世界遺産登録「国に翻弄 歴史知って」 軍艦島元島民の坂本さん
「明治日本の産業革命遺産」で最も人気を集める長崎市の端島炭坑(軍艦島)をいち早く「世界遺産に」と声を上げたのは元島民の坂本道徳さん(61)=長崎県長与町=だった。坂本さんは5日夜、同市内で記者会見を開き「夢がかなった」と涙を流して喜んだ。2003年から続けてきた運動が実り「軍艦島は国のエネルギー政策によって廃棄された島。登録を機に、翻弄(ほんろう)された島民たちの歴史を知ってほしい」との気持ちを新たにした。
1966年、小学6年の時に家族で島に移り住み、高校卒業まで過ごした。閉山から25年後の99年、中学同窓会で島を訪れた。去った時のままの郵便ポストや、残されたノート、教科書…。当時45歳。郷愁が頭の片隅から離れなくなった。
「閉山で捨てた」という故郷を、その後もたびたび訪問。そこで出会った若者との会話やインターネットを通じ、島が廃虚として注目されていると知った。故郷を残したいと、会社を辞めNPO法人「軍艦島を世界遺産にする会」を設立。資料収集やシンポジウム開催に奔走する傍ら、軍艦島の周遊・上陸ツアーのガイドを2千回以上務めた。
「写真を撮るのをやめてください」。上陸ツアーの最後、坂本さんは必ず、こう観光客に呼び掛け、船のエンジンを止める。10秒ほどの沈黙の後、続ける。「これが人がいない音なんです」
明治以降、国内外の石炭需要をまかない、戦前戦中は鉱員たちが厳しい労働環境の中でも働き続けた。朝鮮半島や中国の出身者も一緒に働いていたと聞いた。戦後はエネルギー政策の転換で島民は退去を余儀なくされた。「人間のエゴイズムが詰まっているんです」
これからも坂本さんはガイドを続ける。「上陸者には島の向こう側にある歴史、環境、資源の問題を考えてほしい。観光のための世界遺産ではないはずだ」
=2015/07/06付 西日本新聞朝刊=