現在、中高生をメインとして人気がある「ライトノベル」。その最大手レーベル「電撃文庫」の編集長、三木一馬氏に、今回は様々な媒体に作品を展開する、メディアミックスについて取材させていただいた。
2015年2月
取材・文/山﨑 裕太 協力/波戸元 克也
――:担当なさっている作品の中でアニメ化、ゲーム化、コミック化は鉄板だと思うのですが、やはり作品によって向き不向きがあるのでしょうか?
三木編集長(以降、三木):そうですね。僕の担当している作品でも当然向き不向きはあります。担当作品をどういった読者に向けて作っているかというのが、担当編集の脳内には戦略としてあるはずで、その方針の延長線上にいろんなメディア展開をしていく……というイメージでしょうか。
――:それは、やはり客層によりけりということですか?
三木:この本を誰に読んでもらいたいかということを普通なら考えていると思うんです。でも、いざ編集者として作り手に回ったときに、それを考えられない人が結構多いように思います。 ちょっと業界批判とか、後輩批判みたいに聞こえますが(笑)、その読んでもらいたい読者に向ける、というイメージですね。読書というのは能動的なアクションであって、書店などで手に取らないとその作品とは出会えません。そうなると、読んでもらいたい人に知ってもらうにはどうするか、がとても重要と言えます。本の存在を広く知ってもらって、その中の1割でも2割でも、面白いなと思ってくれる人たちに届くように分母を広げる作業が、メディアミックスなんじゃないかなと思います。
――:目に入る機会を増やすためにメディアミックスをするのですね。
三木:そうですね。小説という媒体の市場はそれほど広くありません。ただ作品の面白さは、どの業界にも負けていないと思っています。たとえば今も映画原作として小説はバンバン扱われていて、やはりそれは物語の質が高いから、ということも言えるはずです。ですから、自分としてはその優れた物語をより多くの人に知ってもらうために、メディアミックスをしています。
――:電子書籍などの配信もその役割を担っているのですか?
三木:これはあくまで個人的な意見ですが、電子書籍化はメディアミックスの中の1つだと思いますね。例えば、著名人が本を出すとなった時に、Twitterでの宣伝を見て、初めて本の存在を知った人がいるとします。ずっとTwitterに慣れ親しんでいたその人が本を買って読んでみようかなと思った時に、電子書籍が発売されていたら、きっと電子版を買うと思うんですよね。ただそうじゃない人たち……もともと紙の電撃文庫を買ってくださっている皆様は、やっぱり物理的な本として求める傾向も強いと思っています。いまも専門店では特典が好評ですしね。なので、その売りたい本がどちらの客層がメインかということを考えることが大事なのだと思います。
――:アメリカのアニメエキスポに、『アクセル・ワールド』や、『ソードアート・オンライン』などをお書きになっている川原礫様と行かれたそうですが、海外の人々は日本の文庫作品にはアニメやコミックから入る人が多いのでしょうか?
三木:完全にこれはアニメからですね。これは当然違法なのですが、アジアと一緒で、人より早く映像を見て、ファンになった有志が自分たちで字幕をつけてアップロードするんですよ。最近になってようやく、『ソードアート・オンライン』などの文庫の英語版も発売され始めてきています。「アニメエキスポ」とか、「オタコン」といったイベントに来るような方々は、まだ英語版になっていないところまで知っていて(笑)。そんなコアなファンたちが集まってイベントを企画し、日本からゲストとして呼んでいただいたんですね。だから僕が行っても、僕の担当作品を全部知っているんですよ(笑)。アニメ『ソードアート・オンライン』の関係で行ったんですけれど、『禁書目録』を知っています、とか『俺の妹』すごいです、などと話しかけてくれて、本当に詳しかった。そんなコアなファンも、はじめの導入はアニメなんですよね。日本の深夜アニメ帯の作品は、海外では一つの文化として成り立っていると思います。そのアニメの続きを原作で読みたいという人たちに向けて、海外版を作っています。
――:電撃文庫の編集の方は、メディアミックスをする際、渉外としての役割を果たすと聞きました。何か気をつけている点などありますか?
三木:メディアミックスはロングスパンで動いていて、アニメだと完成まで1~2年はかかるんですが、その中でいろいろなジャッジをする時があるんです。どっちを取ろうか考える時に、自分が届けたい読者に楽しんでもらえるよう方向はどっちだろう、と気をつけていますね。僕の担当だと中高生の読者の方々に向けて発信したい作品が多いので、「俺もレールガン撃ちてぇ!」とか、学校で遊んでいるときに「こういう時に、上条さんがいてくれればいいのに」などと思うシーンを想像しながら、方向性を決めています。