画期的なHIVワクチンを完成させたかのように装い、巨額の研究費を詐取したとして、米国に住む韓国系男性に実刑判決が下された。
今回、懲役4年6カ月の実刑判決を受けたのは、アイオワ州立大学の教授だったハン・ドンピョ被告。被告は、2009年から2013年にかけて、人間の抗体とウサギの血を混ぜ、HIVワクチンの研究結果を捏造していた。
この研究でハン被告らチームが得ていた研究費は、数百万ドルに及ぶという。事件発覚当初、ハン被告のチームメンバーはそのことを知らず、秘密裏に事を進めていた被告は責任を取り、大学を辞職。また、米・監査団体(ORI)から、研究資格停止3年の処分を受けた。
ただ、事件はここで終わらなかった。アイオワ州選出のチャールズ・グレスリー上院議員(共和党)が、「数百万ドルの血税を横領したのに、処罰が甘すぎる」と激怒。ORIに抗議の書簡を送ったことで、連邦警察が捜査に着手し、今回の判決に至った。
この事件について興味深いのは、同事件を通じて「これまで米国では、科学者が厳罰に処されるということが少なかった」と、メディアを中心に強調されている点だ。
同事件を報じたワシントン・ポスト紙は、「米国で、研究捏造のために科学者が処罰されるのは非常に珍しい」と指摘。一方、ニューヨーク大学・メディカルセンターのアーサー・キャップラン氏は、「この事件を契機に、研究者たちは、欺瞞が刑事処罰につながるということに気づくだろう」としている。
一人の韓国系男性が起こした捏造劇が、米国全体における科学者の不正に対して、厳罰化の道を開きそうな気配である。
ところで、素人としては、ウサギの血で研究結果が捏造できるという話は少し驚きである。数百万ドルの研究費が下りるのであれば、審査やチェックも厳しいはず……。常人には、とても理解も想像もできない世界の話である。
余談だが、韓国および世界を揺るがした捏造事件のひとつに、2005年に起きた黄禹錫教授・ES細胞論文不正事件がある。当時、捏造がバレて死にそうな顔を浮かべていた黄教授だが、現在ではピンピンしている。1週間前には、米国で新たな幹細胞の特許を取得したともいわれており、その笑顔がメディアに取り上げられていた。
日本では、捏造事件があれば社会的に抹殺される。もしくは、自ら死を選ぶ科学者がいるほどである。一方、韓国の捏造事件の当事者たちは、数年間の清めの期間を経て、何事もなかったかのように社会復帰することが普通なようだ。文化の違いというべきか、価値観の違いというべきか……。
ただ今回、韓国系科学者が判決を受けたのは米国。果たして、大捏造劇を演じたハン被告の運命やいかに!?
(取材・文=河鐘基)
※画像はイメージ(Thinkstockより)