が欲しいんですわ。
次真ん中縫うための。
そうそうそうそう。
それを1回仕上げてまうから。
折り目を目安にして縫い始めましたが…。
なんと一度も針を上げずに一筆書きで仕上げました。
これで出来上がりです。
すごい。
今「たどれ」って言われたらたどれません。
フフフ…。
わぁ!へぇ〜。
一筆書きはほつれの原因になるつなぎ目をなくししかも美しく見せるためでした。
熟練の技が生む画期的なふきんです。
羽織ったときの優しい透け感。
着ていることを忘れそうな軽やかさ。
またも姿を変えた蚊帳生地です。
あ〜軽い。
着てるのかなって感じ。
(林田)そうなんですよね。
涼しげで空気みたいです。
なんか風を浴びて。
蚊帳生地服の企画・デザインを行った林田千華さん。
カーディガンやスカートなどさまざまな服に蚊帳生地を使っています。
もともと麻で服を作っていましたが7年前新たな素材を探していたときに蚊帳生地の特徴に気がついたんだそう。
私たちもふきんとして使ってたんですけれどもなんかこのふわふわになる感を何か他にもできるんじゃないかなと思って。
そうですね。
日常着が作れたらいいなと思って作ったのが最初なんですね。
しかし当時洋服に使いたいと思える色や柄の蚊帳生地はどこにもありませんでした。
新たに生地を作ってくれる人を探しましたが売り物になるかどうかも分からない服の生地作りに誰もが尻込みしました。
(織機の音)それを引き受けたのが笹田昌孝さんです。
色展開は5色ぐらい入れてやりたいので。
(笹田)私的にも新しい勉強になりますし。
こんにちは。
問題は生地だけではありませんでした。
おじゃましま〜す。
服に仕立てたところ蚊帳生地ならではの困難に直面することになったのです。
これだけ小さく。
これ同じですか?そうなんです。
蚊帳生地は洗うと大幅に縮むんです。
のりが取れると目が粗いために糸が動きやすくなり糸と糸との間隔が急激に狭まるからです。
洗ってびっくり!赤ちゃんのサイズになっちゃいますよね。
ホントに子供サイズ。
子供サイズですよね。
びっくりしました。
そこで試作品を作っては洗い服やパーツごとの縮み率を割り出しました。
結局計算に基づいてあらかじめ大きめに作りました。
そして一度洗ってからアイロンをかけ適正なサイズにしたのです。
そこまでしてもやっぱり蚊帳生地を使いたいっていうそれはどこから生まれたといいますか?やっぱり奈良発のものを何か作りたいっていうのは一つとなおかつとても着心地のいいものにしたいなと思いました。
やわらかいです中まで。
お袖を通したいっていう感じです。
諦めることなく作り上げた蚊帳生地服。
地元奈良のユニークな素材への思いが優しい着心地を生みました。
人々の暮らしに常に寄り添ってきた蚊帳生地。
より便利に心地よく。
作り手の技と心によってこれからも優しくてたくましい味方であり続けます。
2015/07/05(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「優しくてたくましい 台所の味方〜奈良 蚊帳生地ふきん〜」[字]
今、大人気の奈良の蚊帳生地ふきん。汚れ落ちがよく、すぐ乾き、使うほどに柔らかくなる、すぐれもの!しかも財布にやさしいイッピンに秘められた不思議な世界を探る。
詳細情報
番組内容
今、大人気の奈良の蚊帳生地ふきん。汚れ落ちがよく、すぐ乾き、使うほどに柔らかくなるというすぐれもの。しかもワンコイン程度で買える、財布に優しいイッピンだ。秘密は、“粗目織り”という独特の織り方をした生地にある。「風は通すが、蚊は通さない」蚊帳ならではの生地が、ふきんに姿を変えたものなのだ。また、人気の料理研究家が明かす「蚊帳生地ふきん活用術」とは?女優・小野ゆり子が、ふきんの奥深い世界を探る。
出演者
【リポーター】小野ゆり子,【語り】平野義和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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