世界遺産:「明治日本の産業革命遺産」登録決定 ユネスコ
毎日新聞 2015年07月05日 22時41分(最終更新 07月06日 02時33分)
ドイツのボンで開催されている国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は5日午後3時(日本時間同10時)から、日本が世界文化遺産に推薦する「明治日本の産業革命遺産」について審議し、登録することを決定した。
当初、審議は4日に予定されていたが、意見陳述の内容などを巡り日本と韓国の間で調整がつかず、新規案件の審議期間の最終日である5日に延期された。
韓国は産業革命遺産について「戦時中、朝鮮人が強制徴用された施設がある」として登録に反対していた。6月21日の日韓外相会談で、互いの推薦案件の登録に向け相互協力することで合意していたが、今回、徴用をどう説明するかで日韓間の協議が長引いたとみられる。
韓国政府は戦時中、産業革命遺産の23施設のうち7施設に朝鮮半島出身者約5万8000人が送られ、働かされたと主張。施設に関して、徴用に言及する形で説明することなどを求めていた。一方、日本は「1850年代から1910年までが遺産の対象年代で、時代が異なる」と反論し、日韓外相会談まで主張は平行線をたどっていた。
世界遺産委員会は日韓を含む21カ国で構成される。審議は通常、推薦国が説明した後、他の委員国が意見を述べ合う。韓国メディアの報道によると、韓国側が産業革命遺産に対し発言する内容に日本側が反発していた。
一方今回、韓国が推薦する「百済歴史遺跡地区」は4日に登録が決定した。審議の際、日本代表は全面支持を表明した。
産業革命遺産は、通称「軍艦島」で知られる「端島(はしま)炭坑」(長崎市)▽薩摩藩が手がけた機械工場や反射炉の遺構で構成する「旧集成館」(鹿児島市)▽幕末に実際に稼働した反射炉で国内で唯一現存する「韮山(にらやま)反射炉」(静岡県伊豆の国市)−−など、日本の近代工業化を支えた炭鉱、製鉄などの23施設で構成される。
今年5月に世界遺産への登録の可否を調査する諮問機関「国際記念物遺跡会議」(イコモス、本部・パリ)が「登録が適当」とユネスコに勧告した。各国が世界文化遺産登録に推薦できるのは年に1件。今年の日本の推薦を巡っては、内閣官房が「産業革命遺産」を推し、文化庁は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎、熊本両県)を主張。2013年9月に菅義偉官房長官が「政治判断」で選んだ。「長崎の教会群」は16年の登録を目指している。【三木陽介、ボン中西啓介】
◇世界遺産
ユネスコの世界遺産条約に基づき、文化遺産や自然遺産を人類全体の財産として保護する制度。昨年までに文化遺産779件、自然遺産197件、複合遺産31件の計1007件が登録されている。各国が推薦し、イコモスの勧告を経てユネスコ世界遺産委員会で審議される。普遍的価値や保護管理体制があることが条件。近年は審査が厳しくなり、2014年から文化遺産の推薦は各国1件に限定されている。