(宏太郎)興味のある事。
グルーオンや原子などの物質を構成しているものや物性。
まあ物性物理学ですね。
ダークマターとダークエネルギー。
宇宙は無からか有からかどちらから生まれたか。
これは最終目標ですよね。
何も無いところって何が起こるんでしょう。
でも何かが起こらなかったらここは生まれないわけですよね。
宇宙は。
…って事はそれ面白くないですか?何も無いのに何かが生まれるって。
(宏太郎)
そんな僕が通い始めたもう一つの学校がある
この社会で生きていくためにデータを読み解く力は…。
なんとあの東京大学だ。
集まったのは不登校になったり集団行動が苦手な学校のはみ出し者たち
新しいものがどんどん生まれ古いものがどんどん滅びゆく中後世の人に読み継がれていくような小説を書きたいと思っています。
大人顔負けの3D動画を制作する中学生や小説家を夢みる小学生。
学校になじめなくてもどこか突き抜けている人たちばかり。
そんな僕らの隠れた能力を伸ばそうと東京大学が始めたのが異才発掘プロジェクトROCKETだ
これはなもとからあったサンプルプログラムをちょちょっと書き換えただけだ。
(宏太郎)ちょちょっと書き換えられるのがすごいと思います。
さすが君はよく分かってるね。
(笑い声)
ROCKETのリーダー中邑先生。
僕みたいなのを選ぶなんて先生も相当の変わり者だ
新しい学校って何なんだろうっていう時に誰も考える人なんていないんだよ。
常識から抜け出して考える人ってほとんどいない。
いいですか?
これから何が起きるんだろう。
僕らの授業が始まった
東京・駒場にある…この古びた研究棟が子供たちの学校。
異才発掘プロジェクトROCKETの校舎はかつてロケット技術の開発が行われていた場所だ。
プロジェクトを指揮するのは東大で人間支援工学を教えている中邑賢龍先生。
ROCKETの仲間は600人の応募から選ばれた15人。
小学3年生から中学3年生までが一緒に学ぶ。
半数以上が学校へは行っていない。
人づきあいが極端に苦手で発達障害と診断を受けている子もいる。
授業は月に1度数日間行われる。
(スタッフ)今日はこれです。
見た事ある?コウイカ!
(スタッフ)よく知ってるね!初めての授業の日彼らの前に突然示されたのは「イカ」。
(スタッフ)このイカを解剖する時に墨袋というのがあります。
「割らずに取り出せ」?
(スタッフ)そうです。
うわ〜!
(スタッフ)墨袋をイカから破らずに取り出して下さいね。
先生1つ問題があります。
オーノー!
(スタッフ)ごめんね私ちょっと冷たいんだけど。
黒いやつが透けて見えてるとかそういう事?この授業教科書やタイムテーブルが一切ない。
彼らに示されるのは「イカ墨を取り出しパエリヤを作る」というゴールだけ。
そこに行き着くまでの方法は自由。
タブレット端末や持ち寄った本を使い自分で調べ自分で考えていくのがROCKETのルールだ。
ざわついた教室にいる事が難しい子もいる。
そんな時は教室の外へ出て少しだけ休む事も許されている。
昔の人間は何でこれを食おうとしたんだか。
また破けた。
あ〜もう!宏太郎は小学生の時に「自閉症スペクトラム障害」いわゆるアスペルガー症候群と診断された。
無理ですこんなの!隣接しすぎ。
何で張りついてるのこんなに。
もうどこが何か分からなくなってる?分からない。
ヒイカで練習した?しましたよ!0.1人分しかまだ取れてないよ。
だって先生何これ?全然違うじゃん構造。
体の構造が違いすぎる。
宏太郎は予想外の事に遭遇すると感情をコントロールする事ができなくなる。
(スタッフ)大丈夫大丈夫。
とうとう何もできなくなった。
とうとう駄目になった。
でもここではパニックを起こしてもとがめられる事はない。
(宏太郎)ここから切っちゃう。
宏太郎は最後まで作業を続ける事ができた。
切るんだったらイカ刺しみたいに切る方がいいと思う。
イカ刺しってどういうの?イカ刺しってどう切るの?ただ細く切るだけ。
なるほど。
どのくらい細く?何センチ?え〜とね8ミリ。
もうパエリヤを無視してイカの刺身を作りだす子も。
ふだん?え〜とね…他に何するかなぁ。
15人それぞれが全く違うパエリヤを完成させた。
しかもここ見ましたか?芸が細かい。
イカって書いてある。
ほんとだ。
ROCKETは自分の特技や興味を自由に発揮できる場所。
中邑先生は個性豊かな彼らに居場所を提供しようとこのプロジェクトを立ち上げた。
子供たちの主体性を大切にする一方で中邑先生は必ず彼らが自分自身を客観的に振り返る時間を作っている。
自分ではどう思ってるの?俺も普通。
今日の話はその話なんだよ。
「普通」に関しては多分どこかで発信したと思うんですけど…なるほど。
あ〜もう!意見なんだそれは。
さあ。
すごいすてきな普通。
れいなちゃんは服装は変わってないよね。
ケイタロウは?そう変わってない。
おしゃれだよな。
分かる?人間って誰もが変わってるところがある。
ね?だからこのレッテルをはられるらく印をはられるというところが実は一番恐ろしいところなんだ。
みんなそうやって「変わってる人」というふうに「おいお前変わってんな。
じっとしてないし」ピタッ。
「れいなお前も変わってる。
授業中態度悪いし」。
ピタッ。
「リオお前野菜の事しかやらないから」ピタッ。
はっていくと「変人」「変態」ってこうやって何かシールはってたらもう世の中の人たちが「え〜!」って見るわけだ。
これはすごい恐ろしい事。
だけど僕たちもやっちゃってる事。
やってるやってる。
やってるね日向君だってやってる。
そういうふうに見たら実はみんなの事を悪く言う人の事をもうちょっと「う〜んこいつこうやって見てるのか」と言ってさめて見れるかもしれないし逆にそういう人の事を気にしなくてよくなるかもしれないなというふうに思う。
中邑先生が話した「変わっている」というレッテル。
宏太郎も幼い頃からこのレッテルに苦しみ続けてきた。
この日訪れたのは1年前に卒業した小学校。
恩師の谷江先生にROCKETに出会った喜びを伝えに来た。
ほんとお久しぶりです。
お元気でしたか?元気でした。
(宏太郎)うわ〜懐かしいですね。
僕のオルゴールの所に飾ってあります。
小学校時代人づきあいが苦手だった宏太郎に谷江先生はコミュニケーションの方法を教えてくれた。
(谷江)今はROCKETでどういう事をしてるんですか?僕には夢があって「宇宙が無から生まれたか有から生まれたか」というそれを解き明かしたいなと。
まあ知りたいというのが僕の適切な表現なんですけどただやっぱり分かってないっぽいなんでとりあえず解き明かしたいと。
前のように力が入ってないと言うのかなだいぶ楽な感じで暮らしてるのが伝わってくる気がします。
いい感じ。
あのころの飢えはまだ忘れないようにしたいです。
何を?飢えてる感じは忘れないようにしたい。
(谷江)何に飢えてたんですか?分かんない。
宏太郎がアスペルガー症候群だと知ったのは小学5年生の時。
それまで友達の輪に入ろうと必死に努力してきたが自分の気持ちをうまく言葉で表現できず同級生たちとの衝突が絶えなかった。
教師からは「この子はキレやすい。
将来犯罪者になる」と言われた事もあった。
今でも周囲から理解を得られない言動は多い。
宏太郎が「プシュプシュ」と呼ぶこの行動は興奮した心を鎮めるための大切な手段だ。
しかし中学の同級生からはいつも「気持ち悪い」と疎まれている。
僕友達をつくらなきゃという意識がすごく強かったんですよ小学校の頃。
それですごく頑張ってつくろうとしてそのためにいじめの対象になったりあと何ていうのかなサンドバッグって言うのか何て言うのか分かんないんですけどイライラした時に殴られる存在になっちゃったり。
そういう事がありましてそれがもう嫌で。
それにあまり友達をつくってもあまりためになんないだろうなというのもあって。
もう自分から友達をつくろうという気を基本的にあんまり起こさなくなって。
ROCKETで新たな課題が始まった。
グループに分かれてちょっとユニークな課題を成し遂げるという取り組みだ。
そのやり方を教えるプロジェクトを今から3つ提案します。
3つあるんだ。
「プロジェクト鹿」「プロジェクト茶」「プロジェクト椅子」。
みんなどれかな。
1番目。
2番目「プロジェクト茶」。
行きたい?これは四国の山の中に幻の半発酵茶というのがある。
行ってみたい人。
お〜すごいねこれ。
よ〜し。
「鹿プロジェクト」の課題は「グループで協力し鹿の角でナイフとフォークを作る」という事。
鹿の角をどうやって入手するかそれをどう加工するかは全てメンバーが共同で調べ実行していく。
(宏太郎)あとこれとか。
(坂本)これどうやって加工してあるの?薄く多分切って…。
どこを切ってるの?鹿の角の丸い部分をこうやって半分に切りましてちょっと。
ふだんは共同作業が苦手な子供たち。
でも個性豊かなメンバーが顔をそろえたこのプロジェクトでは何だか生き生き作業を進めている。
宏太郎率先して鹿の角を加工する業者へ電話を始めた。
あと加工の当日の時なんですけれども教えに来て頂けないでしょうか?いいよ。
分かりました。
ありがとうございます。
一方こちらは「お茶プロジェクト」。
ちょっと気になるメンバーがいた。
はい。
メンバーの中で一番年上なのにほとんど言葉を発していない永冨士陸玖。
陸玖が暮らすのは…人口1万5,000人ほどのこの街にある中学校に通っている。
登校をするのは月に数日ほど。
この日は1か月ぶりに授業に参加した。
入学して以来友達をつくろうと必死に努力をしてきた。
しかし共通の話題を持てる仲間には出会えなかった。
(先生)用意だけしておく。
鍵取ってくるから。
授業に最後まで参加できる日はほとんどない。
この日も2時間目の授業が終わると教室を出た。
別室を用意してもらい1人自習をする。
勉強はクラスでいつもトップクラスだった陸玖。
しかし運動が苦手だったり手先が不器用だったりして同級生たちにからかわれる事が多かった。
自信を失い次第に言葉を発する事が恐怖になっていった。
どうしたら同級生たちの興味を引ける存在になれるだろう。
そう思い始めたのが3D動画の制作だった。
映像を加工する技術はインターネットの情報を頼りに一から自力で習得した。
これは陸玖が卒業制作で発表した映画。
映像を通してふだん言葉にできない「仲間が欲しい」という思いを伝えたかった。
「どんな夢を見ていたの?」。
陸玖が所属する1か月後の「お茶プロジェクト」。
四国の山中にある「幻の碁石茶」をチームで協力して作るのが課題だ。
すごくいいものは蜂蜜のような甘い匂いがするんだって。
(一同)へ〜。
まずいものはそんな味がしない。
あとそれから碁石茶にもちゃんと…重宝できるちゃんとした見分け方もあるんだよ。
分かった。
分かったからその集めた情報を教えてくれよ。
だからその情報を今から…。
このプロジェクトの真のねらいはそれぞれの才能を社会に発揮していくために交渉力や相手を説得する力を身につける事。
でも陸玖は相変わらず言葉を発する事ができない。
しかも…。
うちだってちゃんと調べたんだ!そう甘く見るな!調べてきてくれた事はうれしいもんね。
もともとね碁石茶っていうのは飲むだけじゃなくて茶がゆにするために食べられてたんだよ。
だからもともと飲むためじゃなかったの。
なのにテレビでは飲むためというふうに言われてそのためにちょっと…。
不思議だね。
どうぞどうぞ。
個性の強い子供たち。
グループでの取り組みは大きな試練となっていた。
ROCKETの活動が始まって3か月。
メンバーの中に大きな変化が現れ始めた子がいた。
(取材者)名前は?ハッピーっていう名前。
ほんとは4匹生まれたんだけど他のは飼いきれなくてお友達にあげたけど1匹だけ残して…。
食いしん坊のハッピーだけ。
小学4年生の甲斐潤樹。
彼は生き物のスペシャリストだ。
今飼育に没頭しているのはなんと国の絶滅危惧種に指定されているオオイタサンショウウオ。
地元の水族館と協力しその知られざる生態をつぶさに調査している。
本来肉食だと思われていたオオイタサンショウウオだが潤樹は日々の研究で雑食である事を発見した。
潤樹は4歳の時に発達障害の診断を受けた。
聴覚が敏感で教室などにぎやかな場所にいると気分が悪くなってしまう。
小学校の入学式には参加ができず一人黒板で絵を描いて過ごした。
1年生の時はもう吐いたりとかしてたんですね。
最後はもう。
もう一生懸命おだてて連れていっても校門の所で2時間でも3時間でも座って動かないとか。
学校へ行かなくなるとそれがピタッと無くなったのでやっぱり学校があの不安定な状態をつくってたのかなと思って。
入学以来ほとんど学校へ通えなかった潤樹。
しかしROCKETに通い始めた時期から毎日ではないが学校に通えるようになったのだ。
そのきっかけとなったのがこのヘッドホン。
教室のざわつきが苦手な潤樹のためにROCKETの中邑先生が使う事を勧めたものだ。
更に中邑先生はノートの代わりにタブレット端末を使う事も提案した。
潤樹は同級生と同じスピードで文字を書く事ができない学習障害を抱えている。
しかしタブレットを使えば黒板を写す事に消耗する事はない。
ヘッドホンやタブレット端末などのテクノロジーの助けを得た事で今では潤樹は週3日ほど学校へ通えるようになった。
同級生たちの潤樹へのまなざしも随分変わった。
生き物博士!何?テクノロジーで潤樹を支えた中邑先生。
8年前から学校生活に障害を抱える子供たちをどう支援するか研究を行ってきた。
そして今障害を補うだけでなく子供たちの持つユニークな才能に目を向ける事も必要だと考えている。
学校の中で突き抜けた子供たちあるいはユニークな子供と言われる子供たちというのはやはり除外されていきますよね。
排除されていく。
その中で自信を失っていく。
その中で将来に対する不安を抱いていくという。
いやそうじゃなくてもいい不安を抱かなくてもいいという道筋を僕たちが見せる必要があると思うんですよね。
だからそういう子供たちを社会で抱え学校で抱えられる仕組みを考えていくというのがこの異才発掘プロジェクトになるわけです。
この日中邑先生が訪れたのは学校へ通えるようになった潤樹の小学校。
ROCKETが公教育と連携し子供たちを支えていける場になるよう学校へ理解を求めて回っている。
才能を潰さない教育というものをもうちょっとやっていきたいだけの事なんです。
恐らく校長先生はじめ現場の先生方もそうですよね。
同じですね。
個々の能力を最大限伸ばしたいというのはこれはもう同じどの子に対してもね。
ただ今の学校制度の中ではやっぱりできる事の限界がどうしてもあると。
新しいもう一つの…いわゆる学校を否定するのではなくて補完するような取り組みというのを社会の中に作っていきたいと思ってるんですよね。
それのパイロットスタディーだと思って頂ければいいなと思うんです。
ROCKETがスタートして4か月目。
グループで活動するプロジェクトはなかなか進んでいなかった。
この日中邑先生は人との向き合い方について話を始めた。
それでねちょっと聴いて下さい。
プロジェクトを進めていく上においてやっぱりこれある程度グループでやらなきゃいけない部分もあると思うんだよね。
みんないつも友達と常に一緒に仲良くやる必要はないと思うんだけど人に嫌な気持ちをさせる事は絶対やめてほしいと思う。
いいですか。
ちょっとね3回目このプロジェクトになるんだけどず〜っと見ててやっぱりやり過ぎるとか言い過ぎるという行動が何となくあるんじゃないかなと思う。
基本的に…分かります。
言われて傷つきます。
傷つく人がいる。
冗談が通じない人とかいる。
あそういうタイプ。
あ〜…という事は学校の先生が器が小さかったという事ですか。
例えばどういう場面があったの?それ。
小学校の時に先生に「そこの計算全部多分1個ずつずれて違います」って言ったら機嫌損ねたみたいな。
違ってたんだよな。
それを言っちゃったんだ。
ああ何かちょっとむかついた時とか。
勝手に言わないで下さい。
人間はさいいところがあるとか悪いところがあるとかみんな探して生きてるんだ。
じゃあ聞くよ。
世の中に良いところが一つも無い人がいると思いますか?いないと思います。
僕は良いところが一つも無い人に会った事があります。
知りたい?知りたい。
僕30年前ね…みんな精神病院って知ってるかな?心に悩みを抱えてひどい事を言う人たちがいっぱいいる。
そこに入ってる人たち。
実は当時はねもうほんとに閉鎖病棟ばかりで個室っていうのがあるんだ。
個室って小さな畳一枚ぐらいの部屋で鉄格子。
動物園の檻みたいになっててガチャーンって閉めるともう絶対出れない。
真ん中に何があると思う?トイレがある。
便器があるだけっていう。
例えばある人はさこの壁にガーンガーンガーンってぶつけていつも血を流してるんだよね。
もう人前ですぐ裸になる人もいる。
どこにでもウンチをする。
ウンチをこうやって手でこねる。
でもそれ認知症のあれありますよね。
それを食べる。
そのウンチのついた手でこうして「あ〜」とこうやって来る。
でも認知症でもありますよね?あるね。
今日はこの人おとなしいなと思ったら突然ボンって殴る。
ケガをする。
いいところがあるかな?ある。
どこがある?知らないけどきっとある。
うん。
みんなあると思って関わっていくんだよ。
僕のところの学生を連れてそこで実習をしていました。
学生はそこに行くとみんな怖くて震えるんだよ。
1週間後そう言った学生さんが涙を流してこう言いました。
「先生あの人生きてた」って。
分かる?「何でそう思ったの?」って言ったら食事の時に手をたたいた。
その瞬間にね「ああこの人生きてるんだって思った」って。
手をたたいたのが「いただきます」かどうか分からないけどそう彼女は感じたんだよね。
人じゃないんですか?人じゃないのか。
そうか。
その人たちは生きてるだけであって人じゃないと思う?はい。
みんなこの中でもさタイプの子とタイプじゃない子とか仲良くできそうな子となかなかどうも相性合わないなという子がいるかもしれない。
だけど別にその子と仲良く無理にしようとする必要はない。
いい?だけどその子を否定したりその子を追い出すような事はやらないでほしい。
それはとても大事な事。
それが唯一のルールかもしれないここの。
「好き嫌いを超えて人の存在を認める事の大切さ」。
そのメッセージはまだ宏太郎には届いていなかった。
ROCKETの授業から2週間後。
宏太郎の心を変化させる出来事が起こった。
(鈴の音)一緒に暮らしていたおじいさんが持病の心臓を悪化させ突然亡くなった。
(美保)宏太郎に…。
(宏太郎)これあれじゃん。
(美保)そう。
「いろんな自然を体験させたい」って言って。
(宏太郎)懐かしいな。
おじいさんはいつも突拍子もない言動をとる宏太郎に厳しく接していた。
あの年齢の人がね宏太郎みたいな子を理解するのはなかなか難しい事でもあると思うんですけど…。
でもここ数年は宏太郎がやっぱり言葉を発するようになって理解してくれるようになったという事でしょうかね。
(美保)やっと最近いい祖父だった。
それなのにな…。
(美保)随分怒られたけどね。
正直鬼でしたがね俺の中では。
(美保)そんな事ないよ。
俺の中では鬼だったですねちっちゃかった頃は。
おじいちゃんが竜になって変身して襲ってくるような夢を見たり。
そのぐらい怖かったですが。
苦手だった祖父の死に直面し心にある変化が生まれていた。
その事を宏太郎は中邑先生へメールしていた。
「こんにちは野中です。
祖父のいる集中治療室に入れてもらった時なんとも言えない涙がこみ上げてきました。
こちらの声掛けに反応せずたくさんの器具をつけてほとんど動かない祖父はモニターの数字上は生きているのに死んでいるような感じがしました。
祖父のおでこを触ったら暖かかったです」。
「『何もいいところがないけれど生きているだけで価値がある』という状態を実感しました」。
祖父の死から感じた「人が存在するという意味」。
中邑先生のメッセージが少しずつ響き始めていた。
「ああ人は生きてるだけで価値がある事が分かった」という。
まあすごいですよね。
だけど彼がその後に書いた文章が「だけどやっぱり意思を伝えられないという事は駄目だと思う」って。
…って僕にメールを送ってきたんですよ。
僕何て書こうかと思ったんだよね。
ひと言返事を返したんですけど「おじいちゃんはものは言わないけど君の心を動かした」。
「ものを言えなくても人を動かす事はできる」という事を僕は伝えたんですけどね。
それを彼がどう受け止めたかなというのは今度聞いてみたいと思います。
この春中学を卒業した永冨士陸玖。
小樽市内の進学校へ通い始めた。
新しい場所で大好きな映像制作について話せる仲間ができないか期待に胸を膨らませていた。
登校して間もなく。
陸玖が学校から出てきた。
(取材者)陸玖くん話しかけてもいいですか?どうされました?入学以来いまだに同級生と会話をする事ができないでいる陸玖。
ここ数日教室にいると気分が悪くなるようになっていた。
(取材者)どこですか?駐車場でしゃがみ込む陸玖から母はメールを受け取っていた。
「行きたくないでも行かなきゃいけない」。
陸玖は自分を必死に変えようとしていた。
グループでプロジェクトを進める活動はそれぞれのチームが2か月後の合宿に向け動きだしていた。
できないと決めつけるなら一生できない。
そうだ!各自高知まで行く方法と。
日程と…。
日程決まらないと飛行機取れないね。
便が何時に飛んでるかを。
そうだね。
あほんとですか?すげえ!あっほんとですか。
グループでの活動が始まって以来陸玖は初めて自分から提案をした。
すごい。
ちょっと見せて。
ここちょっと見せてもらってもいいですか?僕のまで!青木くんの。
うわ〜!陸玖はメンバーそれぞれの合宿地への交通経路や宿泊先の情報を事前に調べてきていた。
いいかもね。
いろんなルートがあった。
すげ〜!ありがとうございます。
じゃあこれを後で送ってもらおうか。
メールでね。
人が存在するという意味について考えを深めてきた宏太郎。
グループ活動の「鹿プロジェクト」をどうするか仲間たちとオンライン中継で話し合いを進めている。
鹿角なんですけど加工に関しては先ほども誰かが言ってましたが中身が「す」なんですよね。
だから加工はしやすいんですよある意味。
この数か月ROCKETの仲間と対話を重ねてきた宏太郎。
自分の事を以前よりも前向きに受け止めるようになっていた。
5月ROCKETがスタートして間もなく半年。
あんまり?夜怖いんだね。
陸玖には最近映像の制作を一緒にやろうという仲間が現れた。
インターネット上で知り合った札幌市内の大学生。
映画制作の仲間を求めるツイッターに陸玖が自分から参加を名乗り出たのだ。
陸玖はROCKETに選ばれて以来自分の持つ映像制作の能力をどうしたらもっと伸ばせるのか考え続けてきた。
この日陸玖と映画を専攻する2人の大学生が集まった。
制作する映画のテーマは「ネット恋愛」。
インターネット上での人間関係を肯定するか否定するか意見が対立した。
それは加藤くんの中では一般的じゃない?これはインターネットから中傷されるっていう…。
僕が見てるインターネットの現実と永冨士さんが言ってるインターネットの現実がちょっと違う。
それはどこの部分?ちょっと待って。
でもさその考えが違うのは当たり前なんだからそこをいちいち指摘していって直していったら…。
一般的なインターネットの使い方と違う感じがするんです。
陸玖は対立する議論の中で改めて自分自身を見つめ直していた。
中邑先生は大学生と映画制作を始めた陸玖からメールを受け取った。
「常に一人で何かをしていた僕は謙虚になりすぎていました」と。
ちょっと次に行こうかなという気になった感じがしますよね。
陸玖君に限らず多くの子供たちが自分はこれでいいんだろうかって悩みながらこのROCKETのメンバーになったと思うんですよね。
だけどやっぱり多様な友達が好きな事をやりながらそれが何か認められてる場所に少しずつ安心してきてるなというのは感じますよね。
僕は今来てる子供たちと楽しみながらね彼らが潰れないように。
僕は傷ついてもいいとは思ってますよ。
フォローしてあげれば。
そうやって「ああ面白かったROCKET参加してよかった」ってみんながね全員が10年後言えたら楽しいんじゃないですか。
やっぱりもう会えないんだなとかおじいちゃん頑張ったなという気持ちそういうものが一気に混ざり合ってやって来たんですけど。
まあ空っぽの中から急に現れたという感じですね。
だからおじいちゃんは死んでるのに君を動かしてるわけ。
それは何かって言ったら君とのず〜っと長いつきあい歴史があるんだよね。
13年です。
そう。
だからつまり君の心の中におじいちゃんがいるわけだ。
それが動かす。
「人間の才能は無限大だ」
僕らはここでいろんな体験をしながら外の世界に目を向け始めている。
ROCKETで過ごせる期間は5年。
まだほんの入り口に立ったばかり。
知りたい事学びたい事はとめどなくあふれてくる。
「不器用なぼくらの教室」。
挑戦は続いていく
2015/07/04(土) 00:00〜01:00
NHKEテレ1大阪
ETV特集「不器用な ぼくらの教室〜東大・異才発掘プロジェクト〜」[字][再]
東大先端科学研究所が去年始めた異才発掘プロジェクト。学校に適応できない子供たちを支え、新しい学びの場を提供する取り組みだ。子供たちはどう変わっていくのか追った。
詳細情報
番組内容
去年12月に始まった異才発掘プロジェクトROCKET。参加したのは発達障害などで学校に適応できず、不登校になったりいじめにあったりした子どもたちだ。しかし彼らはみな、大学レベルの数学や物理学をこなしたり、絵や小説、3D映像などの創作に秀でたりと、特異な才能を内に秘めている。中邑賢龍教授は「人間みんな違っていいんだ」と励ますところから始めた。居場所を得て生き生きと輝きだす子どもたち。その姿を追った。
出演者
【語り】坂本慶介
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
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