東日本大震災の被災地で、沿岸部から内陸部に転居した漁業者の「漁業権」を継続するどうか、各地で対応が分かれている。地元居住者にのみ沿岸漁業の操業を認める原則から転居者の権利を停止した漁協もあれば、一時措置として継続を認めた漁協もある。自宅周辺を住宅が再建できない「災害危険区域」に指定された転居者からは「権利の継続を確約してほしい」との声も上がる。
カキやホタテの養殖が盛んな岩手県山田町。養殖いかだが浮かぶ沿岸部周辺は、津波で流された住宅の跡地が並んでいる。「三陸やまだ漁協」(組合員約850人)では、震災後から今年4月までに、自宅を内陸部で再建した7人が漁業権を使えなくなり脱退した。
漁場から離れて住む転居者は清掃作業などに参加しにくくなる。同漁協の鈴木雄寿参事は「昔から浜を守る作業に参加した人にだけ操業が認められてきた。沿岸部から離れた人に権利を認めるのはおかしいと考える組合員は多い」と話す。
ウニやアワビ漁などを営む約1160人が所属する「宮古漁協」(岩手県宮古市)でも、4月までに少なくとも2人が引っ越しにより脱退した。 仮設住宅などの一時避難者には漁業権の継続を認めているが、災害公営住宅の建設や高台移転地の造成が進んでおり、「今後、脱退者が増える可能性もある」(寺井繁参事)という。
宮城県内31の漁協が合併して2007年に誕生した宮城県漁協や、福島県内の7つの漁協は、転居者にも震災前の漁業権を認める一時措置をとっている。
宮城県漁協は次の漁業権の更新時期に当たる18年に向けて意見集約を進めるという。福島県では東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で本格操業が始まっていないため、一時措置をいつまで続けるかの議論は進んでいないという。
震災前はホッキ貝漁をしていた福島県南相馬市の男性(66)は「浜を離れてもずっと漁業権が使えると早く表明してほしい」と訴える。男性は沿岸部にあった自宅が津波で流失し、現在は内陸部の借り上げ住宅に避難中。市から「災害危険区域」に指定された元の住所には戻れない。
近所の顔なじみと一緒に集団移転すれば、漁場から車で約1時間かかる場所になり、漁業権が認められる地域の外になってしまう。それとも漁業権が使える移転先にするか「今はまだ決断できない」と頭を抱えている。
▼漁業権 一定期間、一定水面において排他的に特定の漁業を営む権利。定置網や養殖など沿岸漁業が対象となる。水産庁によると、海岸を管理する漁村が独占的に操業してきた江戸時代の慣習が原型。漁業法と水産業協同組合法に基づき、各漁協は漁業権を使う条件を内部規則で設定し、漁場近くに住むことなどを求めている。
水産庁は2013年、一時避難している漁業者が漁場から離れて住んでいても操業を認めるよう各漁協に提言。各漁協は内部規則を改定するなどした。ただ、内陸部に転居した漁業者については「個別事情に応じて考えなければならず、画一的な指針は示していない」(漁業調整課)。
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