■鳥とヒト、それぞれの二足歩行
駅前や公園で、「ぐるっぽぐるっぽ」とぼやきながらたむろしている。首のあたりがぎらついている。そして、その首を振って歩く。私はやつらがやや苦手だ。やつら——そう、ハト。
苦手な理由はまさに、右に挙げた特徴のせいだ。襲撃されそうで、なんかこわい。しかし本書を読み、私の恐怖心は、かれら(ハト)に対する無知から来るものだったのだと、深く反省した。ハトが首を振って歩くのは、我々人類を威嚇するため、ではなかったのである!
じゃあなぜ、首振りをするのか。詳しくはぜひ本書をお読みいただきたいが、おおまかに言うと、(1)目(2)歩きかた(3)食べ物が関係しているようだ。著者は、鳥類と人類の骨格を比較し、ハトをはじめとするさまざまな鳥を観察して、門外漢にもわかりやすいよう丁寧に研究成果を説明してくれる。文章にユーモアがあふれ、「変」としか言いようのない写真のキャプションもちらほらあるので、油断できない。思わず噴きだすこと多数で、楽しい読書の時間を味わえた。
驚くべきことに、ハトの首振り研究は1930年までさかのぼれるそうだ。人類(の一部)は八十年以上も、ハトの首振りに魅了されつづけてきたのだ。「ほかにもっと研究すべきことがあるんじゃないか」と最初は思ったのだが(失敬)、読み進むうちに、「歩く」ってなんだろう、と考えさせられた。「つねに二足歩行をする動物は鳥とヒトだけ」とのことで、言われてみればそのとおりだ! しかし鳥の場合、ハトとスズメでは歩きかたが全然ちがう。ふだんなにげなく行っている「歩く」という行為は、まだまだ謎に満ちた、非常に奥深いものなのだ。
本書を読んで以降、私はハトに親しみを感じるようになった。それぞれのスタイルに合った歩きかたで、仲良く駅前広場を横切ろうぜ。
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岩波科学ライブラリー・1296円/ふじた・まさき 74年生まれ。沖縄県立博物館・美術館学芸員(人類学担当)。