小林誠人さん46才職業医師。
信念は一秒でも早く患者のもとへ駆けつける事。
そのための武器が…時速200キロで小林さんを現場へ運びます。
降り立ったのはショッピングセンターの駐車場。
フライトドクター小林さんの流儀は病院ではなく現場で患者を診る事です。
患者は頭を強く打った女の子と意識が薄れた母親。
ヘリに乗せられるのは1人だけです。
一刻を争う現場で命を救うためのギリギリの判断が求められます。
小林さんが乗るドクターヘリの出動回数は年間…日本一を誇ります。
地域医療に革命を起こし重症患者の救命率を全国トップクラスにまで押し上げた小林さん。
若いドクターたちと共に救命救急の最前線を走り続けています。
現場でしか救えない命がある。
小林さんたちの奮闘の日々を追いました。
ここに兵庫県北部を中心とした地域のほぼ全ての救急患者を受け入れている病院があります。
(小林)おはようございます。
小林さんが着るのは白衣ではありません。
現場で必要な道具を入れるポケットがついた作業服。
そして足元にはブーツ。
いつどんな場所でも活動できるようにするためです。
これが小林さんの制服です。
空飛ぶ治療室ドクターヘリ。
朝8時半から日没前までが運航時間です。
国と兵庫県などがその費用を負担しています。
要請は突然やって来ます。
・小林さんが向かうのは建物からおよそ50メートル離れたヘリポート。
消防の要請から3分。
ヘリが飛び立ちました。
豊岡のドクターヘリがカバーするのは兵庫京都鳥取にまたがる半径およそ80キロの範囲です。
次第に現場の情報が入り始めました。
着陸したのは病院からおよそ50キロ離れた現場近くの駐車場。
14分で到着です。
ドクターヘリがカバーするエリアの多くは農村地帯。
患者がいるのはこの先です。
小林さんたちが向かったのは棚田が連なる山あいの集落。
農作業中のトラクターが横転。
運転していた男性は投げ出された際頭を強く打っていました。
おとうさん!足触ったら分かる?おとうさん!小林さんが疑ったのは頭の中での出血。
治療が遅れると重い後遺症が残る事もあります。
小林さんは出血を抑えるため点滴による薬の投与を指示しました。
まずは頭の中の出血を確認します。
ちょっと待ってよ〜。
ちょっと待ってよ。
検査の結果出血は認められたものの僅かな量にとどまっていた事が分かりました。
小林さんの素早い治療が男性を救いました。
今日頭のもう一回検査して帰るかどうか考えようか。
ドクターが現場に駆けつけいち早く患者を治療する。
豊岡でこうしたスタイルが始まったのは5年前です。
(拍手)ドクターヘリが配備されるとともにその責任者として招かれた小林さん。
豊岡に新しい救急医療体制を作り上げてほしいと依頼されたのです。
小林さんが考えたのは全く新しいシステムでした。
一般的なドクターヘリの要請ではまず現場から消防に通報が入ります。
その後救急車が患者のもとへ出動。
救急隊がドクターヘリの出動を要請するかどうか判断します。
小林さんはこれではドクターヘリの機動力が生かせないと考えていました。
・はい豊岡消防119番です。
火災ですか?救急ですか?どうしたらいち早く現場にヘリを出動させる事ができるのか。
小林さんが導入したのがキーワード方式でした。
119番通報の中に「脈が触れない」「痙攣している」などのキーワードが含まれていた場合機械的にドクターヘリを呼ぶ事にしたのです。
このシステムを使う事でドクターヘリが出動するまでの時間が大幅に短縮されました。
更に出動回数は年間およそ1,500回。
全国に配備されているドクターヘリの平均の3倍以上で日本一を誇ります。
豊岡消防指令センターです。
しかしキーワード方式では出動後に患者が軽い症状だと分かり引き返す事も頻繁に起きます。
小林さんはそれでも構わないと考えています。
(取材者)それやっぱりリスクを取るというか…。
(医療機器の音)キーワード方式を導入して5年。
重症患者の救命率をおよそ4倍に上昇させるなど小林さんは着実に成果を上げてきました。
そんな小林さんに対しチームのドクターたちは厚い信頼を寄せています。
(笑い声)小林さんは難しい判断が迫られる現場と向き合う事になりました。
この日運ばれてきたのは母親と娘。
坂道を自転車で下っていた時に転倒したというのです。
女の子は頭を強く打っていました。
次に向かったのは母親が乗せられている救急車。
ここから20キロぐらい。
夜久野でこのお母さんともう一人7歳ぐらいの女児が自転車で転倒。
母親は意識が薄れた状態でした。
ヘリで搬送できるのは一人だけです。
小林さんはまず女の子を搬送する事に決めました。
子どもの場合症状が早く悪化する可能性があります。
お願いしま〜す。
女の子には頭の中に出血が認められたものの後遺症は残らない事が分かりました。
20分後母親も到着。
無事に意識を取り戻しました。
小林さんが救急医になったのは27歳の時。
以来20年間走り続けています。
最も長く勤務したのが大阪にある日本有数の救急センター。
患者のもとへ駆けつける事の重要性をたたき込まれました。
その小林さんが忘れられない現場があります。
報道あかんで。
駄目!駄目!あかんあかん。
10年前の…電車がカーブを曲がり切れずに脱線。
乗客ら107人が亡くなり562人がケガをしました。
ここで陣頭指揮を執った小林さんは日本で初めてトリアージを行いました。
目の前に横たわる多くの患者。
今すぐ治療が必要なのか既に手の施しようがないのか。
冷静に見極めなければなりませんでした。
小林さんにはまだ乗り越えなければならない課題があります。
現場の救急隊がドクターヘリを呼ぶ場合連携がうまくいかない事があるのです。
あるケースでは出動した救急隊がドクターヘリを呼ばず患者を近くにある病院に搬送しました。
しかし医師の診断では患者の状態が悪い事が分かりこの病院からドクターヘリの要請があったのです。
本来なら1時間前に到着していたはずの患者でした。
こうした場合患者に重い後遺症が残る事もあります。
礼!直れ!おはようございます。
(一同)おはようございます。
但馬救命の小林です。
平素は…。
どうしたら消防との連携を更に強くできるのか。
小林さんは月に2回各地の消防を回りドクターヘリの要請がなかったり遅れたりした事案について1つずつ話し合いを重ねています。
この日話し合われたのはヘリの運航が始まる朝8時半直前に起きた事案についてです。
救急隊が現場に着いた時患者は脳梗塞の疑いがあったものの容体は安定していました。
更にヘリの運航時間前だった事から近くの病院に搬送を決めました。
その後患者は重症である事が分かりました。
小林さんはこうした場合でも迷わず一報を入れてほしいと伝えました。
命を救うための地道な取り組みが続いています。
小林さんのもう一つの取り組み。
それは次の世代の救急医を育てる事です。
ここは研修医が次に働く病院を探すいわばドクターの就職説明会。
小林さんが若いドクターに求めるのは患者を救いたいという志だけです。
僕の時もこういった会話を30分したあとに「よし合格」って言われて「え何の事ですか?」「いやこれは試験だったんだ」とかって言われて。
小林さんが率いるチームのメンバーは19人。
トップレベルの救急医療を学びたいと全国からドクターが集まっています。
この春小林さんのチームに新しい仲間が加わりました。
ドクターになって7年目の渕上貴正さん30歳。
これまで富山の病院で救急医として働いてきました。
チームに加わって2か月。
渕上さんはこの日初めてドクターヘリに乗る事になりました。
新しい一歩を踏み出す渕上さん。
朝8時前。
当番のドクターはヘリの運航が始まる前に必要な機材が準備されているか確認する事になっています。
えっと…ヘルメットとかは…。
よしじゃあ先生それはとりあえず後にしましょう。
渕上さんはヘルメットを忘れていました。
そんな中…。
突然出動要請が入りました。
準備も整わない中出動する事になりました。
気持ちばかり焦りドアがなかなか閉まりません。
ヘリにはベテランとフライト経験の浅いドクターがペアで乗り込みます。
渕上さんは16年目の先輩ドクターとコンビを組む事になりました。
病院の外での治療は渕上さんにとって初めての経験。
次々と出される先輩の指示についていくのに必死でした。
フライトドクターとしての初日は5件の出動でした。
フライトドクターを目指し小林さんのもとにやって来た渕上さん。
その原点は富山時代にあります。
(サイレン)ある日渕上さんが勤める病院に交通事故の患者が運ばれてきました。
渕上さんが治療しようとした時患者は既に心肺停止の状態。
現場での救助に時間がかかっていたのです。
小林さんは渕上さんの初フライトの様子を気にかけていました。
ああそうですか。
ありがとうございます。
はい。
おはようございます。
おはようございます。
はいお願いします。
この日小林さんがコンビを組むのはフライト2回目の渕上さんです。
緊張を解こうとする小林さん。
(女性)着替えてすぐに。
うん。
なあ。
(女性)個別で。
うん。
出動要請が入りました。
2人が向かったのは病院から10キロの所にある小学校のグラウンド。
運ばれてきたのは食事中に意識を失った女性でした。
患者は病院に着き次第検査が必要な状態。
小林さんはその情報を病院に伝える役を渕上さんに任せました。
お疲れさまでした。
ありがとうございました。
豊岡で育った救急医が全国で活躍する。
それが小林さんの願いです。
先生どうぞ。
(取材者)どうでしたか?今日は。
頑張ります。
どうもこんにちは。
こんにちは。
どうも。
ご苦労さんです。
どうぞどうぞどうぞどうぞ。
こんにちは。
母親と自転車に乗っている時に転倒しドクターヘリで運ばれた…小林さんの治療のおかげで回復に向かっています。
それがもうああいうちゃんとして…
(取材者)どんな気持ちだった?あゆみちゃんは1か月ほどすれば大好きな保育園に行けるようになります。
今日もまたドクターヘリの要請が入ります。
一秒でも早く患者のもとへ。
小林さんの目指す高みはまだ先にあります。
2015/07/04(土) 10:05〜10:49
NHK総合1・神戸
ドラマチック関西「飛べ!命を救うため 〜ドクターヘリ 出動日本一の現場〜」[字][再]
1秒でも早く患者の元へ。時速200キロで救急医を現場まで運ぶドクターヘリ。現場では一瞬の判断が患者の命を左右する。命を救おうと奮闘するドクターたちの日々を追う。
詳細情報
番組内容
1秒でも早く患者の元へ。時速200キロで医師を患者の元へ運ぶドクターヘリ。全国の中でも日本一の運用回数を誇るのが兵庫県の豊岡病院但馬救命救急センタ−だ。指揮をとるのは小林誠人医師(46)JR福知山線脱線事故で日本初のトリアージを行うなど救命救急のスペシャリストだ。最先端の救急医療を学ぼうと小林の元に集う若い医師ら。一瞬の判断が命を左右する厳しい現場に向かい、日々奮闘するドクターたちの姿を追う。
出演者
【出演】北郷三穂子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
情報/ワイドショー – 健康・医療
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:57216(0xDF80)