明治産業革命遺産:審議延期…誤算に動揺広がる日本政府
毎日新聞 2015年07月05日 09時08分(最終更新 07月05日 11時04分)
日本が世界文化遺産に推薦する「明治日本の産業革命遺産」の審議が5日に先送りされた。韓国側には「戦時中に朝鮮人が強制徴用・労働させられていた」との内容を、展示物に反映させたい思いが強く、最終局面まで調整が難航した。
日本政府は、6月の日韓外相会談で産業革命遺産の登録に向けて両国が協力することで「完全に一致」したとして登録はほぼ確実とみていただけに、登録延期の事態に対し、「合意したと思っていたのに」(政府関係者)などと動揺が広がっている。
「外相会談で握手したが詰め切らないまま、ふたを開けてみたらこうなったということだ」。日韓議員連盟関係者は4日夜、日本にとって「誤算」となった展開についてこう分析した。外務省関係者は「日本としては誠意を尽くしてきたのに」と嘆いた。
5月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関「イコモス」が登録を勧告後、韓国が登録に反対を表明したことに危機感を募らせた日本政府は、外務省や内閣府などの副大臣、政務官らを世界遺産委員会の委員国に派遣し、多数派工作を始めた。同時に韓国側との妥協点を見いだすため、2度の外務省局長級協議を実施。韓国側は、登録の際に強制徴用の歴史を反映するなどの妥協案を示し、反対姿勢を弱め始めた。政府は杉山晋輔外務審議官を韓国に派遣して調整させた上で、6月21日の岸田文雄外相と尹炳世外相による日韓外相会談で一気に実質合意へと動いた。
しかし7施設での朝鮮人の強制徴用に関する表現方法などは固まっておらず、その後も事務レベル協議を継続した。強制徴用を巡って、世界遺産委員会で日本側と韓国側の双方が意見を陳述することなどを検討してきたが、韓国側の表現ぶりが受け入れられず、詰めの調整は思うように運んでいなかったとみられる。
7月1日には杉山外務審議官が最終調整のため再度訪韓。2日に政府は日本代表団メンバーに選ばれていた加藤勝信官房副長官の義姉で都市経済評論家の加藤康子氏を内閣官房参与に起用した。加藤氏はボンで韓国側との意見調整に関わっているほか、投票になった場合も想定し、委員国に対する働きかけを行っているという。【小田中大、加藤明子】