サイエンスZERO「身近な元素で未来が変わる ナノ炭素素材」 2015.07.04


時は西暦2000年。
当時のアメリカ大統領が夢の未来技術を語っています。
実はこれら全て鉛筆…の芯の材料炭素で実現するというのです!炭素原子をナノスケール100万分の1ミリのレベルで整えたナノ炭素素材。
その実用化が見えてきました。
超初期段階のがんを治療する技術その開発が進んでいて更には超小型の蓄電池の試作品もできました。
身近な元素なのに最先端のナノ炭素素材に迫ります!今日はナノ炭素ですか。
はい。
これはですね炭素原子の配列をナノレベルできれいに並べた素材なんですね。
これがナノ炭素素材っていうんですね。
実は最近「ZERO」でも扱ったんですが覚えてますかねこれ。
宇宙エレベーターの時に出てきたカーボンナノチューブ。
すごい強いんでしたよね。
そうなんです。
これが理論上最も強いケーブルを作る事ができる素材なんですね。
これが発見されたので宇宙エレベーター構想が現実味を帯びてきたんですね。
で先ほど大統領が鋼の10倍の強さを持つ素材と言っていたのがこれですね。
言ってましたね。
はい。
しかしナノ炭素素材はカーボンナノチューブだけじゃないんですよ。
えっ!これを広げると…。
おっ。
これグラフェンといいます。
これもすごいナノ炭素素材なんですよ。
グラフェンはですねもう製品として実用化されてるんですよ。
えっ。
これですか?これはグラファイトフィルムというんですがグラフェンが集まってできていてすごく熱を通すんですね。
へえ〜。
なので放熱シートとして使われてるんですよ。
こちらをご覧下さい。
熱の伝わり方を金属の銅と比べてみましょう。
このお湯の入ったビーカーを上に置きます。
サーモグラフィーで見てみましょう。
はい。
グラファイトシートの方は置くとすぐにフワ〜ッと広がって。
お〜。
取ると急になくなっちゃうと。
うわっ速い!全然違いますね。
違いますね。
いやこれすごい性能ですね。
ですよね。
じゃあこの熱の伝わり方を体感してみましょうか。
はい。
これペラペラでしょ。
はいペラペラ。
なんですがこのグラファイトシートでこうやってね氷をね…。
氷を?あれっ!あれっ。
氷が切れた!そうなんですよ。
え〜!手の熱で?そうなんですよ。
これほら。
やってみよう。
あっ!ほら切れ目が入るでしょ。
すご〜い!え〜。
いや不思議ですね。
そんな簡単に熱が伝わるんですね。
スマートフォンなどに組み込まれているグラファイトフィルム。
効率よく熱を逃がすために広く使われています。
この高性能なフィルムを開発した村上睦明さんです。
これが原料の高分子フィルムです。
ポリイミドといいます。
原料には炭素原子だけでなく窒素や酸素なども入っています。
これを炉の中に入れ2,800度以上の高温で蒸し焼きにするんです。
これだけで…出来上がったフィルムは真っ黒。
でもどうしてグラファイトフィルムは熱がよく伝わるんですか?熱の振動が結合を伝わる。
結合が強い事が大切という事みたいですね。
その強い結合を見せてもらうためにつくば市を訪れました。
炭素原子を見るものとしては世界最高の解像度を誇る電子顕微鏡その名も…結合はどうなっているんでしょうか。
小さく切ったグラファイトフィルムを網に載せて…。
電子顕微鏡にセット。
果たしてどんなふうに見えるんでしょうか?見えないのは厚すぎるから。
そこで取り出したのが…。
テープ?一体何が始まるんでしょう?グラファイトフィルムをテープに貼り付けました。
そのまま貼って剥がす。
また貼って剥がす。
確かにこれで薄くはなりますが何か荒っぽくないですか?いいの?これで。
グラファイトフィルムの断面を見ると炭素のシートがきれいに何層も重なった構造をしていました。
結合を見やすくするために剥がして1層だけにする作業をしていたんです。
その名も…これだけやれば1層だけになった所があるはずです。
この一番薄く見える所この辺りが1層になっています。
これでもう一度挑戦です。
これがおよそ3万倍。
更に倍率を上げて100万倍。
1,000万倍。
網の目のようなものが見えてきました。
シート状になった炭素原子の構造です。
六角形の形に並んでいる事が分かります。
これが強い結合の秘密なんです。
いや何か六角形出てきましたけど…そうですね。
でもあの前の…ですが…ノーベル賞ですか?その剥がす方法を発見したのがこちらのお二人。
それまでもこの六角形の炭素のシートが存在するという事は理論的には分かってたんですが1層だけ剥がすっていう事はできなかったんです。
でもそうやってテープで1枚だけ剥がして出てきたのがあの六角形の構造でしたけどあの構造が結合が強い事にどう関係するんですか?じゃあここからは専門家に伺いましょう。
篠原さんグラファイトフィルムの炭素の結合が強いっていうのはどういう事ですか?結合が強いっていうのは炭素の一番の大きな特徴なんですね。
結合が強い炭素といえば何でしょう?硬い炭素。
硬い炭素?そうです。
ダイヤですね。
ダイヤの炭素の構造はこのようになっています。
1つの炭素の構造を見ますと4つの手を持ってるんですね。
ダイヤモンドは非常に硬い強い構造を持っている訳ですね。
実はグラフェンはもっと強い構造をしているんですね。
グラフェンの特徴的な構造は1つの炭素の…一つ一つの手は実はダイヤモンドの結合と全く同じなんですね。
はい。
4本目の手は実は平面になくて上と下に伸びてるんですね。
このために…いや〜何か結合が強いのはすごい分かったような気がします。
でもこうやって結合が強いと熱が伝わりやすいんですか?はいそのとおりです。
グラフェンっていうのは原子同士の結合がすごく強いのでそこからいろんな性質が出てくるんですね。
世界で最も熱を伝えやすい物質というだけじゃなくて…へえ〜。
もしですね非常に大きなしかもクオリティーがいいものができれば…え〜!透明?人間の目にはほとんど見えません。
え〜!意外。
その一枚のグラフェンで数キロぐらいの猫をつるせる事は十分に可能だと。
これはもう理論上そうなってます。
見てみたいですね。
ねえ!ほかにも特性があるんですよね。
はい。
伝導性のいい物質がいっぱいあるんですがその中でもトップクラスの伝導性を持っています。
いや何かいろんな特性があって夢のような物質ですよね。
でもこれは理論上の話ですよね。
実験はどれくらい進んでるんですか?グラフェンの熱伝導率あるいは電気の伝導率は今お話ししたように非常にいいんですけどもまだ問題があるんですね。
それは非常に大きな数十センチ角ぐらいのグラフェンを作ろうとすると…ですからこの辺がこれからの研究課題だと思っています。
ところが一方で酸化グラフェンと呼ばれるグラフェンがあるんですがこれはもう少しある意味で簡単に作れるんですねグラフェンより。
しかも量も非常に多く作れるというので今非常に応用実用化で注目されています。
電池や電極の研究を続けて40年以上になります。
車のバッテリーなどに広く使われる鉛蓄電池。
酸化グラフェンを使えば超小型化ができるといいます。
そういうところに使えるようになるんじゃないかと思いますね。
これまでの鉛蓄電池の仕組みです。
硫酸という液体に電極が入っています。
まずはマイナス極に注目。
電気を使う時マイナス極側の硫酸から水素イオンと電子が発生します。
水素イオンは硫酸を通り電子は電線を通ってプラス極へ向かいます。
このように電池にはイオンと電子が別々の道を通る事が必要なのです。
これを可能にしていたのが硫酸なのです。
しかし硫酸は液体なので鉛蓄電池の小型化には限界があるとされてきました。
そこで松本さんが硫酸の代わりとして着目したのが…酸化させる事によって出てくる特徴が電池に使うのに最適なのです。
酸化グラフェンで鉛蓄電池を組み立ててもらいます。
まずは電極にイオンを発生させるペーストを塗ります。
これで酸化グラフェンを挟むと出来上がりです。
酸化グラフェンの両脇に2つの電極。
それぞれの間にペーストが挟まっています。
液体を使わない分小さく作る事が可能になりました。
性能はまだまだですが充電も放電もできる立派な鉛蓄電池です。
炭素で小さな電池が作れたらかなり可能性が広がりそうですね。
ですよね。
でもどうして酸化グラフェンが硫酸の代わりになれたんですか?硫酸もちょっとは使ってるんですよ。
というのは電子と水素イオンを発生させないといけないのでペーストの中に成分として硫酸はちょっと入ってるんですね。
ただ液体でないので小型化できるぞという事なんですよ。
なるほど。
そもそも鉛蓄電池の硫酸には2つの役割がありました。
酸化グラフェンを使った鉛蓄電池ではその1つ目を硫酸を含んだペーストが担っています。
酸化グラフェンが担っているのは2つ目です。
酸化グラフェンを使った鉛蓄電池の仕組みです。
従来と同様硫酸から水素イオンと電子が発生します。
電子は酸化グラフェンを通れないので電線を通り水素イオンは酸化グラフェンを通ります。
ではなぜ酸化グラフェンは水素イオンだけを通せるのでしょうか?酸化グラフェンの表面には酸素原子がたくさんついています。
これが重要な性質をもたらすのです。
酸化グラフェンが層になるとその間に空気中の水蒸気などの水分子が引き込まれます。
するとその水分子を渡ってまるでトコロテンのように水素イオンの移動が起こるようになるのです。
実際には酸化グラフェンの膜もたくさん重なって層になっています。
間をすり抜けるようにして水素イオンは膜の反対側へすり抜けられるのです。
水素イオンがトコロテンのように動いてたの面白いですね。
面白いですね。
これ酸化させるとガラッと性質が変わるっていう事ですよね?これも炭素ならではなんですか?そうですね炭素ならではだと思いますね。
ここまでグラフェンとカーボンナノチューブを見てきましたが実はまだまだ格好が変わるんですよ。
それがこちら。
おっ?あっ丸まった。
これ何の格好ですか?え〜何でしょうか。
じゃあヒント出しましょうか。
はい。
あ〜!どうでしょう?サッカーボール。
そうですね。
これも注目のナノ炭素素材でフラーレンという名前が付いているんですよ。
この物質はカーボンナノチューブとかグラフェンよりも前に発見された最初のナノ炭素物質なんですね。
1985年に当時イギリスのサセックス大学におられたハロルド・クロトー先生とアメリカのライス大学のリチャード・スモーリー先生それとボブ・カール先生が偶然に実験的に発見した物質なんですね。
ただこの時は発見しただけで物質として量を多く作れなかったんですね。
1990年の9月にドイツで国際会議がありましてアメリカとドイツの研究チームが非常に簡単な方法でフラーレンを大量合成するという発表をしたんですね。
飛び入り講演だったんですね。
飛び入り講演?プログラムにはなかったんです。
へえ〜!私もたまたまその学会に参加していてみんな会場騒然としましてこの講演があまりにも衝撃的だったのでかなりの研究者が私も含めて…学生に…すごい。
学生はみんなおどおどしてましたけどね。
一体その合成方法というのはどういうものだったんですか?これがまた驚くべき簡単な方法で…そうすると蒸発した途中にヘリウムによってカーボンが集まってフラーレンになるんですね。
へえ〜。
ああいうふうに煤になるんですけども煤が実はフラーレンのもとであの煤の中の大体…非常に簡単な方法。
でもこれは一体何の役に立つんですか?私が注目しているのが実はこれなんです。
中に何か入ってますね。
はい。
金属内包フラーレンというふうに呼んでいます。
この中に入ってる丸いボールがガドリニウムという金属原子なんですね。
ガドリニウムというのは実は人体に毒性が高いんですね。
これを特にバイオメディカルな分野に応用実用化しようというふうに今研究を進めています。
篠原さんと共同研究をしている長崎幸夫さんです。
治療と診断。
どうやって使うのでしょうか?マウスでの実験を見せてもらいました。
このマウス足の付け根にがんを持っています。
ガドリニウム内包フラーレンを注射して…。
3日たつと。
このがんの部分ほんのり黒ずんでいるのが分かるでしょうか?フラーレンががん細胞に集まっているのです。
これがポイントです。
実はがん細胞の周りの血管はがん細胞が急激に成長するため穴がたくさん開いています。
そこに投与されたガドリニウム内包フラーレンが血液に乗って通りかかります。
フラーレンは数十個ほどがくっついて50ナノメートル前後の塊になっています。
すると血管の穴とフラーレンの塊の大きさがちょうどかみ合いどんどんがん細胞に向かっていくのです。
この状態が実は画像診断に向いているのです。
マウスをMRIで見てみます。
ガドリニウム内包フラーレンを投与したマウスと投与していないマウスの画像を比較します。
それぞれがんはここ。
ガドリニウム内包フラーレンを投与した事でコントラストが強まりがんの形や大きさをより正確に捉えられるのです。
更に長崎さんのグループはがんに集まったガドリニウムを使うと放射線治療の精度が劇的に上がるのではないかと考えています。
現在の一般的な放射線治療はがんの位置をあらかじめ把握しそこを目がけてX線などを照射します。
放射線を当てたエリア全てに影響が出るので目的とするがん細胞以外にもダメージが出てしまう可能性があるのです。
一方ガドリニウム内包フラーレンを使った治療で使うのは中性子という放射線です。
治療用に調整された中性子は大半の原子をすり抜けるので当たっても影響は大きくありません。
しかしガドリニウムなど特定の原子に当たるとそこからガンマ線が発生。
このガンマ線が細胞を攻撃します。
そのためがん細胞は攻撃されますが周辺の細胞への影響は抑えられるはずなのです。
治療の効果です。
縦軸はがんの大きさ横軸は時間です。
この治療をしたマウスのがんはその成長が1/3に抑えられた事が分かりました。
人体に対して…炭素ががんの治療にまで使えるって驚きです。
びっくりですね。
でもこの新しい治療法はかなり期待できそうですよね。
そうですね。
これは実用化はいつごろになりそうですか?まあ多分すぐにという訳にはいかないと思いますが多分10年とか15年とかかかるかなとは思います。
フラーレンみたいなあんなきれいな形を作れる原子ってほかにはないんですか?理論的にはいろいろ予想されてるんですが現実にはまだ作られていません。
へえ〜。
グラフェンもカーボンナノチューブもフラーレンもみんなオールカーボン全部カーボンでできていますね。
水素もないし酸素もないし窒素もない。
今日はナノ炭素素材の研究例を3つ見てきましたがどうでしたか?いろんな形に変わってそれぞれいろんな特性があって。
それもナノレベルで調整するとこんなにいろんな事ができるんだなと思ってびっくりしましたね。
うん。
このナノ炭素素材は今後も研究が楽しみですね。
非常に楽しみだと思いますね。
20世紀はシリコン半導体が華やかな世紀でしたからシリコンの時代。
…というふうな事を言う科学者が多いです。
篠原さん今日はどうもありがとうございました。
どうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2015/07/04(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「身近な元素で未来が変わる ナノ炭素素材」[字][再]

ノーベル賞を次々に授賞し注目されるナノ炭素素材。すでにその高性能を利用した製品は身近に使われている。酸化グラフェンの小型蓄電池やフラーレンのがん治療への応用も。

詳細情報
番組内容
炭素を100万分の1ミリ、1ナノメートル単位で配列を整えたナノ炭素素材の応用が本格化してきた。ダイヤモンドに代表される炭素原子同士の結合は非常に強いため、きれいな配列のものが作れれば高性能を発揮できるのだ。すでにスマホなどに利用されている高性能放熱シートや、超小型蓄電池、次世代のがん治療などその分野はさまざま。実現化をもたらした2つのノーベル賞をはじめとする数々のブレイクスルーとともに紹介する。
出演者
【ゲスト】名古屋大学大学院教授…篠原久典,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】筒井亮太郎

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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